西表島を旅したのは20年も前、石垣島を拠点に島々を巡る旅をしていた。西表についたその夜、ドライブに出かけた。街路灯もなく真っ暗闇の中、ヘッドライトのみで走る。車を止めて外へ出てみると、道路脇の草むらがまるで電飾されたように仄かに輝いている。よく見ると、どうもホタルの幼虫らしい。通常、発光するのは成虫が相手を魅きつけるためであるから、いったい何のために発光しているのか? そもそもホタルの幼虫なのだろうか? と、暗闇の中の満天の星と、「ホタルの天の川」の不思議を味わうことができた。
翌日は干立の集落へ。防風林は大きなフクギや背の高さほどのクロトン、ハイビスカスなどの植物で覆われて、鬱蒼とした集落であるfig.2。スージ(路地)歩きを楽しんでいるとさまざまなヒンプンに出会う。植栽だけのもの、トタンを使ったものなど、あり合わせのもので構成されて楽しげであるfig.3。ヒンプンとは衝立てのように存在し、目隠しと魔除けの役割をもちつつ、人の動きを振り分ける役割もある。ヒンプンは環境装置のような存在だ。そのなかで、平たい珊瑚を積み上げた石垣の民家が目についたfig.4。珊瑚を積み上げたヒンプンは、スージから屋敷内ヘスッと招き入れるようでもあり、穏やかに拒絶するようでもある。
観光で人気の竹富島の集落は、光に溢れ眩しい、「光の集落」という感じだった。ここ、干立の集落は「闇の集落」。天空を遮るような屋敷林が人工的なものをすべて包み込み、荒々しくも美しい自然の力を感じることができた。
■旅のデータ
所在地 沖縄県八重山郡竹富町
人口 2,329人(西表島)
面積 289km2
交通手段 石垣島よりフェリーで約1時間
(初出:『新建築住宅特集』0510)