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2021.04.01
Essay

─北大路ハウスの温熱環境をクラフトする─最終回:実験をふりかえる座談会

ぬくもりデバイス実験日誌

京都大学 平田研究室×小椋・伊庭研究室×新建築社 北大路ハウス共同企画

前回まで4つのぬくもりデバイスを紹介した。最終回となる今回はそれらの実験を振り返った座談会の内容を紹介する。fig.1

ー実験紹介
山口:はじめに各実験の紹介をします。
1つ目の実験は既製品の保温ダクトを用いて3階の暖気を1階にもってくるという実験でした。圧力損失の少ない配置経路・熱損失の少ないダクト材を選定したことで、暖気を任意の場所に移動させることができました。

齋藤:2つ目の実験は、数種類の断熱材を組み合わせたクッションの製作です。6種類の断熱材に対し、断熱性能だけでなく肌触りや見た目といった使用感に関しても北大路ハウスの住人にユーザーアンケートを実施し、それぞれの特性を生かした新しいクッションを製作しました。

山口:3つ目の実験は日射を利用して空間を暖める仕組みを考案し、内部で人が過ごせるような空間を設計しました。日射吸収・熱損失・換気漏気といった点に注目して設計・素材選定を行った結果、日中は外気温が10℃前後であったのに対して、20~40℃の暖かい空間をつくり出すことができました。

多田:4つ目の実験では窓を密閉できるようなふっくらとした断熱カーテンを製作しました。冷たい窓表面からの「放射」、窓付近と室内の温度差による「対流」を防ぐことが狙いでした。

伊庭:この実験の温度データはまだ測定・分析中ですが、熱画像から言えることとして、断熱カーテン施工前は窓(特に下部)が真っ青になっていて、表面温度が10℃前後だったのに対して、施工後は壁とカーテンの表面温度がほとんど同じだとわかりました。

山口:各実験で色々な温熱的なトピックを扱うことができたので、われわれ意匠系の人間にとっても大きな学びがありました。小椋・伊庭研究室のかたがたはこの局所的な環境改善という実験をどう捉えているのでしょうか。各実験、担当してくれた小椋・伊庭研究室の学生からまずは聞いてみましょうか。まず、ダクトの実験を担当した大塚君はどう思いましたか?

ー「フレキシブルダクト」についてfig.2
大塚:ダクト吹き出し口付近にストーブのような効果を得られたので有意義な実験だったと思います。また、ダクト吹き出し口温度は40℃で、エアコンの吹き出し口は40℃強だったことから、10m以上あるダクトの保温性が確認されたのも有意義な発見でしたね。

平田:マイクロ居住域空調といったような、ある領域に絞って空調を効かせるというのは有効な手法なのだけれど、この実験はもはや1人の人に対して狙い撃つもので面白い。新しい設備だとセンサーやAIで人の居場所にフォーカスする空調があるけれど、このダクトは非常に原始的で素朴にして、効率的であるのが見ていて面白い実験だった。そこで重要なのは定量的な結果もさることながら、体感ですよね。ユーザーにとって部屋が暖かく感じたのかどうかが大事だと思います。

岩瀬:この写真、いいですね。私は、新潟出身で冬場はストーブの前から動かなかったのだけど、この写真からは新しいふるまいが見て取れて面白いです。このダクトがあれば部屋の中のどこにでも居場所ができるような。

平田:実際に使ってくれた北大路ハウスの住人たちはどう感じたのかな。

大須賀:体験として、自分で暖かい場所を自由につくれることが楽しかったし、誰かがダクトを使っている様子を見るのも楽しかったです。ダクトがある時は確かに暖かく感じていたのだが数値的な結果が出ていないことが不思議で、心理的には部屋の温度が高くなったように感じています。

渡瀬:僕は3階に住んでいますが、ダクトがないときは個室の温度が20~25℃で少し暑いと感じていたのに対して、ダクトを運転させるとちょうどよい18℃になっていたことが印象的でした。いかにエアコンの暖房機能が滞っていたかを実感しましたね。上部に暖気が溜まっていることが想像できたので、個人的にさまざまな改善策を講じたのですがうまくいきませんでした。なので今回の実験ではそこをうまく改善していて驚きました!リビングで作業することが増え、積極的に共用リビングを使うようになったのもいいことだと思っています。とても感謝していますよ。

山口:そう言ってもらえるととても嬉しいです!ところで、体感的にいい影響が報告されているのに、なぜ定量的な結果が出なかったのでしょうか…?

