芸術特区
2006年、当時高雄県文化局局長を務めていた大学の同級生からの誘いで、「衛武営国家芸術文化センター」の計画準備としてヨーロッパ視察に同行した。大型文化施設と都市計画の実地調査のために、フランスのリール(Lille)、イタリアのトリノ(Torino)、スペインのビルバオ(Bilbao)を訪れた。これらの都市は旧市街の資源、魅力ある建築、文化芸術活動の融合によって、文化で経済を促進することを実現し、工業都市から「芸術特区」文化芸術都市へ変身し、世界に革新的な方向性を示した。
「芸術特区」は、余剰地になった大規模な工業地や軍用地を、アートやエンターテインメントの場として活用する都市発展計画戦略の一つである。大型文化施設の建設、または工業地帯景観の再生により、都市に新たな活力を吹き込んで、地域活性化の促進を期待するものだ。
高雄は日本統治時代から工業都市として位置づけられた、台湾最大の港湾都市である。また、20世紀末より、都市の変遷が活発に進んでいる。愛河沿いの景観改造やMRT駅にパブリックアートの設置、また衛武營國家藝術文化中心(衛武営国家芸術文化センター)、大東文化藝術中心(大東文化芸術センター)、「亜洲新湾区」の駁二藝術特區(駁二芸術特区)、海洋文化及流行音樂中心(高雄流行音楽センター)などの文化芸術施設が建てられ、“アート” があふれる都市が目指されている。fig.1fig.2
衛武營國家藝術文化中心(衛武営国家芸術文化センター)
「衛武営」は日本統治時代の軍事基地から転用した世界最大の単一屋根の大型ホールであり、オランダの建築家、フランシーヌ・ホウベン(Francine Houben )が衛武營都会公園内にあるガジュマル林を着想してデザインされた。波のような曲線フォルムの屋根が歌劇院(オペラハウス)、音樂廳(コンサートホール)、戲劇院(プレイハウス)、表演廳(リサイタルホール)、野外劇場など複数のホールを繋ぎ、それらは木の幹に穿った穴のようなつくりだ。建物は鉄骨構造で、連続した流線型の曲面を用いて47ヘクタールもある都会公園と一体化して、流動性のある空間がつくり出されている。fig.3fig.4
高雄市駁二藝術特區(駁二芸術特区)
「駁二」は高雄港内第2フィーダー埠頭(第二号接駁碼頭)に位置する。かつて輸出する魚粉や砂糖の保管倉庫として使われていた倉庫群が、糖業の衰退とともに放置されて廃墟になった。2002年に、地元の芸術文化団体のもとで廃棄された旧倉庫群をリノベーションし、アート・スポットとして「駁二藝術特區」が設立された。エリア内はレンガ倉庫の外観を保存しながら、広場や港湾への視線の抜けを確保した。催されるさまざまなアートイベントを契機にして、市民が港湾に親しみをもてるようにアピールしている。元は貨物用として使われていた路線を引き継いだ路面電車ライトレールが哈瑪星台湾鉄道館、駁二藝術特区、高雄流行音楽センターなどの文化施設を貫いて、港まちの再生を推進している。(『a+u』2019年7月号)fig.5fig.6
海洋文化及流行音樂中心(高雄流行音楽センター)
「海洋文化及流行音樂中心」は高雄港の11-15号埠頭、愛河と高雄港の合流点に位置している。スペインの建築家Manuel Alvarez Monteserin Lahozが、海のイメージを取り入れてデザインを手掛けた。波のしぶきを象徴する高さの異なる二つの鋼構造の建物で構成され、大型屋内ホールである建築主体と連絡橋で繋がるのは、六角形のサンゴ礁の形を屋根とする海洋文化展示センターと六つの小型ライブハウスである。2021年に竣工予定で、高雄の港湾都市のハイライトになると予想される。fig.7fig.8
本コラム「台湾の都市と建築探訪」では、台湾の各都市の特質をはじめ、グローバル化とローカル化の課題にもとづいて、都市の新・旧共生、緑園都市、生活景観、芸術特区などの戦略方法によって独自の個性を構築する取り組みを紹介した。
翻訳/林君嶸(奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程社会生活環境学専攻)