「新建築社 北大路ハウス」は、前回の「イントロダクション」で紹介した、京都の木造住宅を改修し、ライブラリーと多目的な公共スペースを内包する、6人の学生が住むシェアハウスである。本連載では、北大路ハウスの冬の快適性を高めるため、4つの「ぬくもりデバイス」を作製し、温熱環境をアップグレードする実験日誌を発信していく。今回はそのウォーミングアップとして、各実験を行うまでの経緯を紹介する。
日常にひそむ“実験”を見つめ直す
北大路ハウスの特徴である大きな吹き抜け空間fig.1は、エアコンでの温度調節が難しく、冬季には上下階で最高13度の温度差が生じていた。なんとか改善を図るべく、京都大学の建築環境工学を専門とする小椋・伊庭研究室に相談して始まったのがこの企画である。fig.2
小椋教授らとの対話のなかで、聞いたことはあっても身についていなかった知識や、慣例的に思い込んでしまっていたことを、「北大路ハウス」という実例を通して学ぶことができた。なかでも、「季節ごとに室の装いを変えることは昔から当たり前である」という点に、私たちはハッとさせられた。普段見過ごしてしまっている日常には、新たな習慣を添えるだけで環境を改善していける可能性が広がっていた。私たちは日常を見つめ直し、「こんなことをしたら暖かくなるんじゃないか?」とふと思ったことを議論のきっかけとして小椋教授らに投げかけることで、改善方法を模索していった。fig.3
温熱環境の根本的な解決として、コンピューター・シミュレーション解析に基づく問題点の明確化や、大型エアコンの導入、空間全体の断熱性能の向上など、大掛かりな対策がないわけではない。しかし、建築的・設備的改修によって解決するのではなく、まずは日常的な問題点から、手仕事として小さな実験装置をつくり、読者にとっても実感が湧きやすいデータを発信していくことを重視した。自分の生活について思考し、工夫を凝らして製作するDIYのように、吹き抜け空間から人の居場所をとらえ、「温熱環境をクラフト」していくのだ。
ふるまいが動力源の「ぬくもりデバイス」
これらの実験装置はあくまで日常的な人のふるまいに合わせてつくられる。「上下の温度差」「床の冷え」「窓の冷気」「日射熱」。これらの問題に対応する、小椋・伊庭研と平田研の知見とアイデアを相乗的に組み合わせた実験装置を「ぬくもりデバイス」と名付け、これから紹介していこう。
次回から4回に分けて、4つの「ぬくもりデバイス」についての実験を紹介する。各記事は下記の共通の設問を立て、それに回答する形で進めていく。各実験独自の、暖かさのクラフト方法や、ユーザーの使用感が見られ、もし気に入ったものがあれば読者の皆さんにも実践してもらえることを期待している。
Q1.どんな実験装置をつくった?
Q2.この実験のきっかけは?
Q3.温熱環境的な観点での設計上の工夫は?
Q4.計測結果や住人の感想は?
Q5.実験で得られた知見を、応用する展望は?
次回は、吹き抜け空間の暖房を利用して人の居場所へと直接暖気を送り込む、「デバイス01」の実験を見ていこう。
文責/多田翔哉(京都大学大学院平田研究室)