担当/山口航平(平田研究室)、桑原摩周、大塚悠生(小椋・伊庭研究室)
本記事では1つ目のぬくもりデバイスとして、ダクトを用いて暖気を移動させる実験を紹介していく。
Q1.どんな実験装置をつくった?
A1.温度ムラを利用した空調ダクトfig.1
大きな吹き抜け空間に生まれてしまう温度差─。
1つ目の実験では、天井裏に溜まった暖気を1階リビングまでバイパス的に繋ぐダクトを設置した。圧力損失・熱損失の観点から小椋・伊庭研究室の参加メンバーが助言を行いながら市販のダクトを用いて製作した。冬場、北大路ハウスでは1階リビングと3階天井裏で13℃もの温度差が生じていた。大きな空間の中で、人のいない場所に溜まった暖気を、人の居場所に移動させるべく、空気のバイパスとなるダクトで「フレキシブルな局所空調」をつくることを目指した。
Q2.この実験のきっかけは?
A2.北大路ハウス1階と3階で13℃もの温度差があったこと
北大路ハウスのメインとなる暖房空調は3階にあり、冬になるとその空調をつけていても1階共用リビングの室温は低い状態が続いていた。底冷えする状況を改善できないか、小椋・伊庭研究室に早速相談をもちかけた。fig.2
Q4.計測結果や住人の感想は?
A4.局所暖房が実現し、そのまわりに人の居場所ができた
ダクトを3階天井裏のエアコン吹出口に繋いだことで、1階リビングに温風を吹き出すことが可能になった。局所的な暖房として、吹出方向に約1.5mの範囲で即効性のある暖房効果が認められた。
北大路ハウスのリビングは3層吹き抜けの大空間になっていて、エアコンからの暖気が上部に集まってしまい、室全体に温かい空気が行き届いていないことがわかった。実験以前、住人たちはサーキュレーターを回すことで建物内の空気を循環させようとしたのだが、大容積の空気を流動させることによる室温調整は効果が薄いうえに、電気代もかかってしまう。また、空気を流動させたことで周辺の低温空気との混合が進み家全体で温度が十分に上がらなかった。
そこで本実験では、室全体の空気を扱おうとするのではなく、コンパクトで局所的な改善を目指した。大きな空間の中に小さく温かい居場所をつくることで、シェアハウスという流動的な人の暮らしに合わせたフレキシブルな局所空調を提案する。
Q3.温熱環境的な観点での設計上の工夫は?
A3.熱損失の観点から適したダクトを選択し、圧力損失を考慮して配置計画を行った
大型の空調がある3階の屋根裏から1階までダクトを延ばすには10m弱の長さが必要となる。この過程での熱損失を抑えるために、断熱材の巻かれた保温ダクトを採用した。また、ダクトの曲率が大きいとダクト内の圧力損失が大きくなるので、緩やかな曲線を描くようにダクト配置計画を行った。柱梁の隙間を縫うようにダクトを這わせ、2階の生活動線を邪魔することなく、3階から1階までをつなげることができた。fig.3
Q4.計測結果や住人の感想は?
A4.局所暖房が実現し、そのまわりに人の居場所ができた
ダクトを3階天井裏のエアコン吹出口に繋いだことで、1階リビングに温風を吹き出すことが可能になった。局所的な暖房として、吹出方向に約1.5mの範囲で即効性のある暖房効果が認められた。fig.4fig.5fig.6
実験の結果、空間全体の温度に影響を及ぼすことは概ねなかったが、容積の小さなキッチンにダクトを導入した場合では室温の上昇が起きた。実験を進めていくなかで、冬場はガランとしていた1階共用リビングに、局所的に住人が留まることが増えたようだ。「足元にダイレクトに暖かい空気が来るのでありがたい」「極寒だったキッチンも暖かくなり人の溜まり場になった」などの感想が住人から聞かれた。fig.7
Q5.実験で得られた知見を、応用する展望は?
A5.大きな吹き抜け空間でも快適な温熱環境を局所的につくり出せる
建物の断熱性が低いと外気に近い場所から下降気流が生じて、室上下の温度ムラが生じやすくなる。また、室容積が大きいとエアコンの限られた出力では空調をまかないきれない。しかし、それぞれの課題に対して大がかりな断熱工事や高性能な空調の導入でしか温熱環境を改善できないのだろうか?
本実験では、「ダクトを動かす」という小さな所作で、局所的ではあるが快適な温熱環境を実現できた。空間に見合う適切な空調設備の在りかたと同時に、大きな空間に点在する小さな居場所の可能性を考えるきっかけになった。
次回は、さまざまな断熱材を用いて製作した「断熱クッション」を紹介する。
文責/山口航平(京都大学大学院平田研究室)