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2021.05.01
Essay

第2回:台湾の都市と建築探訪 ---緑園都市の台中

海外の都市

許國威/台湾・朝陽科技大學 (設計学院)景観・都市デザイン学科教授

緑園都市の台中

私が勤務している朝陽科技大学は、台湾中部最大の都市―台中に位置している。多くの同僚は台北育ち、海外留学を経て、台中に住むという人生を歩んでおり、私もまた同じである。台中は穏やかな気候で、豊かな自然環境、多様なエンターテインメントがあり、台湾でもっとも住みやすい都市とも言われている。

自宅の近くに樹齢千年を超える茄苳老樹(アカギ)がある。樹高30m、樹冠面積1,500㎡に達し、台湾の平地ではもっとも古く、最大の茄苳老樹だと言われている。都市開発にしたがって、茄苳老樹のそばにビルの建設計画があり、茄苳老樹の日当たりに影響を及ぼすことを予想された。それに対して台中市民が「茄苳樹王救出」運動を起こし、市政府が建設会社と土地の交換で合意して、その土地を文化生態公園として、住民が散歩したり息抜きできる緑地空間になった。

台中駅の隣にある、帝国製糖台中工場用地は当初ショッピングセンターに計画されが、基礎工事の掘削作業の中止があり、すでに掘り進められた土地が大きな人工池になってしまった。その結果、都市計画で全面的見直しになり、工業地域を住居地域や商業地域に変更し、帝國糖廠湖濱生態園區「台糖湖浜生態園区」に画定された。「綠空鐵道軸線計畫Taichung Overpass」に基づいて鉄道高架下の緑地や緑があふれる空中回廊が台中駅までつながっている。かつて台中市内にあった水湳空港が移転したあとに「水湳知恵城」が計画され、プロジェクト全体的の構想とデザインコンセプトは67ヘクタールの“セントラルパーク”であった。台中は、一本の古木と人との関係から、日本統治時代に残された製糖工場の再利用、空港から公園への転換、多様な手法を用いて緑園都市を実現している。

緑園都市は公園緑地やグリーンビルディングの増加だけではなく、都市が気候変動の問題に直面するときに市民が都市空間の発展についての公共課題への参加が生活意識変化のプロセスにもなる。都市の緑色回廊の構想は大規模な工業地域の「ブラウンフィールド」が「緑地」に転換する機会を提供している。緑園都市は都市計画、景観、建築など多様な専門領域の統合によりはじめて実現できる。


台中之心計畫

「台中之心計畫」は台中市にある7本の園道(グリーンベルトGreen belt)、7つの公園を繋がった全長さ17.2キロメートルの緑のネットワークである。fig.1歩行者路、自転車路、緑地帯および広場などの機能を備えている「緑園道」は台中の特徴的な都市計画で、市民は建築家伊東豊雄により設計された台中国家歌劇院(台中メトロポリタンオペラハウス)での観劇や、緑園道で飲食を楽しみながら催されるイベントに気軽に参加できる。「台中之心」は公園緑地空間を「綠空鐵道」(Taichung Overpass)、「綠川水岸廊道」(Shin Sei Green Waterway)、「柳川藍帶水岸」などの都市の緑地帯基盤を繋ぎ、周辺建物がセットバックした空間の緑化や古い建物をリノベーションしてクリエイティブなコミュニティーを形成するなど、さまざまな手法を用いて台中緑色都市空間を構築している。fig.2fig.3

水湳智慧城

「水湳知恵城」は台中が「革新的なガーデンシティ」をつくる野心的なプロジェクトである。fig.4ルーヴル美術館ランス別館の景観デザインを手掛けるフランスの景観設計家Catherine Mosbach、スイスのPhilippe Rahm建築家、および台湾の建築家劉培森と共同でデザインした中央公園は、「緑の肺」という設計コンセプを実現するために、大量の樹木と水景観を用いることによって、公園の気温を調節し、空気中の粉塵を吸収するなどさまざまな機能を果たしている。fig.5fig.6
中央公園の北端に位置する「綠美圖」は美術館と図書館の複合建築であり、建築家の妹島和世(SANAA)による設計だ。透明なガラスと軽いアルミニウムでつくられた外壁、8棟の建築物の通過性や流動性を設け、建築物自体が公園緑化と都市景観を担っている。「綠美圖」のほか、智慧營運中心、中台灣電影中心(中台湾映画センター)、水湳轉運中心、國際會展中心(国際コンベンションセンター)など多彩な施設が中央公園に次々と登場し、ランドスケープと建築の美しい都市景観をつくっている。fig.7fig.8

翻訳/林君嶸(奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程社会生活環境学専攻) 

許國威

1966年台湾台北市生まれ/1996年テキサスA&M大学都市および地域科学の博士号を取得/台湾住宅都市開発局公務員を経て台湾の彰化県で環境景観の総合コンサルタントとして勤務/研究分野は都市再生、生態都市計画・設計、産業文化資産再発展、文化資産空間再利用運営管理など

    許國威
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    7本の園道、7つの公園による緑のネットワーク「台中之心」/出典:台中市政府

    「緑園道」草悟道の一角/撮影:筆者

    「緑園道」市民広場の一角/撮影:筆者

    水湳知恵城全体図

    水湳知恵城の中央公園内 (全体図番号③)/出典:台中市政府

    水湳知恵城の中央公園内 (全体図番号⑤)/出典:台中市政府

    「水湳知恵城」緑美図の完成予想図(外観)/出典:台中市政府

    「水湳知恵城」緑美図の完成予想図(内部)/出典:台中市政府

    fig. 8

    fig. 1 (拡大)

    fig. 2