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2022.09.15
Essay

古代墳墓と教会の共存する風景──ガムラ・ウプサラ/ウプサラ市・スウェーデン

旅のチカラ013

芳賀沼整(はりゅうウッドスタジオ)

西欧文化とキリスト教という構図の中で、どのように建築思想が生まれ、育っていったのだろうか? 信仰心の薄いこれまでの自分にとっては、あえて興味から外してきたことであった。
中世初期に北欧各地でキリスト教化が進む頃、ガムラ・ウプサラはスウェーデン王の墳墓が残る場所として異教文化を保ち続けていた。12世紀にキリスト教化が完了し、墳墓に連なった場所に教会が建てられることで、そこには独自の歴史を語る風景が生まれたfig.2fig.3
建築家が建築を考える上で、何ものにも支配されない強い心と、あらゆるものを受けとめる広い感性をもち得たとして、信者のひとりとして宗教建築に携わった建築家は、建築家であり続けられるのかという疑問を以前からもっていた。しかしそれはアントニン・レーモンドの「新発田カトリック教会」(1966年)を体験し変わり始めた。質素な装飾や色彩などすべてにレーモンド夫妻が関わり、冬の日本海独特の灰色の空と馴染み、市街地から田園まで続く、重く切ない風景をつくり出していた。
今回の舞台も、灰色の空と雪を覆った平原が重なり合い、重い世界が続いていた。シュラフをたたみ、遅い夜明けをじっと待ち続けた。旅の途中、そこに住む人びとと違う風景が見えることが時々ある。それは、現実と切り離された時間の流れを感じる風景である。ちらほらと犬の散歩に訪れる住人が見えだした頃、ガムラ・ウプサラは静かに遅い朝を迎えた。生活の音が聞こえ始めるころ、心は現実に戻ってきた。


■旅のデータ
国・市・村 スウェーデン王国ウプサラ市ガムラ・ウプサラ
人口 約13万人
交通手段 ストックホルムの北79kmの地点。ウプサラ中央駅まではバス、鉄道にて移動。駅からガムラ・ウプサラ行きの市バスあり。または徒歩5km。

(初出:『新建築住宅特集』0605)

芳賀沼整

1958年福島県生まれ/1999年東京理科大学工学部二部建築工学科卒業/2002年東北大学大学院修士課程修了/2015年東北大学大学院博士(工学)/2012年「木造仮設住宅群」でグッドデザイン賞金賞、経済産業大臣賞共同受賞/2013年「はりゅうの箱」(監修:難波和彦+界工作舎、『新建築住宅特集』1504)でJIA東北住宅大賞受賞、2016年日本建築学会作品選/2013年「地形舞台─中山間地過疎地域に寄り添う集落づくり拠点─」(日本大学工学部浦部智義研究室と共同)で第34回東北建築賞作品賞受賞/2019年逝去

芳賀沼整
新建築住宅特集
旅のチカラ

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新建築住宅特集 2006年5月号
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提供:芳賀沼整

西側の風景。白い平原に連なる6世紀頃の王たちの墓。傍らにはスウェーデン最古の教会が建っている。殺戮、強奪、布教の歴史があったとしても、今となっては彼らの原風景となっている。/提供:芳賀沼整

東側の風景。線路、踏切、歴史館があり、その数km先はウプサラの街へと続いている。大聖堂の移転と共に中心地も移っていった。/提供:芳賀沼整

fig. 3

fig. 1 (拡大)

fig. 2