大塚:温度計を壁の足元に設置して計測していたのが原因かもしれないですね。生活領域・ダクト周辺で測定していれば結果は変わっていたかもしれません。

平田:ともあれ、寒さという問題を扱う時に「体感」ってすごく大事ですよね。ならば、体表面の温度を計測する方が適していたんじゃないでしょうか?たとえば、人が寒さを感じているとき、体表面の温度が下がっている、なんてことは起きてないのでしょうか?

小椋:血流量調節の影響で、人体の四肢の末端部にそういった反応が見られますね。寒く感じるときは、体温を維持するために血流量調整で末端への血流を減らして深部の温度を保っているのですが、手足の末端はその影響で温度が低くなります。
直接的には「対流」が大きな影響をもたらすと思いますが、それだけではなく「放射」という要因もありますから、噴出口周辺の暖まった床や家具からの放射の影響が体感としてあったのかもしれません。

平田:なるほど。室温を測るのがこの実験を示す最適な方法ではなかったかもしれませんね。1人の人間が暖まるために、部屋全体を暖めないといけないというのもおかしな話で、服を着るようにユーザー単体が暖かければいいという考え方はこの実験の面白い所ですよ。

山口:定性的な効果を、どう定量的に評価するのかは、このダクトの実験だけではなく4つの実験を通して興味深く感じていたところです。

岩瀬:エネルギー的にパッシブなのも、そもそも評価できるポイントだよね。新たな熱を導入するんじゃなくて既存の空調をうまく利用してこれまで以上にユーザーは暖かさを感じることができたという。

山口:まさしく、そうですよね。

小椋:最後に、平田先生が仰っていたような体感的な評価は興味深いです。今の空調機には基本的に室温を一様な分布になることを想定した制御システムが導入されています。そうではなくて、周囲環境のみを放射を含めて制御したりして、人間の体感を評価できるようなシステムがふさわしいのかもしれません。空調機器の制御方法自体の在り方にも考えが及びますね。

ー「断熱クッション」についてfig.3
中川:クッションによる断熱ということだったので、座り心地などの使用感を中心に考察を進めました。暖かさに関しては6種類とも熱伝導率にあまり差がなかったのですが、座り心地などはアンケートから有意な差が見られました。局所的に改善を試みたことについては、床全体を断熱したほうがより断熱効果が得られるのではと個人的に思っています。

倉橋:床断面からの断熱でリフォームをするのはすごく難しいので、こういう局所的な断熱はすごくよい案だなと思いました。アンケートによって各断熱材の特徴を色々発見できて、よい点を活かし合えたのがよかったですね。そもそも断熱材を家具のように扱うこと自体面白いと思いました。

齊藤:熱伝導率は同じような数値になっていました。それよりも表面のざらつきだったり、身体に対してどれくらい接地面積があるかとか、そういった面で温かさが結構変わっているような印象があったので、断熱材の熱伝導率以外の物質性もデータとして収集できる方法はあるだろうか、という点に興味をもちました。

平田:お尻とか足とか、人間には局所的に温度に敏感な箇所があるじゃないですか。ダクトの実験と同じく、物や周囲の空間の温度を測るというより、身体を測るほうが評価しやすいのかなと思いました。
ただ、このデバイスに関して面白いと思ったのは断熱材の見た目や触感のデザインについてです。結局そのデバイスが「身近にあってもいい」と感じるデザインなら役に立つけど、「これは近くに置いておきたくない」と感じるものはたとえ断熱性能が高くても置きたくないと思ってしまうような。
これはもう定量的評価を越えた、定性的とも言い難い、人間の好き嫌いに関わるようなところかもしれない、デザイン的なテーマをこのデバイスは扱っているんだなと思えましたね。

齊藤:そうですね。たとえば断熱材としては一般的なポリスチレンフォームは、見た目があまりよくなくて硬い、というところで抵抗があったのか、全体的に評価が下がっていました。やはり平田先生がおっしゃっている心理的な側面はあると思います。ユーザーである北大路ハウスの住人の皆さんはどう感じましたか?

