本連載の舞台は、京都大学平田晃久研究室+平田晃久建築設計事務所が設計した「新建築社 北大路ハウス」である。「冬の寒さが厳しい北大路ハウスの温熱環境を、4つの小さな実験によって改善する」。この企画は、京都大学生活空間環境制御学の小椋大輔教授、伊庭千恵美准教授、髙取伸光助教による監修、建築設計学の平田晃久教授、岩瀬諒子助教による設計指導の下、両研究室のコラボレーションによって実現した。本論に先立つイントロダクションとして、今回は「北大路ハウス」について紹介する。
北大路ハウスは京都市の木造住宅を改修し、多目的な公共スペースと一体化した、6人の学生が住むシェアハウスの計画である。新建築社の依頼から始まった本プロジェクトは、京都の建築学生の結び目を目指して、平田研究室が中心となって進めてきた。fig.1
北大路ハウスの共有空間は、既存建築の床や壁の一部を除いてできた大きな吹き抜けに、“ふろしき”をかけるように木の造作を挿入することでつくられている。この段状に広がる“ふろしき”が既存部分との間に大小のスペースを生み出し、時にレクチャーや展覧会のできるリビングとして、時に本棚と一体化した壁として、多様な活動のきっかけを生み出している。fig.2
設計は、使い手となる京都の建築学生を巻き込みながら進められた。案のコンセプトや減築箇所の検討といった設計上の重要な決定は、学生のワークショップの場で行われてきた。学生は設計主体の中に入り込み、同時にこの場所の運営主体であり、住まい手でもある。このようにさまざまな立場の学生が動的に交わり、入れ替わりながら「ここがどんな場所になるべきか」を議論する中で、建築学生の結び目としての「北大路ハウス」が立ち現れ始めたのだった。fig.3
この改修はプロジェクトの始まりにすぎない。つくり手として、住み手として、使い手として、関わる学生が実践を続け、新しいイベントや地域交流、次なる改修に向けて今も議論を交わしている。
次回以降紹介する4つの小さな実験もまた、まさに北大路ハウスを住みこなし、アップデートする試みの一つである。「寒さに対する対策」という日常的な問題を取り上げながら、新しい住みこなしの可能性を探っていきたい。
文責/齊藤風結(京都大学大学院平田研究室)