台南の生活景観
台南の都市発展は、大航海時代の17世紀オランダ統治時代に遡ることができる。台湾は当時、東アジア貿易圏に参入しはじめ、台南は台湾の文化首府として位置付けられていた。これまで都市の歴史や文化を物語るものとして保存されてきたオランダ、明鄭、清朝、日本など、各統治時期の歴史街区や建築が、生活空間の記憶と痕跡になり、台南都市発展においての資産となっている。
台南に位置する、筆者の母校である成功大學へ古くからの友人を訪ねた。大学時代を思い返しながら歴史的なまち並みを散策すると、その趣や、路地に隠れたグルメに心惹かれる。台南市政府は都市デザイン戦略で歴史的文脈を尊重し、公共のオープンスペースと歴史建築の再利用を都市の触媒(Urban Catalysts)として位置付けている。地元の文化事業者が古い建築空間に新風を吹かせ、行政とともに台南の特有な生活風景をつくだしている。fig.1
孔子廟周辺
台南の旧市街の核心である孔子廟周辺に、明鄭政権時代や清朝統治時代の寺廟と路地空間、日本統治時代の旧台南州庁(現台湾文学館)、旧台南警察署(現台南市美術館1館)、旧台南地方法院(現司法博物館)などの公共建造物群が保存されている。fig.2fig.3また、台南神社跡地で駐車場予定地となっていた場所を、台南市美術館2館に改造し、建築家坂茂の設計で、台南の暑い気候を考慮し、日差しを遮るように葉かげをモチーフにしたフラクタル構造のガラス屋根が構成されている。積み重ねられた複数の“ボックス”が緑と光が楽しめる半屋外のオープンスペースを形成し、周辺の生活街区との繋がりを生んでいる。fig.4fig.5
五條港
神農街は台南でもっともよく保存された歴史的街区と知られ、清朝時代の台南旧市街地と運河を結んだ五條港地区の栄枯盛衰、および都市再生の変容を記録している。かつての重要な商業エリアであった海安路の拡張と地下街計画は、現地の都市文脈を壊してしまい、衰退をもたらしたが、市民の歴史的街区に対する参加意識が芽生えるきっかけとなり、まち再生の転換点になった。fig.6fig.7
府城軸帶景觀改造計画
「府城軸帶景觀改造計画」はオランダのMVRDV建築チームが手かける緑と水を都市と結びつけたプロジェクトである。“台湾の森”をコンセプトにした緑地帯が、新道路の整備で分割された古い路地を一体化することに期待される。かつて水路沿いの漁獲集散地であった廃墟が屋外水遊び広場の「河樂廣場」(台南スプリング)に改修された。ラグーン循環式システムを備えた大型親水空間は、台南の都市中心部と運河水路の歴史的な空間との融合を実現している。fig.7fig.8
翻訳/林君嶸(奈良女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程社会生活環境学専攻)