今年の初頭にFOOD & the CITY研究会を立ち上げた。
ことの発端は、僕が2021年8月に執筆した新建築.ONLINEの記事「屋外の飲食空間」を、新建築社の社長に読んでいただいたことがきっかけだ。記事のことでお話が、と霞ヶ関のオフィスに呼び出され、てっきり怒られるものだと思ってびくびくしながら伺うと、面白いから何かやりませんか?とご提案をいただき、それなら是非にと、企画がスタートした。
それから半年間、やるといっても何を?というところから打ち合わせを重ねて企画案を揉み、最終的には「都市と(建築と)食」をテーマとして、研究とデザイン及び実践を横断するようなかたちの研究会を立ち上げることとなった。どうせやるのであれば、単発のイベントなどではなく、継続的に続けて成果が蓄積となるようなものとしたかった。また、食という多くの人が馴染みのあるテーマで業界の外とも関係するようなものとしたかったし、建築や空間といったことだけでなく生産、消費、流通、環境など、さまざまな領域に知見を広げるものとしたかった。そして、ここで得られた成果を持って、いろいろな業界に一緒に何か面白いことをやりませんか?と飛び込んでいけるような、そんなものとしたかった。
メンバーとしては、まず早稲田大学准教授の小林恵吾さんと、佐賀大学准教授の宮原真美子さんに真っ先に声をかけた。今後テーマの広がりに応じてメンバーや執筆者は増えるかもしれないが、同世代の建築家で、設計や計画と研究を両立し、幅広い知見を持つふたりとチームを組めば面白いことができるに違いないと考えたからだ。
研究会には早稲田大学と佐賀大学の大学院生も参加し、総勢20名ほどで活動を開始した。まずはどのようにして食と都市というテーマを掘り下げていくべきか、さまざまな事例を持ち寄り、テーマ案を重ねて議論した。
たとえば、深刻化する地球温暖化問題を背景に、食材の生産にかかる水やCO2排出量といったコストを見直す研究があるが、それを建築と関連させて何か考えられないか。国によっては豚を養育するためだけの高層アパートが出現しているが、そういった事象は何を意味するのか。あるいは、食の生産によって森林伐採が進むといった問題の糸口になるだろうか。ハイテクな養殖や工場栽培の最前線はどうなっていて、それは生産施設というビルディングタイプにどのような影響を与えているのだろうか。そもそも食材の保存技術が都市を大きく進化させてきたのではないか。食がつくるコミュニティの姿を描けないか。都市の屋外空間ではどのような法体制をつくるのがよいのだろうか。世界の先端はどうなっているか。ビーガンなど、食のイデオロギーは時代によってどのように変化してきたのか。
そんなテーマで研究を始めた(ばかりであるから、まだ何もまとまった成果はない)のだが、それと並行して、実践編として何かを実際につくってみようという話があった。この研究会の特徴として、研究だけでなく設計・提案までをセットで行おうというところにあるのだから、研究の成果をもって何かカタチを提示するというのは自然な流れだ。是非とも実現したい。と考えていたところ、今年の瀬戸内国際芸術祭に合わせて小豆島で何かやってみないかという話が浮上した。
新建築社は近年、日本の各地に「ハウスプロジェクト」として、既存家屋を建築家が改修し、ストックの活用をそれこそ「実践的」に模索している。そのひとつが小豆島の坂手にある「小豆島ハウス」で、同世代の建築家ユニット砂木(木内俊克さんと砂山太一さん)が設計をし、瀬戸内国際芸術祭のオフィシャルなコンテンツとして夏会期(2022年8月5日〜)からお目見えの予定だ。小豆島ハウスの裏庭や屋外部分にスペースがあるので、ここに何かつくるのがよいのではないかという話が急遽決まり、研究会を立ち上げたか、立ち上げる前か、というタイミングで、まずは現地を見るべく木内さんと一緒に弾丸で(弾丸すぎて木内さんは帰路の新幹線を逃すなどしている)小豆島に飛んだ。
*フードトラック企画は後発ということもあり、瀬戸内国際芸術祭の公式プログラムではなく、「小豆島ハウス」に付随したプロジェクトとして実施される。
まだ何も決まっていない状態にも関わらず、枠組みだけ急速に決まり始めたことに若干焦りながらも、せっかくいただいた貴重な機会を活かすべく、小豆島にフードトラック(この時点では何をやるかも未定だった)をつくるプロジェクトが始動したのである。
本連載は全10回を予定、次回以降、FOOD & the CITY研究会で取り組むことになったこのプロジェクト「TRACK/TRUCK」の完成(完走?)までのプロセスをお伝えしていきたい。ちなみに、現時点では完成するかどうかの目処はまだ付いていないけれども…。