渡瀬:温かさに関してはどれも担保できていたので、僕が評価するうえで重要視したのは、ずっと使い続けていくと考えた時にどうなのかというところでした。たとえばチップウレタンは使っているとポロポロ崩れてきちゃうんですよね。今は形も見た目もかわいくてよいと思うんですけど、これをずっと使い続けるとどうなんだろう、という疑問は、全体的な評価にも影響したのかもしれません。
あとは、床に敷いてローテーブルと使う時はいいのですが、椅子の上に敷いて使った時はどうしても座面が5cmくらい上がったような感覚になって、そこでPC作業なんかをすると、ちょっと視線が変わってやりづらいなと感じることもありました。そういうところも、薄いものを重ねたりすることで高さを調整できれば改善されると思います。

齊藤:長期的に見た時にどうなのか、というのはまさに家具的な評価というか、家具を選ぶときの評価の仕方だと言えます。断熱材という枠を超えて、家具として捉えてもらえたのは興味深いですね。

山口:断熱材の使用感に着目したデータって珍しいと思うんです(笑)。実は、日射ハナレでは底面に断熱材を敷いていて、僕は断熱材といったらこれしかないだろう、という感じでポリスチレンフォームを敷いたのですが、もし事前にこの実験結果を知っていたらもっと適した断熱材を検討できたのかもしれません。

ー「日射ハナレ」についてfig.4
米田(昌):この実験では日射を利用し、外気よりも暖かい空間をつくり出せていました。加えて、利用者の体温でも内部温度が微上昇することが確認されており、興味深かったです。4つのぬくもりデバイスがそれぞれ異なるスケールで提案され、日射、断熱、空調などさまざまな視点で取り組んでいるところが面白いと思います。

髙取:日射熱を母屋ではなくハナレで活用するというのは非常に面白いアイデアでしたね。天候や時間帯に左右される日射熱をどう蓄えるか、部屋の容積が大きすぎるとあまり室温が上がらないのをどうするか、こういったことが環境面の当初の課題でしたが、天気のよい晴れた日に活用するハナレを建てることで、これらの課題を解決した点には感心しました。

山口:おっしゃる通り、変動的な日射はエネルギーとして利用しづらく、立案当初とても悩みました。結果的には、一定の条件を満たせば電力を使わずに20~30℃の暖かい空間をつくり出せるのでエコですよね。

平田:ツッコミを入れた方が面白いと思うのであえて入れるとすると、温室をつくればまあ絶対あったかいじゃないですか。単なる温室とどう違うのかというところをもう少し明快に言うべきだと思うのが1点。
もう1点は、ここのハナレで過ごす時間というのがちゃんとあってはじめてエコだと言える。特にそこで人が過ごさないのであれば、単に新しい小屋をつくってその分ゴミが出ているじゃないかという指摘もあるかもしれないわけじゃないですか。これはいったい何の空間なのかな?

山口:温熱改善という本連載のテーマの裏で、僕はコロナ禍の自粛ムードと冬の寒さで、みんなが家の中に閉じこもっている状況を解決したいと考えていました。このデバイスを「ハナレ」と名付けていて、母屋とは少し離れたテラスに設置しているので、1回外に出ないといけない手間はあるのですが、その手間すらも外に出る言い訳になればと思い、制作していました。住人のアンケートを見てみても、割と快適に使われている評価を得られていて、クッションやマット、椅子をこの中にもち込んで、中で本を読むみたいなことも実際に起きていたそうです。

平田:環境的には色々考えられていて素晴らしいなと思うんだけど、建築デザインとしてはもう一つだなと思います(笑)。短い時間でやったにしてはよいんだけど、もっと高められると思いました。極小空間ってすごく面白いじゃないですか。北大路ハウスの個室も極小空間だけど、あれは3畳ある。待庵は2畳じゃないですか。その辺のことも踏まえて、建築として面白いものを平田研でもっとデザインできたらな、と思いました。

