紆余曲折あったものの、なんとか目標としていたフードトラックを、小豆島に開業することができた。しかし、ここからがこのプロジェクトの本番である。通常の飲食店を設計することは僕たちも普段業務として行っているが、自分達でも営業に関わってみて、そこからのフィードバックを今後の設計・研究に活かすというのが今回のプロジェクトの真の目的だfig.1。
何をやるべきかゼロの状態からスタートしfig.2、さまざまな議論の中で少しずつ方向性が固まっていくプロセスは、手探りでやってみたからこそ実感できたエキサイティングなものであった。と同時に、さまざまなハードルがあり、その各種の制約が、われわれが社会で見かけるパターンへの集約を誘導する様を感じることができたのは、苦しくもあったが収穫であったfig.3。
そもそも、営業には保健所の営業許可が必要である。通常の店舗型の「飲食店営業許可」に加え、お祭りの屋台で焼きそばを売るような「露店営業」や「短期営業」、いわゆる海の家タイプの期間限定「短期季節営業」、調理を伴わない「移動販売」、自動車を改造したいわゆるキッチンカーの「自動車営業」などの可能性があり、各種検討を行った。
露店営業
カウンターとテントなどの屋根を組み立てる簡易な屋台でOKだが、下ごしらえはNGで揚げものの場合は揚げるだけの1工程のみ。「直前に加熱処理をしたものをカウンター越しに渡す」ことだけが可能である。焼きそば、お好み焼き、フランクフルト、唐揚げ、ポテト、磯部焼きなど、いわゆる祭りの屋台そのものだ。例えばサンドイッチなどは、加熱処理が施されていないため許可されない。構造としては床がなくてもよい(芝生や土の場合はシートを敷くことが求められる)、厳密に区画する必要がない(テント屋根やカウンター部をビニールシートで覆うといったものもOK)などやりやすさはあったが、1工程のみ下ごしらえNGというのがネックだった。
短期営業
露店営業同様のレギュレーションで、10日以内の許可。露店営業に比べて申請費用が安い。移動先を複数申請出しておいて、移動しているように見せかけるというトリッキーな案も考えたが、汎用性に乏しいので見送り。
短期季節営業
いわゆる海の家。上記2つに比べると多少の緩和はあるが一般の飲食店としての施設要件が求められる。移動は不可だが、毎年同じ時期(1年間のうち申請した4カ月限定、申請から5年間)に建てることが可能。下ごしらえはOK、提供品目に制限なしの代わりに、通常の飲食店同様、上下水道接続が必須などといった条件が少し厳しい。
移動販売の応用
食品の販売には許可が必要ではない。なので、どこかで製造した食品を、フードトラックではただ販売するだけという可能性も議論された。いわゆる「BBQ方式」、つまりパック詰めした肉・野菜を「販売」し、お客さんが焼くなり調理するという方向性だ。しかし、食品は殺菌されたパック詰めや瓶・缶詰であることが前提であり、食肉を扱うには別の許可が必要である。そもそも販売する食品をつくるのには製造許可が必要で、その方が飲食店許可を取るよりも厳しい施設基準が必要であることが分かり断念。
小豆島ハウスを飲食店化
僕らは屋外での飲食を前提としていたのでモバイル性や仮設性にこだわっていたが、扱いとしては小豆島ハウスを「飲食店」として整備し、その屋外席という扱いで営業する案も浮上した。敷地内で営業する上では制約も少なくやりやすいのだが、移動するというコンセプトが成立しなくなるのに加え、すでにリノベーションが進んでいた厨房(共用スペースの一角に簡易なキッチンが計画されていた)を飲食店対応とするには、区画、天井の設置、排気口などの設備の追加、シンクや手洗いの追加、グリーストラップ、そのほかさまざまな追加投資が必要となり、むしろ高コストなためこちらも断念fig.4。
自動車営業
いわゆるキッチンカーであるが、トラックの荷台や牽引車の上に小屋を建てるなどもOK。キッチン部分は区画及び「清掃のしやすい内装」が必要で店舗型の飲食店と原則同じだが、給湯設備不要、給排水はタンク搭載でOKといった点は、移動に特化したレギュレーションであった。水タンクの容量で売れるものが変わり、200Lであれば提供品目に制限なしで下ごしらえもOKだが、40Lの場合は1品目(1工程)のみ、今回採用した80Lでは2品目(2工程)で下ごしらえは原則NG。下ごしらえができる厨房を別途用意することを前提としながら、例えばキッチン内でレモンをカットすることはNG(1工程とカウント)だが、カットしたレモンを添えるくらいであれば0工程と見做せるということで、2工程分の調理が可能なので、若干工夫の余地があるようだった。もっとも、ドリンクの提供も1工程とカウントされるので、料理+ドリンクを提供しようとするとそれで制約は上限に達する。
以上のような条件を整理し、最終的には自動車営業で進めるのが最適かという結論に至った。そうはいっても軽トラックの外寸1,900×1,400mmという最小キッチンに200Lの水タンクを2つ(給水・排水)入れるの必要設備的に難しく、タンクは80Lとした。また、軽トラックの積載荷重が350kgなので、200Lのタンクに水を入れるとなると荷重がオーバーとなる。
*営業区域・条件によっては扱いが異なるため上記によらないことも多く、営業・出店を検討されている方は、所轄保健所との打ち合わせを繰り返し行ってください。
今回僕たちは、何を売るか、というところから並行して営業形態を検討していたため、「移動販売」でできることは何か、「露店営業」だとこういう案はどうか、などとさまざまな議論をしながら進め、柔軟にアイデアを膨らませつつも、結果的には結論を導くのに時間がかかった側面はある。が、通常のプロセスで移動型の飲食店を計画する場合、「自動車営業」いわゆるキッチンカーという選択肢以外、制度上取りにくいことは、実は気づいていた。区画の有無、給排水設備、シンクの数、許される調理行為など考えると、自然と自動車営業以外の選択肢が削られていく。都市の柔軟性を考えると、どんどんキッチンカーが増えて街が面白くなるとよいと思いつつも、実際にそれ以外の選択肢がほとんど消されているということを実感すると、キッチンカーが一般化した都市の風景を、純粋には見られなくなるものである。例えばコペンハーゲンのストリートフード・マーケットfig.5fig.6の簡易な屋台から、凝ったモダン北欧料理が出てくるような体験は、日本では実現できないというもどかしさがある。
ということで結局「自動車営業」に落ち着いた。小豆島は広いので自動車が必須でありながら、細い道が多く、軽自動車がほとんどを占める。一時期厨房のサイズの制約から、もう少し大きい2tトラックを使用することなども検討したが、営業を始めた今となっては軽トラック以外の選択肢はなかったな、と実感する。2tトラックだったらそもそも敷地に入れていない。
そんなこんなで、今度は軽トラックをどうにかして買わなければならないということになり、中古車屋さんで軽トラを見るために、小豆島に再度飛ぶのであった。