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2022.05.18
Interview

これからの街づくりの基盤となるデジタルインフラ

PLATEAUに見る都市とデータ

内山裕弥(国土交通省都市政策課)×吉村有司(東京大学先端科学技術研究センター)

アーバンサイエンスの基盤となるデータ整備。国土交通省は2020年から、3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に向けた取り組みとして「Project PLATEAU」をはじめました。今回は国土交通省都市政策課課長補佐でPLATEAUのプロジェクトディレクターを務める内山裕弥さんにお話を伺いました。そもそも都市のデータとは何か、PLATEAUとはどんなプロジェクトか、デジタルツインとは何か、データ整備に取り組む人として建築家や都市計画家に何を期待しているかなど、都市データの基本的な考え方から今後の展望まで、詳しく解説していただきました。(新建築.ONLINE編集部)

時代に応答するデータプラットフォームの始動

吉村 アーバンサイエンスの発展にはその基盤となるデータ整備が必須ですが、ヨーロッパと比べて、日本はその整備が遅れています日本の都市データの整備状況は、瀬戸寿一による論考「参加型まちづくりに向けたオープンデータの整備──日本の都市空間に関わるデジタル地図データを中心に」に詳しく記述されている。(https://shinkenchiku.online/column/4259/)。その中で、2020年から国土交通省が始動した「Project PLATEAU」(以下、PLATEAU)にとても期待しています。PLATEAUの登場によって、僕の周りでも都市データにあまり興味を示していなかった人たちがデジタルツインについて言及し始めるという変化が起こっています。一方で、PLATEAUという言葉は聞いたことがあるけれど、それが一体何なのかはよく分からないという声も多く聞きます。そこでまず基本的なことを伺いたいのですが、PLATEAUとはどのようなプロジェクトなのでしょうか?

内山 PLATEAUは、デジタル技術を利用して新しい価値を生み出し、これまでの街づくりの仕組みを変革することを目指すプロジェクトです。主に3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化に取り組み、Society5.0狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指す。政府の第5期科学技術基本計画(2016年1月)では「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(超スマート社会)」と位置付けられている。やデジタルツイン物理空間のデータを収集し、仮想空間で再現すること。これにより、物理空間の変化を仮想空間でシミュレーションすることが可能となる。などを実現しようとしています。
3D都市モデルは、全国の都市を対象に、建物や道路などのオブジェクトを3次元形状のままデータ化することで構築しています。それらのオブジェクトには用途や構造、竣工年などさまざまな情報が属性として付与されており、かたちと中身の情報が同じデータにパッケージされていることが大きな特徴です。そこに都市計画・災害リスク・人流的データなどのさまざまな情報を重ね合わせて解析することで、各都市の精緻な分析やシミュレーションが可能になります。
非常に大規模なデータセットをつくっているので、大がかりなことをやっていると思われることが多いですが、実はそんなことはありません。PLATEAUは、これまで各自治体の中に蓄積され、あまり活用されてこなかった地図や3次元計測データを再利用し、3D都市モデルのデータ形式にまとめることで、新たな付加価値を創出しています。このため、データソースの収集にはあまりコストはかかっていません。かつ、各自治体が定常的に業務の中で収集しているデータをもとにつくることができるので、整備スキームに汎用性があります。政府はPLATEAUのほかにもさまざまなデジタルソリューションに取り組んでいますが、それをどう拡大させるかというところまであまり考えられておらず、単発のプロジェクトとして終わってしまうパターンも少なくありません。この拡張可能性がPLATEAUが3年目を迎えることができ、規模が大きくなってきた理由のひとつだと思います。

吉村 整備スキームの拡張性という視点は非常に重要ですね。デジタルツインはわれわれの社会を50年、100年という長期的なスパンで見た時に必ず必要となってくる社会的共通資本だと僕は常々いっているのですが、そうなるためにはプロジェクトが継続し、国土交通省が長い年月を掛けて構築してきた道路のような存在、われわれの生活になくてはならない存在になることが必要不可欠だと思っています。現に何十年も前から都市におけるデジタル化に取り組んできたヨーロッパでは、3D都市モデルが「都市計画の現場にあって当たり前の存在」になりつつあります。日本でもPLATEAUの登場によって、都市データへの注目が一気に高まったと感じています。そもそもなぜこのプロジェクトを始動するに至ったのでしょうか?