髙取:容積が小さいということでハナレの中にずっと滞在するとCO₂濃度が高くなってしまうので、そんなに長い時間は滞在できないということには十分注意すべきでしょうね。平田先生のコメントに被せるようですが、こういった環境的な制約を考慮した上でこのハナレがどういう空間なのかを定義するとよりよいものになるのかなと思いました。
 
岩瀬:あとは、ぜひ夏の場合の衣替えの仕方について聞いてみたいですね。夏になってもこれを使うのか、あるいは夏にはしまって冬の風物詩になるのか。デバイスとしてのありかたは二通りありそうだなと思って聞いていました。

齊藤:夏の衣替えについては今後の展望として後ほど議論したいと思っていました!
一旦最後の実験のダウンカーテンに話を移しましょう。

ー「ダウンカーテン」について

小久保:従来のカーテンと異なり、カーテンの下端部を閉じた状態での評価を行った結果、カーテンと窓との間で対流が生じにくくなって、室内の断熱効果がより高まったのが結果として得られました。fig.5カーテンの室内側表面温度が窓の表面温度よりも高かったので、体感温度として効果があったと思います。ただ、結露が生じやすくなるのではないかと懸念しているので、そのことについて住人のかたから意見を伺いたいです。

米田(慈):結露などは今の季節はなかったです。他の季節なら発生することもあるかと思いますし、その対策としては乾燥剤を貼り付けてみるなどが考えられました。

平田:この実験は、ほかの実験とは違い2つの見方ができると思います。1つはほかのデバイスと同様、カーテンの近傍における体感についての局所的な問題として見ること。もう1つは、カーテンによって、開口部からの熱の流出を防ぎ、室全体の問題として見ること。この実験の画期的な点としては、絆創膏をちょっと貼るように、窓にカーテンをあてがうだけで、室全体を暖めることができるとしたら、単に局所的なデバイスと違うところがおもしろいと思います。

多田:カーテンを閉めた直後のこのグラフの推移には驚きました。企業に協賛してもらい、ダウンウェアのようなカーテンをつくったという点は新しいと思っているのですが、このカーテンの機構の所作自体はとても単純です。担当してくれた難波くんの研究領域ではあるのですが、被災地などの仮設住宅での寒さ対策に応用できる機構としても、今回の実験から有意義な結果が得られて嬉しく思います。

難波:僕はこの実験について特に、隙間の有無による評価が興味深かったです。今回、側部の開閉機構はファスナーで行っていましたが、使い勝手や設置のしやすさという観点から、マジックテープなど、より開閉しやすい機構を使用することも考えられます。今後はより仮設住宅への適用可能性に焦点を当て、一般的なカーテンを用いた同様の実験も行いたいです。

平田:伊庭先生、このカーテンは仮設住宅における実用化の可能性は考えられそうでしょうか?

伊庭:仮設住宅での実用化を視野に入れた検証として、ダウンカーテンそのものよりは、カーテンを床まで垂らし、側部も閉じて、窓-カーテン間の空気の動きをできるだけ抑えることによって空気層の熱抵抗も効いてくるので、それがどの程度か評価するためにデータを取ろうとしています。今見えているグラフの茶色い線がカーテンの裏側の温度で、水色が窓-カーテン間の空気層の温度です。そこで温度差が確認できるので、ここで空気層による熱抵抗を見ることができます。また、カーテンの下端部を開けた場合のグラフなのですが、カーテンの裏側と空気層の温度が同じになっていて、下を開けることで空気層の部分の熱抵抗があまり活かされていないことがわかります。

平田:コールドドラフトを防ぐことで暖かくなるということはあると思いますが、今回特殊なのは横をファスナーで閉じれるようにしてることだと思います。このこと自体を評価することは可能なのでしょうか?

