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2022.08.06
Essay

フィッシュ&チップスを売り始めました

小豆島にフードトラックをつくる #03

中村航(Mosaic Design)

食と都市について研究するFOOD & the CITY研究会。その活動の実践編として、瀬戸内国際芸術祭2022に合わせ、小豆島でフードトラックをつくり、実際に営業してみることになった。建築家たちが、どのようなことを考えながら企画・設計・制作を進めていくのか、そのどたばたプロセスの記録。果たしてこのプロジェクトは無事完成するのだろうか…?

FOOD & the CITY研究会の、あくまで活動の一環の実践編だったはずが、ほぼすべてのリソースを注ぎ込むこととなった「小豆島にフードトラックをつくる」プロジェクト。さまざまなトラブルを乗り越え、瀬戸内国際芸術祭2022の夏会期開会に合わせ、8月5日にフィッシュ&チップスのフードトラック営業を開始することができたfig.1

前回、さまざまな議論を経て、トラッキング(track)とフードトラック(truck)をダブルミーニングとしたアイデアに辿り着くまでを記した。われわれが普段口にするさまざまな食材は、世界のあらゆるところで生産され、加工され、輸送され、小売店や飲食店を通して消費される。その過程には、材料費や人件費、輸送費といったコストだけでなく、生産過程における水の使用量やCO2排出量、必要な飼料、廃棄などさまざまなコストがかかり、日常生活ではそれらを感じなくてよいようにシステム化されているfig.2。環境問題がより深刻化する今、利便性の反面、現代社会においてブラックボックス化された「隠れたコスト」を意識し直す必要があるのではないか。たとえば牛肉の代替肉が開発されている背景には、牛肉の生産過程において消費される水や飼料がほかの畜産に比べて大きく、持続可能ではないと見なされていることがある。
今回は、そのような食材に関する隠れたデータを食事を楽しみながら体感できるフードトラック、というのがメインのコンセプトとなった。名前もズバリ「TRACK/TRUCK(トラック・トラック)」fig.3fig.4

それを実現するカタチとしては、シンプルだ。軽トラックの荷台に保健所の設備要求を満たす最小限の「キッチンユニット」を搭載し、飲食店営業許可を取る。トラックの長い荷台に見立てたヴォリュームの「アウトドアダイニング」を設営し、そこで飲食をしながら、食材についてトラック(track)したデータを展示するというものだ。

もうひとつのコンセプトとして、どんなテーマ・場所・業態にも応用が効く「普遍性」と、小豆島という地域でやるからにはそれを活かす「地域性」の両立がある。「TRACK/TRUCK」は、さまざまな業態において実現可能であるので、いわば仕組みのハコとして機能し、そこに地域性を付与していく。小豆島で見られる魚や野菜を干す干網を全面的に使用しfig.5、提供する食は島の漁業を盛り上げたいという本田義男・美咲夫妻(ata rangi)の協力もあり、地元で採れた新鮮な食材のみを使用したフィッシュ&チップスとしたfig.6

キッチンユニットは軽トラックで自走可能なので、「小豆島ハウス」そばの空き地を拠点にしつつも、時折遠征することを計画している。その際、遠征先の環境に柔軟に適応できるように、トラックの左右どちらが表(売り場)になってもよいようなデザインとし、アウトドアダイニングも長さを調整して移動・設営が容易となるように設計した。

夏会期のスタートと同時に昨日なんとかオープンはしたが、まだまだこれからだ。営業を進めながら、改良を重ね、少しずつよくしていきたい。そして、営業中に観察されるさまざまなアクションも、なんらかのカタチでトラッキング(track)していきたいと考えている。営業することで見えてくる事柄を蓄積し、なんらかの知見を得るのがこのプロジェクトのさらに裏のコンセプトでもある。

それはともかく、シェフのつくる小豆島の地元で採れた新鮮なタイとじゃがいもを使ったフィッシュ&チップス(タコや夏野菜も楽しめる)が絶品なので、小豆島にお越しの際は是非お立ち寄り頂けたら幸いですfig.7

中村航

1978年東京都生まれ/2002年日本大学理工学部建築学科卒業(高宮眞介研究室)/2005年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了(古谷誠章研究室)/2008年同大学博士課程単位取得退学/2007〜09年同大学理工総合研究所助手/2010〜16年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教(隈研吾研究室)/2011年博士(建築学)号授与/2011年Mosaic Design設立/2016〜20年明治大学I-AUD教育補助講師/2018年〜日本大学、早稲田大学で非常勤講師

TRACK/TRUCK × ata rangi

  • 営業場所

    「小豆島ハウス」そばの空き地(香川県小豆郡小豆島町坂手甲1017) *他の場所に遠征する時もございます。

  • 営業時間

    11:00〜17:00(火曜日定休) *雨天など臨時休業となる場合もあります。 日々の営業に関してはinstagramをご覧ください。 https://www.instagram.com/tracktruck.atarangi/

  • メニュー

    フィッシュ&チップス(3ピース) 700円 フィッシュ&チップス(フィレまるごと) 1300円 フリットミスト(タコ・夏野菜・地元の海苔といりこを使ったゼッポリ)700円 *予告なく変更となる可能性があります

中村航
フードトラック
小豆島にフードトラックをつくる

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瀬戸内国際芸術祭2022夏会期の開会(8月5日〜)と共にオープンした「TRACK/TRUCK」。/提供:FOOD & the CITY研究会

アウトドアダイニングでは、フードトラックで提供する食材に関する数字と、その数字にまつわるエピソードを読むことができる。/提供:FOOD & the CITY研究会

「TRACK/TRUCK」全景。昼は、「小豆島ハウス」そばの空き地で営業する。/提供:FOOD & the CITY研究会

「TRACK/TRUCK」ロゴ。/提供:FOOD & the CITY研究会

小豆島で見られる魚や野菜を干す干網でつくられたアウトドアダイニング。/提供:FOOD & the CITY研究会

会期中の実現にご協力いただいている本田義男・美咲夫妻(ata rangi)。/提供:FOOD & the CITY研究会

小豆島で採れた食材を使ったフィッシュ&チップス。/提供:FOOD & the CITY研究会

fig. 7

fig. 1 (拡大)

fig. 2