運動共感(kinaesthetic empathy)の起源といえる2人の美学者、フィッシャーとスリオは細かな観察を通してその現象の姿を描き出した。彼らの観察重視のアプローチを踏襲すると、身の回りの動きのデザインに対しどのような気づきが得られるだろうか。
自動改札機の動きを例に考えてみよう。下の図は、ロンドン地下鉄の改札機が開く様子を筆者がスケッチしたものだ。改札機を見てまず気づくのは、扉が軋みながら開く時のぎこちない動きである。しばらく動かしていない錆び付いた身体を、無理に動かすときのような固さが感じられる。fig.1fig.2
また、扉が開ききって、勢い余って改札機の土台に「バン!」とぶつかる様子からは、痛々しさが感じられる。改札機と私たちの身体はまったく別の構造と素材でできているにも関わらず、このように、身体感覚の破片が物体運動の中に垣間見えることがある。
こうした発見は観察の瞬間に一度に見つかるというよりは、観察、スケッチ、アノテーションを繰り返すなかで、観察者の感性が鋭くなる(正確には、注意しているものに対して研ぎ澄まされる)ことで可能になる。
改札機の例のようなアプローチでさまざまな物の動きを観察することで、物の動きと、われわれのもつ運動感覚の間のリンクが徐々に明らかになる。次回は、このアプローチを通じて筆者が特定した、運動共感の15の要素について紹介する。