伊庭:おそらく下を閉じていても、上から入ってきた空気が側部から抜けていってしまっては、やはり冷気を感じてしまうでしょう。今回効果的だったのは下と側部を合わせて閉じていた点で、ダウンでなかったとしても、側部と下を閉じるという機構は仮設住宅でも活かせるのではないかと思います。

岩瀬:素材がダウン生地でない場合の効果も比較としてよさそうですね。

平田:普通の服を着ているより、ダウンの方が圧倒的に暖かいように、カーテンについても同じことが言えるのか、人体から発する熱と絡んでいるから違う話なのか、まだわからないことがありますね。

伊庭:ダウンのようなカーテンをつけられるともちろんよいのですが、仮設住宅の場合はコストの問題もあると思います。側部が開いているどうかや、素材の違いによる差の比較などもできればよかったと思います。

渡瀬:住人として、使用していて効果を実感しています。窓の前に置かれた大きなテーブルには、みんな窓側を避けて室内側に座っていたのですが、カーテン設置後は窓側に座っている人もいたし、自分も冷気を感じずに、窓側の席を利用していました。

大須賀:閉めていると暖かいので、油断するとずっと閉めたままにしてしまいそうではありますね。当たり前なんですけど、ちゃんと昼間は日射を室内に取り込むということは心がけたいですね。

難波:企画全体として、平田研究室や住民のかたがたとの協働のなかで一定の成果を出すという、貴重な経験をすることができました。特に、温湿度実測等の定量評価に加え、アンケートなどの定性評価を行う意義について、普段当たり前のように扱っていた環境工学的事項もきちんと説明し目的を共有しておくことが、一緒に実験を進めていくためには必要だと感じました。また、住民のかたがたには利用者として積極的に実験に参加してもらったからこそ、体感としての効果や住まいへの愛着に繋がり、より快適な環境をつくることができたのではないか、と感じました。fig.6

ーまとめ
山口:制作コストについて、これまでに何度か話が挙がりましたが、一般にも再現できる価格に抑えることも意識して取り組んでいました。たとえば、ハナレであれば材料はすべてホームセンターで揃えられますし、断熱クッションも通販で容易に購入できる材料です。
今回のフィードバックを活かして、ぬくもりデバイスをアップデートできる気がしていて、座談会を開催できて本当に良かったと思っています。
では、各先生方から4つの実験とデバイスを振り返ってコメントをいただきたいと思います。

岩瀬:室の全体を対象とすることが前提となっている空調に対して、後から自分たちの手で変えていける温熱環境のありかたを考えるという、面白いテーマで取り組めていたと思います。私が今後の展望として興味があるのは、1つは、「衣替え」というように、夏の場合はどう過ごすか、今回考えてきたことをどう移行できるかということです。
もう1つは、今回は局所的な改修の提案でしたが、そのデバイスがあることを前提に考えた場合、どういう新しい建築がつくれるのかということです。たとえば、先のダウンカーテンがあるとして、建築側の開口部のありかたも変わってくるかもしれない、ということは示唆的なポイントだと思いました。改修であるだけでなく、色々の発展のさせかたがあり、ワクワクと期待しながら聞いていました。

伊庭:クッションの座り心地についてのアンケートで挙がった「吹き付けウレタンがポップコーンみたいでかわいい」という意見が衝撃的でした(笑)。長年、断熱材を扱ってきましたが、かわいいいと感じたことや、あれを室内に置こうと思ったことはなくて、そういう見方もあるのかと思いましたね。
また、実際の生活のなかで使い続けていくことができるのかというところを考えるべきだと思います。クッションは使っていくうちにへたってきたり、ポロポロ欠けてきたりするでしょう。カーテンも気を抜いたらずっと閉めっぱなしになってしまうとか、面倒な所作を楽しめるようなデザインができるのかが気になる点です。
夏についてですが、たとえばダウンカーテンは閉めていると冷房効率は上がるかと思いますが、見た目がとても暖かそうなのが難点です。見た目による体感は意外と重要な点ですし、涼しげで、かつ断熱性の高い素材でつくっていくといいかと思います。

岩瀬:空気層が入っている浮き輪みたいなビニールのカーテンはよさそうじゃないですか?(笑)

平田:今回の一連の実験は、真面目に空調を考えるというよりも、楽しんで暑さや寒さを凌ぐという雰囲気がありましたし、1つの方法だけで全部をカバーするのではなく、それぞれの条件に対して一問一答的に局所的な改善策を発見する喜びや楽しさがありました。今回制作したぬくもりデバイスはこの4つでしたが、ほかにも100個ぐらいは考えていける可能性があることが魅力的です。普遍的に空気全体を改善してしまうのではないところが、僕の建築の設計のありかたとも通じるところがあって、面白く感じていました。個々のデザインについては、同じ考えかたでもっと詰めていくことはできると思いますが、完成度を高くするよりも、気楽に1個 1個つくっていく楽しさもあるので、どこまで詰めるのがよいのかと案じながら見ていました。

小椋:まず北大路ハウスの基礎的なデータを取るところから始めて、通り一辺倒な断熱性・気密性を上げることを回答としてお伝えしたところから、それ以外になにができうるのかという議論が展開していきましたね。
もともと、季節に合わせて住まいかたや滞在場所を変えるというふるまいを環境工学的にも興味深く思っていたのですが、それがぬくもりデバイスの制作で実現できました。なおかつその未知の効果を定量的に評価できた点が非常におもしろかったです。デザイン的にどうか、環境工学的にどうかと考えることが、いろいろな試行錯誤を通してできた面白い企画だったと思っています。
実はわれわれとしても、どれほどの効果があるかは数値としてもなかなか出せないものなんですよね。数値が出せないなかで、複雑な事象をできるだけ単純化して整理していって、そして結果が出てやっと、「これはこれくらい効果があるのか」と評価できるものなのです。
初めからこちら側で答えがイメージできていたわけではなくて、実際にトライしていくなかでその中身をお互いに解釈していくプロセスは、両方の研究室の学生にとって非常に勉強になったと思います。
年間を通して考える場合、夏の暑さをどう抑えていくかという点は、岩瀬先生がおっしゃっていたような「衣替え」をしていくことがテーマの1つになるかと思います。
窓の話でいうと、夏は日射を遮蔽することが、今の断熱カーテンと違う形でどうできるかということや、ハナレはサウナとして利用するのも1つの考えかたです。たとえば夏でも冬でもお湯は使うので、あの部屋に水のタンクを置いきお湯にしてて使うなど、室内空間以外の利用の仕方もあり得るのではないかと思います。
あと思いつきですが、夏の涼しさを得るためには「通風」もテーマになそうです。
われわれが以前夏に計測しに行った時に、母屋の坪庭で冷気がヒューっと降りてきて涼しかった経験がありましたので、建物の特長を生かした工夫があると面白そうですね。
またこういうディスカッションができる場があることを期待しています。

平田:また続編などできればと思っておりますので、是非ともご相談させてください!
一同:ありがとうございました。
文責/山口航平(京都大学大学院平田研究室)

小椋大輔

1969年兵庫県生まれ/神戸大学大学院工学研究科修了/2004年〜京都大学大学院工学研究科助手、同助教、同准教授を経て2017年〜同教授、博士(工学)

平田晃久

1971年大阪府生まれ/1994年京都大学工学部建築学科卒業/1997年同大学大学院工学研究科修士課程修了/1997〜2005年伊東豊雄建築設計事務所/2005年平田晃久建築設計事務所設立/現在、京都大学教授

伊庭千恵美

1977年北海道生まれ/京都大学大学院工学研究科修了/2002〜12年北方建築総合研究所/2012年〜京都大学大学院工学研究科助教/2019年〜同大学准教授/博士(工学)

岩瀬諒子

1984年新潟県生まれ/京都大学大学院工学研究科修士課程修了/EM2N Architects/隈研吾建築都市設計事務所/2013年岩瀬諒子設計事務所設立/2019年~京都大学助教

髙取伸光

1992年愛知県生まれ/京都大学大学院工学研究科修了/2020年~同大学助教、博士(工学)

小椋大輔
平田晃久
伊庭千恵美
岩瀬諒子
髙取伸光
ぬくもりデバイス実験日誌

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オンラインで行われた本座談会の様子。両研究室のメンバーと北大路ハウスの住人が出席した。一列目右端:岩瀬諒子助教。二列目左端:伊庭千恵美准教授。二列目中右:平田晃久教授。二列目右端:小林大輔教授。

フレキシブルダクトを動かして使っている様子

「座り心地アンケート」に用いた6種類の断熱材(熱伝導率は非定常熱線法による測定値)

日射ハナレの中に家具がもち込まれる様子

4つのぬくもりデバイスによって更新されていく北大路ハウス

fig. 6

fig. 1 (拡大)

fig. 2