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2022.08.16
Essay

闇の魅力──干立集落/沖縄県西表島

旅のチカラ006

伊礼智(伊礼智設計室)

*本記事は『新建築住宅特集』2005年10月号に掲載されたものです。

西表島いりおもてじまを旅したのは20年も前、石垣島いしがきじまを拠点に島々を巡る旅をしていた。西表についたその夜、ドライブに出かけた。街路灯もなく真っ暗闇の中、ヘッドライトのみで走る。車を止めて外へ出てみると、道路脇の草むらがまるで電飾されたように仄かに輝いている。よく見ると、どうもホタルの幼虫らしい。通常、発光するのは成虫が相手を魅きつけるためであるから、いったい何のために発光しているのか? そもそもホタルの幼虫なのだろうか? と、暗闇の中の満天の星と、「ホタルの天の川」の不思議を味わうことができた。
翌日は干立ほしたての集落へ。防風林は大きなフクギや背の高さほどのクロトン、ハイビスカスなどの植物で覆われて、鬱蒼とした集落であるfig.2。スージ(路地)歩きを楽しんでいるとさまざまなヒンプンに出会う。植栽だけのもの、トタンを使ったものなど、あり合わせのもので構成されて楽しげであるfig.3。ヒンプンとは衝立てのように存在し、目隠しと魔除けの役割をもちつつ、人の動きを振り分ける役割もある。ヒンプンは環境装置のような存在だ。そのなかで、平たい珊瑚を積み上げた石垣の民家が目についたfig.4。珊瑚を積み上げたヒンプンは、スージから屋敷内ヘスッと招き入れるようでもあり、穏やかに拒絶するようでもある。
観光で人気の竹富島の集落は、光に溢れ眩しい、「光の集落」という感じだった。ここ、干立の集落は「闇の集落」。天空を遮るような屋敷林が人工的なものをすべて包み込み、荒々しくも美しい自然の力を感じることができた。


■旅のデータ
所在地 沖縄県八重山郡竹富町
人口 2,329人(西表島)
面積 289km2
交通手段 石垣島よりフェリーで約1時間 

(初出:『新建築住宅特集』0510)

伊礼智

1959年沖縄県生まれ/1983年琉球大学理工学部建設工学学科卒業/1986年東京藝術大学美術学部建築科大学院修士課程修了/1986〜96年丸谷博男+エーアンドエー/1996年伊礼智設計室設立/現在、東京藝術大学美術学部建築科非常勤講師/2013年「i-works project」(『新建築住宅特集』1311)でグッドデザイン賞受賞/2014年「守谷の家」(『新建築住宅特集』1005)でグッドデザイン賞受賞/2014年「高岡の家」(『新建築住宅特集』1504)で第45回富山県建築賞優秀賞受賞/著書に『伊礼智の「小さな家」70のレシピ』(エクスナレッジ、2014年)、『住宅建築家 三人三様の流儀』(共著、エクスナレッジ、2016年)、『伊礼智の住宅デザイン DVDデジタル図面集』(エクスナレッジ、2017年)、『伊礼智の住宅設計法Ⅱ』(新建新聞社、2017年)、『オキナワの家』(復刊ドットコム、2018年)

伊礼智
新建築住宅特集
旅のチカラ

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新建築住宅特集 2005年10月号
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サキシマスオウ。湿地に原生し、板根(ばんこん)と呼ばれる根を八方に巡らせている。

スージはそれぞれの屋敷林に挟まれ、鬱蒼とした感じがある。スージを辿っていくと、その集落の拠りどころとなる「クサテの森」に辿り着ける。/提供:伊礼智

おそらく、車が通れるように石積みを後退させたため、本来は屋敷内にあったフクジがスージ(路地)に出てきたのだと思われる。スージが楽しくなって、むしろよい。/提供:伊礼智

海が近いので、海岸で拾ってきた平たい珊瑚を積み重ねて、防風のための石垣と屏風(ヒンプン)を構成している。屏風を右に曲がるのが「ハレ」のルート、左は台所や井戸につながる「ケ」のルート。/提供:伊礼智

fig. 4

fig. 1 (拡大)

fig. 2