内山 吉村さんがおっしゃったように、3D都市モデルはもともとヨーロッパの技術です。EUは15年ほど前からデータ整備に取り組み、都市開発のシミュレーションや、高速道路をつくる際の音響アセスメントなどで使うことが定着していました。われわれも海外事例の調査研究などは行っていましたが、技術面では圧倒的に遅れていました。
PLATEAUが始動した2020年、コロナ禍をきっかけにDXやデジタル化の重要性が政府内で認識され始めました。各省庁で、DXで何ができるのかを考える動きが高まり、そこですかさず、「3D都市モデルというものがあります」と持ち出したんです。それにより、これまでは小規模に海外事例の調査を行っていたところに、大きなプロジェクト規模でデータの標準化と実証データづくり、ユースケース開発を一気にスタートさせるに至りました。

吉村 国土交通省には何事にも慎重なイメージがあったのですが、PLATEAUはそのイメージとは違い、現代のいわゆるデジタル化の流れにうまく乗っていますよね。プロジェクトの見せ方という観点でも戦略的だと思っています。僕がバルセロナのカタルーニャ先進交通センター(カタルーニャ州政府)にいた時の上司で、ジャウマ・バルセロ博士という交通工学の世界的権威がいます。彼は1980年代に数理ベースの交通モデルを組み立て、学術研究の成果から大学内でスタートアップを立ち上げて大成功させました。今では世界中で使われている交通シミュレーションなのですが、彼曰く、最初は2Dで車の動きをシミュレーションしていただけで見向きもされなかったのに、3Dにした途端に注目が集まったんだそうです。ソリューションをより多くの人に活用してもらうには見せ方も大事だ、というのが彼からの学びですが、PLATEAUは非常に凝ったホームページやプロモーションビデオを制作していて、ブランディングが徹底されていると思いましたfig.1

内山 PLATEAUは、これまで2DでつくっていたGISデータを3Dにしようというだけで、本質的には非常に地味なプロジェクトです。始まった当初はGISを発展させることを大きな目的にしていました。それがここまで展開したのは、さまざまな人を巻き込むようなコンテンツ性があるからだと思います。より多くの人に使ってもらうには、従来の省庁的な方法ではない見せ方が必要だったため、プロモーションやブランディング戦略にも力を入れました。その結果、サービスの見せ方やソリューションの開発の仕方によって、多くの人に注目してもらえるようなプロジェクトとなりました。

公共サービスとしてのデジタルインフラ

吉村 都市分析において、Google Street View(GSV)の登場は研究者に衝撃をもたらしました。まったく同じフォーマットで世界中の風景画像が取得できるというのは、都市分析をする際にこの上ない基礎データになるからです。さらにGSVは時系列データとしても利用できるという点も大きいと思います。特に日本の風景のように、街路の構造自体はあまり変わらないのに、その表層はコロコロと変わってしまう都市景観を時系列の記録として残しておくことは非常に重要だと思います。モニュメントと見做されるような建築は官・民それぞれの視点からそれなりにデジタルデータが保存されてきていると思うのですが、街角などの何気ない都市の風景は、意識して残していかないといつの間にか消えてしまいます。しかしそのような、外から見ているとあまり価値のないような景観が、実はそこに暮らす人びとにとってはかけがえのないものであり、その地域の人びとのアイデンティティに関わってきたりするのです。

内山 建物や場所に紐付けて変化を保存していくのも、PLATEAUの役割のひとつです。データには作成した年度情報が入っているので、時系列で保存できます。たとえば愛知県名古屋市では、平成3〜28年のデータセットが用意されていて、オブジェクトの色で建物の用途や構造を分けて都市変遷を確認することができますfig.2fig.3
PLATEAUには、GAFAのようなメガプラットフォーマーが本来公共財であるべきサービスを支配的に提供している現状への問題意識があります。誰もが提供されたデータを、そのまま継続的に使用できるように、国が担保する必要があります。われわれはPLATEAUを、道路などと同じ公共的なサービスとして社会に提供するデジタルインフラと位置づけています。
また、ここで重要なのは、PLATEAUが提供するデータはオープンフォーマットであるということです。3D都市データはこれまでさまざまにつくられてきましたが、独自のワンオフサービスとして展開され、他サービスやプロジェクトでの活用が難しいことが課題でした。PLATEAUは国際標準で定められたオープンフォーマットを採用しているため、データ仕様やつくられ方までが共通理解となり、たとえばUnityやUnreal Engine、GISなどを使えば開発に活用することができます。それに加えて、関連するソフトウェアのソースコードもオープン化しています。たとえば、われわれがリリースしているPLATEAU VIEWという都市モデルを可視化するウェブシステムは、ソーススクリプト自体もオープンにし、それぞれの好みにカスタマイズするためのスクリプト機能や、PLATEAU VIEWを構築するためのサンプルスクリプトなども公開していますPLATEAU VIEWなどのソースコードはProject PLATEAU Github(https://github.com/Project-PLATEAU)から入手できる。。これまでGISは限られた人しかコミットできない世界だったのですが、さまざまな分野の人たちがコミットしやすい、開発者フレンドリーな環境を整備しています。
オープンフォーマットという点での課題は、データの標準化です。いろいろな規格の3Dデータが乱立してしまうと、相互に参照不可能になり非常に非効率です。規格を統一して誰もが共通の基盤で使えるようにした方がイノベーションが起こるはずです。ただ、標準データモデルをつくる際は、規格の検証をしなくてはなりません。3D都市モデルの国際標準規格は、現在PLATEAUが策定している標準仕様よりも多くの定義を持っており、たとえば水のモデルの標準仕様が定められていたりします。PLATEAUでもこれから表現できるオブジェクトをどんどん増やしていく予定で、昨年度は車道や歩道、植栽や路肩など、道路の詳細な部分を標準化しましたfig.4。うまくいけば、これから地下構造物、橋、堤防、トンネルなどもモデルで再現できるようになります。

