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2022.09.02
Essay

地下と地上の快適住居──石馬道/陝西省・中国

旅のチカラ002

中山繁信(T.E.S.S. 計画研究所)

*本記事は『新建築住宅特集』2005年6月号に掲載されたものです。

中国にはヤオトンといわれる地下住居に数千もの人たちが住むという。ヤオトンは崖地に横穴を掘る横穴式のものと、下沈式と呼ばれる平地に竪穴を掘るふたつの形式がある。建築資材に乏しく、気候風土が厳しい地域で過ごすには、気温が比較的安定した地下空間を選択するのは自然の成り行きである。
乾陵チェンリン」という皇帝の墓のすぐ近くに「石馬道」というヤオトンの村がある。そこは下沈式のヤオトンの一部分を切り崩し、農作業のためのオープンな前庭 をつくった。そこに、中庭を囲むようにレンガ積みの建物を建てているfig.2。それによって、地上の開放的な空間と気温が安定した地下空間とが融合した新しい家屋形式になっている。ここの胡桃の木の茂る中庭はなんと心地よいことか。
ヤオトンの中に足を踏み入れると、外の暑さとは裏腹に、ひんやりと涼しい。ここが台所とダイニングである。上部には煙抜きと明り取りの窓があり、そこをツバメがしきりに出入りしている。自然と共に暮らしているのだfig.3
シルクロードの民はみなやさしい。古のときから、旅人をあたたかく迎える気持ちが受け継がれているのかもしれない。ここの住まいの少女も例外ではない。突然訪れた私たちを農作業に忙しい両親に変わって、家の中を案内してくれた。はにかみながら、懸命にもてなしてくれる姿が初々しく、今でも私の脳裏から離れないfig.4


■旅のデータ
国・省 中華人民共和国・陝西省
人口 3,596万人
面積 20.5万km2
省庁 西安
交通手段 中国・陝西省西安市から西方90キロメートル。西安からバスに乗って2時間で唐代の皇帝の墓「乾陵」到着。そこから徒歩5分で「石馬道」

(初出:『新建築住宅特集』0506)

中山繁信

1942年栃木県生まれ/1969年法政大学大学院建築学科修士課程修了/1966~67年宮脇檀建築研究室/1969~73年工学院大学伊藤ていじ研究室助手/1974年中山繁信設計室開設/1993年T.E.S.S. 計画研究所に改称/現在、工学院大学建築学科教授、日本大学生産工学部建築学科非常勤講師/主な著書に『すまいの火と水』(共著、彰国社、1984年)、『KATHMANDU』(共著、建築知識、1999年)、『現代に生きる「境内空間」の再発見』(彰国社、2000年)、『実測術』(共著、学芸出版社、2001年)など

    中山繁信
    新建築住宅特集
    旅のチカラ

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    新建築住宅特集 2005年6月号
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    ヤオトンの断面スケッチ。/提供:中山繁信

    ヤオトンの中庭。左奥に見えるのがヤオトン。右側の建物が地上に建てられた住居。/提供:中山繁信

    ヤオトンの台所と食事室。なつでもひんやりと心地よい。高窓からツバメがしきりに出入りしていた。/撮影:最勝寺靖彦

    塀の外の農作業場。まだほとんどが牛馬の力に頼っている。/提供:中山繁信

    fig. 4

    fig. 1 (拡大)

    fig. 2