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2022.08.23
Essay

涼房のある土色の村──トイゴ/新彊ウイグル自治区・中国

旅のチカラ001

中山繁信(T.E.S.S. 計画研究所)

*本記事は『新建築住宅特集』2005年5月号に掲載されたものです。

学生のころからシルクロードを走ってみたいと思っていた。昨年その願いをほんの少しだが叶える機会に恵まれた。訪れてみれば、かつてのオアシス都市ウルムチやトルファンは私が思い描いていた姿とは違い、高層ビルが立ち並ぶ近代都市に変容していた。しかし、そこから少し足を伸ばすと、いまだにシルクロードを街彿とさせる生活や集落が残されていた。
トイゴという村は火炎山の麓にある。村の風景は火炎山の上の色と同じであるfig.2
そして、住まいの2階に載っている煉瓦の透し積みの建物がこの村の景観的特徴でもあるfig.3。この建物の中で、1カ月半ほど葡萄を吊るしておくと、良質の干し葡萄ができる。この建物を「涼房りょうぼう」というが、いかにも風通しがよく涼しげな的を射た名称である。干し葡萄をつくるためとはなんともったいない。住んでみたいと思ってしまう。
それぞれの住宅は道に面して大きなゲートを構え、それをくぐると、左右に煉瓦積みの個室棟が建ち、その棟をつなぐように葡萄棚がかかっている。訪れたのはちょうどシエスタの時間、その緑陰の葡萄棚の下で村人たちが安寧のひと時であった。なんと贅沢な!fig.4
シルクロードの人たちは、 こんな贅沢な空間の中で今も悠久のひとときを過ごしている。しかし、近代化の波は彼らの意識とはかけ離れた速度で身近に迫っている。はたして彼らの安寧のときはいつまで続けられるのだろうか、気になって仕方がない。

■旅のデータ
国・省 中華人民共和国・新覇(しんきょう)ウイグル自治区
人口 1,747万人
面積 160万km2
省庁 ウルムチ(烏魯木斉)
交通手段 北京から西へ空路約5時間でウルムチヘ到着、さらに専用バスで南西へ5時間でトルファンヘ。トルファンからバスで西へ2時間ほどでトイゴ着。

(初出:『新建築住宅特集』0505)

中山繁信

1942年栃木県生まれ/1969年法政大学大学院建築学科修士課程修了/1966~67年宮脇檀建築研究室/1969~73年工学院大学伊藤ていじ研究室助手/1974年中山繁信設計室開設/1993年T.E.S.S. 計画研究所に改称/現在、工学院大学建築学科教授、日本大学生産工学部建築学科非常勤講師/主な著書に『すまいの火と水』(共著、彰国社、1984年)、『KATHMANDU』(共著、建築知識、1999年)、『現代に生きる「境内空間」の再発見』(彰国社、2000年)、『実測術』(共著、学芸出版社、2001年)など

    中山繁信
    新建築住宅特集
    旅のチカラ

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    新建築住宅特集 2005年5月号
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    葡萄棚のかかった高床のスケッチ。/提供:中山繁信

    火炎山の麓に広がる集落。/提供:中山繁信

    日干し煉瓦で積まれた涼房と塀。透かし積みのパターンは微妙に違っていて、そのデザインで家々を識別できるようになっている。/提供:中山繁信

    葡萄棚で覆われた半屋外空間。シエスタのとき、老女が昼寝をしていた。/提供:中山繁信

    fig. 4

    fig. 1 (拡大)

    fig. 2