都市データによって変わる暮らし・社会

吉村 PLATEAUの登場によって、社会の都市に対する考え方や捉え方は明らかに変わってきていると感じています。先日、国土交通省主催でオンライン開催された「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現会議」には、400人近くの視聴者が集まりました。それだけ社会全体が興味を持っているということの証左だと思います。
これまでは、膨大な都市データが分散していたり、そもそもデジタル化されていなかったり、自治体ごとにフォーマットが違い比較ができなかったりと、使う以前の問題に悩まされてきました。そこに、PLATEAUという統一的なプラットフォームができたことで、これからさまざまな研究や事業の生産性が大きく向上すると思います。

内山 これまでDXやデジタルツインへの理解は概念的なものに留まっていて、実際それが何なのか、ということはあまり認知されていませんでした。ところが、PLATEAUは大量にデータをつくり、実践的なユースケース開発にも力を入れたことで、デジタルツインを示すことができたのです。今度はデジタル技術を使って何をするか、ということを具体的に考えるフェーズに変わってきています。

吉村 実際にビジネスでPLATEAUを活用しようとする動きはあるのでしょうか?

内山 PLATEAUを使った新しいビジネスはたくさん生まれています。たとえばSymmetry Dimensionsは、都市の防災や開発を考える時のシミュレーションや、データと組み合わせた解析サービスをクラウド上で提供するSYMMETRY DIGITAL TWIN CLOUDを始めています。また、PLATEAUのハッカソン・プロジェクトをきっかけに立ち上がったヘキメンは、広告効果検証サービスを手掛けています。街中の看板を、1日のうち誰がどのぐらい見ているかを、PLATEAUの位置情報や人流データを解析し、看板にリーチする人数、属性などを算出・提供しています。ほかにも、Psychic VR LabはARコンテンツの制作にデータを活用していたりと、ビジネス向けのサービスから映像やインスタレーションなどのエンターテイメントまで、さまざまな使われ方をしています。
政府もユースケース開発として、市役所・都道府県・公共団体の政策に活用する社会課題解決型や、民間企業が提供するサービスやプロダクトに3D都市モデルを入れ込み、新しい価値をつくり出す民間サービス創出型など、官民の幅広い領域で3D都市モデルを使用してもらう取り組みを行っていますfig.5

吉村 PLATEAUを活用した屋外広告の検証サービスは面白い視点ですね。僕も以前、ルーヴル美術館で来館者の動きを取得するのに用いていたBluetoothセンサーのシステムfig.6を使った屋外広告掲載場所のポテンシャル検証のビジネスモデルを日本の会社に提案したのですが、その時は「そういうことをやられたら困る」といわれてしまいました。今から10年も前のことなのですが、当時は広告を都市形態に合わせて3D的に見たり、人の動き方・歩き方に合わせた広告間の繋がりといったことは意識していませんでした。しかしPLATEAUの登場によって、そのような屋外広告検証ビジネスモデルにまったく新しい可能性が出てきたと感じています。またデータとしても携帯電話トラッキングなどから得られる人流はかなり粒度の粗いデータなので、そこはBluetoothやWi-Fiなど粒度の高いデータと組み合わせるとよいのかもしれません。このようにさまざまな種類のデータがPLATEAUにのってくると、また新しい活用方法が生まれてくる予感がします。
内山さんは、データが整備されていくことによる都市の変化について、具体的なイメージを持たれているのでしょうか?

内山 たとえばハザードマップを3次元化して、浸水危険箇所や避難場所までの経路を3Dで見せながら市民と避難計画を考える自治体があったりと、PLATEAUによって生まれたサービスが実装されることで、都市が安全になる、生活が便利になるという変化はすでに起こってきています。ただ、PLATEAUはあくまで3D都市モデルというデータを提供し、それによってアプリケーションを生み出すことがミッションなので、それ自体は都市をつくり変えるものではありません。

吉村 都市がいきなり大きく変わるというよりは、少しずつ長い時間をかけて変化していくというