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2021.04.01
Essay

─北大路ハウスの温熱環境をクラフトする─ 第3回:デバイス02/断熱材でクッションをつくろう

ぬくもりデバイス実験日誌

京都大学 平田研究室×小椋・伊庭研究室×新建築社 北大路ハウス共同企画

担当/齊藤風結(平田研究室)、中川正貴、倉橋哲、瀧井彩加(小椋・伊庭研究室)

前回はダクトを用いて暖気を移動させる実験を紹介した。今回は2つ目のぬくもりデバイスとして、断熱材を用いたクッションの製作について紹介していく。

Q1.どんな実験装置をつくった?
A1.断熱材でできたクッションfig.1

今回の実験の主役は、断熱材である。家の暖かさを壁の裏側で守りながらも、なかなか表舞台には現れない断熱材。その効果をなんとか家具として活かせないかと、考案したのが「断熱クッション」だ。

Q2.この実験のきっかけは?
A2. 北大路ハウス1階の床が冷たいという問題

前回はダクトを使って暖気を移動させる実験を紹介したが、どれだけ部屋が暖まっても解決できないのが、「1階の床が冷たい」という問題であった。fig.2

座る場所に断熱材を敷き、床の冷たさに局所的に対応する。もし断熱材を家具のようにしつらえることができれば、家具(ソフト)とリフォーム(ハード)の中間を突くような、いかにも本連載の趣旨に沿った実験的な試みとなる。

Q3.温熱的な観点での設計上の工夫は?
A3. 住人に対する、「座り心地アンケート」の実施

座ることを想定されていない断熱材を、家具として評価することで、従来の断熱材にはなかった新しい見え方が表れそうだ。早速いくつか断熱材を用意し、厚さ40㎜前後、直径400㎜の簡易的な「断熱クッション」を製作した。これらを北大路ハウスに設置し、住人に実際に使ってもらいながら、座り心地についてのアンケートを実施することにした。fig.3

用意した素材はポリエチレンフォーム(柔)、押出法ポリスチレンフォーム、チップウレタン、吹付ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム(硬)、スポンジゴムの6種類である(以下、これらを「素材A~F」と表記)。fig.4

Q4.計測結果や住人の感想は?
A4.万能型のAとF、座り心地のC、見た目が面白いD。アンケートから各断熱材の「家具としての特性」が浮き彫りになった。

アンケートでは6種類の断熱材を実際に使用してもらい、「座り心地」「肌ざわり」「家具としての見た目の良さ」「暖かさ」の4項目について、7段階で評価を得た。下図は北大路ハウスの住人6名の評価を平均し、グラフにまとめたものである。各グラフの下には素材に対する対象者の意見を抜粋して書き出している。fig.5

まず全体を通して、いずれの素材も「温かさ」の項目は評価に大差がない。やはり今回は、使用感に関する評価の差を重視するべきであることがわかる。
次に各素材について見ると、総合的に評価が高かったのが素材AとFだ。「座り心地」以外の3項目の最高値をこのAとFが占めており、まさに「断熱クッション」づくりの本命といえるだろう。一方、「座り心地」の項目で最高値を出したのは素材Cである。肌ざわりや見た目の悪さを補う工夫ができれば、クッションの座り心地に大きく寄与する素材だということがわかる。また、「ポップコーンみたいでかわいい!」といった見た目に関する意見が多く集まったのが素材Dだ。クッションの表面にDを使用することで、一味違った不思議な見た目を演出することができそうだ。残る素材BとEはその硬さが仇となったのか、全体的に評価が低い傾向にあった。もちろん両者ともに断熱性能は折り紙付きだが、「断熱クッション」としては残念ながら扱うのが難しいようである。

Q5.実験で得られた知見を、応用する展望は?
A5.複数の断熱材を組み合わせた「ハイブリッド断熱クッション」の製作

座り心地アンケートの結果を元に断熱材を組み合わせ、寒さの厳しい北大路ハウスに適した「ハイブリッド断熱クッション」を2種類製作した。

一つ目は、座り心地で最高評価を得たCを、肌ざわり・見た目の良さ・温かさを兼ね備えるFの間に挟み込んだ万能型のクッションだ。サンドイッチ状にすることで、見た目や触感を損なうことなくCの柔らかさを付加することができ、ゴムの弾力感とスポンジの柔軟性が合わさった独特の座り心地を実現した。fig.6

もう一つは、Dの見た目の面白さに着目したクッションだ。全体的に評価が高かったAの表面にDを吹き付けて製作し、Aの「汚れが目立つ」、Dの「底面が滑る」といった互いの短所を打ち消し合うことを試みた。Dは平面だけでなく、自由な表面形状をつくることができる点も特徴である。座り心地をより向上させるため、身体の形に合わせて緩やかな曲面をつくることを意識し、Dを吹き付けた。fig.7

普段は建材として壁内部に納められている断熱材も、クッションとして使うことで「床の冷たさ」に対する局所的な対策につながる。アンケートを取ってみることで、その使用感や家具としての適性がさまざまであることが浮き彫りになったのは面白い発見であった。

さて、これまで北大路ハウスの温熱環境を局所的に改善するような実験を2つ紹介してきた。次回は日射熱を利用して暖かくなる、小さな「ハナレ」の実験についてまとめたい。

文責/齊藤風結(京都大学大学院平田研究室)

小椋大輔

1969年兵庫県生まれ/神戸大学大学院工学研究科修了/2004年〜京都大学大学院工学研究科助手、同助教、同准教授を経て2017年〜同教授、博士(工学)

平田晃久

1971年大阪府生まれ/1994年京都大学工学部建築学科卒業/1997年同大学大学院工学研究科修士課程修了/1997〜2005年伊東豊雄建築設計事務所/2005年平田晃久建築設計事務所設立/現在、京都大学教授

伊庭千恵美

1977年北海道生まれ/京都大学大学院工学研究科修了/2002〜12年北方建築総合研究所/2012年〜京都大学大学院工学研究科助教/2019年〜同大学准教授/博士(工学)

岩瀬諒子

1984年新潟県生まれ/京都大学大学院工学研究科修士課程修了/EM2N Architects/隈研吾建築都市設計事務所/2013年岩瀬諒子設計事務所設立/2019年~京都大学助教

髙取伸光

1992年愛知県生まれ/京都大学大学院工学研究科修了/2020年~同大学助教、博士(工学)

小椋大輔
平田晃久
伊庭千恵美
岩瀬諒子
髙取伸光
ぬくもりデバイス実験日誌

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今回アンケートに使用した6種類の断熱材(熱伝導率は非定常熱線法による測定値)

各素材の使用時の熱画像。ふるまいの痕跡が模様のように表れる。/撮影:筆者

座り心地アンケートの結果をまとめたレーダーチャート

イスや床の上に敷き、暖かく座る。/撮影:筆者

モコモコの見た目で、インテリアのアクセントに。/撮影:筆者

fig. 7

fig. 1 (拡大)

fig. 2