トロント中心部の骨格を成すグリッド状の都市形態は、18世紀の終わりごろ、当時の副総督ジョン・グレーブ・シムコーによって計画されたのが始まりだ。北米一長いといわれる道、ヤングストリートを始めとした主要道路が南北上に6つ、東西に6つあり、都市中心部を構成している。トロントの都市は車中心のまちづくりから、歩行者中心へと大きく移りつつあり、さまざまなストリートデザインプロジェクトが実施されている。その中でも今回はキングストリートとクイーンズ・キーストリートを紹介する。
公共交通優先の道づくり「キングストリート・パイロットプロジェクト」
キングストリートは東西を結ぶ主要道路で、道路添いの一帯はレストランや小売店などトロントの最も重要な商業地の一つだ。しかし、渋滞によるストリートカー(路面電車)の遅延が売り上げの低下や利用者の減少を招き深刻な問題となっていた。トロント市と筆者が所属するPUBLIC WORKによるパイロットプロジェクトfig.1fig.2は、車道の一部をストリートファニチャーやアートの場所として使用すること、そして、車の利用を制限しストリートカーを潤滑に運行させることによって歩行者中心の道づくりに成功したプロジェクトの一つだ。ストリートファニチャーは一般公募によって選ばれた作品を採用している。
ウォーターフロントを東西に結ぶクイーンズ・キーストリート
クイーンズ・キーストリートは、West 8の設計による「WaveDeck」やPUBLIC WORKが設計した「The Bentway」、Claude Cormier + Associésによる「Sugar Beach」など多くのランドスケープ作品が存在する商業地であり、ウォーターフロントを東西に結ぶ道だ。国際コンペティションによって選ばれたクイーンズ・キープロジェクトでは、湾岸沿いの主要幹線道路であったクイーンズ・キーストリートの北側のみを車道とし、中心をストリートカーと自転車道、そして南側をゆったりとした遊歩道とすることで歩行者中心の道のデザインとして、ウォータフロントの活性化に成功した事例だ。コロナ禍の現在は、土日に限り北側の主要道路も自転車道のみとして使われ、ロードバイクを楽しむ人でにぎわっている。fig.3fig.4