小豆島に食にまつわる「何か」をつくることになった(そこに至った経緯は「FOOD & the CITY研究会の立ち上げ」を読んでいただきたい)。では何をつくるべきか。
建築家が設計を行う際、通常は依頼が来た時点で何をつくるか決まっていて、敷地も決まっていて、それに付随する法規や予算、クライアントの意思といったことが与条件として与えられる。もっとも最近は、たとえば「この古い家屋付きの土地があるのだけど、どう活用したらよいですか?」「事業を始めたいのだけど、どういうカタチでやったらよいですか?リノベ?新築?」といった、明確な条件がないまま依頼されることも多く、それは建築家としての職能を存分に活かすことができるので、喜んで引き受ける。ただ今回は、「食と都市(建築)」という大きなテーマだけが決まっていて、敷地も特にない。何をつくったらイケているかを考えるという、ゼロからのスタートだ。
一方で、構法的・建築的に実験的なものをつくってとりあえず建ててみる、というパヴィリオンのたぐいとも方向性が異なる。少なくとも芸術祭の会期中、営業しなければならないからだ。端的にいえば、セルフビルドが前提なのに、雨を漏らさず、気密を確保し、構造的にも安定し、電気水道も仕込まれていて保健所の検査(つくるものによっては確認申請が必要になる可能性もあった)を通過する、「何か」をつくらなければならないのだ。
何をつくるかというのは、ここでわれわれが何をテーマとするか、とほとんど同じ問いだ。
この企画が立ち上がった時すでにリノベーションをすることが決まっていた「小豆島ハウス」は、母屋と離れ、蔵の3棟の裏に庭があり、そこは食事をするための屋外ダイニングとしては使えそうだった。テーブルと屋根がある程度のもので、みんなで集まってBBQなんてしたら楽しそうではないか。小豆島なので流し素麺もよいかもしれない。食の周りの「コミュニティ」がテーマであれば、小豆島ハウスを訪れる人びとが食事をする場を与えるだけでもよいのかもしれない。
あるいは小豆島ハウスのキッチンにフォーカスを当て、「面白いキッチン」を提案するというのも考えられるかもしれない。風呂敷を広げるとすると、人類の居住環境におけるキッチン及びダイニングの役割を再考するようなもの。
周辺を歩き回った時には、道のあちこちに果樹が植えられているのに気づいた。こういう路地の植物や、食べられる野草を集めて、ここだけのワイルド・ベジタブルを料理に使うなどはどうかとも考えた。「地域性」と「食」のようなものがテーマとなるだろうかfig.1。
食料の保存技術の発達が人類の発展に大きく寄与している、ということも研究会で議論していたテーマなので、保存技術を応用したものができないかも考えた。たとえば「燻製」をテーマに、煙を捕まえるカタチが建築のカタチにならないだろうか、など。
あまり「食」そのものにフォーカスしすぎても僕らは専門外なため、シェフを交代で呼んで使ってもらえるような汎用性のある移動式キッチンはどうだろうか。コンテンツそのものはお任せしつつも、変形する屋台のようなハコをつくり、誰でも使えるようなものとするという考えだ。会期中、中身が入れ替わるのも面白いかもしれないfig.2。
議論を重ねているうちに、小豆島ハウスの裏庭を使うよりは、アプローチの道路(敷地内)なら車も入れてよいのではないか?と、そこに複数の屋台を並べる案が出た。それは生産から消費までのサイクルをテーマとしfig.3、生産のための屋台、保存のための屋台、調理のための屋台、消費のための屋台、コンポスト(リサイクル)屋台、といったように工程を分けて5台程度の屋台をつくり、集まってもよし、離散してもよし、というものだfig.4。
このようにさまざまなアイデアが出されたが、やはり「食」と「都市」(建築も都市の一部であるが、台所だけがテーマだと都市にまで発展しにくい)は大事にするべきであるということ、地域性は保ちながらもそれだけの特殊解となることのない、どこか普遍的な仕組みを提案するべきだ、ということがクライテリアとしては高かった。このプロジェクトが、グローバルな食と都市の研究の一環としての実践ではあり、今回たまたま、縁あって小豆島でやることになった。そして、やるからには地域性は大事だが、そのバランスを取るべきだという点では皆の意見が一致していた。
そういった議論と同時に、実際に何ができるのかについてもさまざまな検討がなされたfig.5。できないことだけを妄想していても仕方がない。その中で、まず先に考えるべきだったのは保健所の営業許可だ。会期中になんらかのかたちで人びとに食事を提供するためには、いくら短期といっても営業許可が必要だ。保健所と協議を重ね、何をやりたいかも決まっていない中で何ができるかを探り、最終的には、軽トラックにキッチンユニットを搭載したフードトラックをつくることに現実味を感じた。
そこでチームの学生たちから出てきたアイデアが、トラック(truck)とトラッキング(track)をかけるというものだfig.6。たとえば食材の生成過程におけるCO2の排出量や、魚の漁獲量コントロールなど、普段見過ごしがちな食材に関するデータへの意識が、昨今高まっているといえる。そういった食にまつわるデータをトラッキングし、展示するフードトラックfig.7。アイデアはしばしば、ダジャレから生まれるのだ。