担当/山口航平(平田研究室)、米田昌弘、酒井紘太郎(小椋・伊庭研究室)
前回は断熱材を用いたクッションの製作を紹介した。今回は屋外空間で実装される3つ目のぬくもりデバイスとして、日射熱で空間を暖める実験を紹介していく。
Q1.どんな実験装置をつくった?
A1.日射熱を吸収して暖かくなる「ハナレ」fig.1
寒い冬、暖房機器に頼らずに日射の熱で暖をとれないだろうか–––。
この実験では、日射熱を利用して暖かくなる小さな空間を設計した。日射吸収率の高い素材や断熱材を用いており、日の当たる場所に設置して受光面から日射を吸収し、空間内部の空気を暖めるという筋書きである。設営後、小椋・伊庭研究室のメンバーとともに日射・外気の変化から生じる空間内部への影響を測定・分析した。
Q2.この実験のきっかけは?
A2.暖房機器に頼らず、日射を利用して寒さを克服できないか
北大路ハウスの屋外テラスでは、冬の晴天時で最大800W/㎡の日射量が計測された。そんな日射のエネルギーを活用して暖をとれないか、小椋・伊庭研究室にアドバイスを求めた。fig.2
入力の不安定な日射を活かすべく、一時的に日射熱を閉じ込め、屋外にも居場所をつくれるような「暖かいハナレ」ともいえる空間をつくろうと試みた。
Q3.温熱環境的な観点での設計上の工夫は?
A3.①日射を活かす形状と素材 ②ハナレ内部の換気漏気
受光面の素材には日射吸収率が高く、熱放射率の低い亜鉛鉄板を選び、亜鉛鉄板の内側面には長波放射率の高い材料として、白色ラッカーを塗色した。冬の太陽高度に合わせて日射を効率よく受光できるように30度の角度をつけて施工している。fig.3
日射を透過する(80%弱)ポリカーボネートはそれ自体が空気層を有しているだけでなく、2重にして施工し受光面に密閉された空気層をつくることで、亜鉛鉄板から大気への散熱を抑制し、ハナレ内部への熱放射を促した。
また、温度保持のために隙間風を防ぐ一方で、CO₂濃度が学校衛生基準法で定められた1500ppmを超えない程度に、換気・漏気するよう底面はあえてスタイロフォームを敷くだけにするといった計画をした。fig.4
Q4.計測結果や住人の感想は?
A4.外気+25℃の暖かな空間を実現
計測の結果、外気温と比較して十分に暖かい空間ができていることがわかった。日射熱の吸収・放熱を効率良くおこなう受光面(白塗り亜鉛鉄板)のおかげで、ハナレ内部では外気温よりも素早い室温上昇が確認された。1月29日における各部温度と日射量を測定したグラフfig.5を見ると、10℃以下の外気に対して、ハナレ内部は20~30℃の暖かな空間となったことがわかる。ちょうどこの日の14:30~15:00に使用した住人へのアンケートによると、「暖かく、かなり快適である。入った直後から暖かさがあり、心地よく長く滞在できる快適さである」という回答が得られた。
この日、亜鉛鉄板の裏面温度は最大で60℃付近まで、室温も最大で40℃近くまで上昇することを確認した。また、20分程度の利用により小屋内のCO₂濃度は900ppm程度まで上昇したが、学校衛生基準法の基準範囲内であり十分快適であったものと予想される。ただ、居室内空間の体積が小さいことから長時間利用ではCO₂濃度が上がりすぎる可能性もあるため、当初の想定通り適切な換気をしながら使うことが望ましいと考えられる。fig.6
Q5.実験で得られた知見を、応用する展望は?
A5.日射熱を利用して住環境を改良する
本実験では、あまり有効とされていなかった日射熱の、新たな利用方法を発見した。今後の発展可能性として、建具スケールに応用すれば、より手軽に暖かいところをつくり出せる装置が考えられる。または、建築スケールに応用すれば、茶室や本格的な離れのようなものも考えられるかもしれない。暖房に頼らない日射の利用はエコで経済的な暮らし方といえる。また、コロナ禍の自粛ムードで屋外空間の価値が見直されたが、この装置があれば寒い冬でも身近な屋外空間に暖かい居場所をコーディネートすることができる。材料はホームセンターで購入できるので、DIYしてみてはどうだろうか。
実験を進めるなかで、ハナレにはアウトドアランプやクッションがもち込まれ、ユーザーそれぞれが空間を快適に使いこなすような工夫がなされていった。外皮のポリカーボネートが光を屈折させ、さまざまな表情を見せている。fig.7
fig.8
次回は、部屋の暖かさを保つ、ダウンウェアのようなふっくらとしたカーテンを用いた実験を紹介する。
文責/山口航平(京都大学大学院平田研究室)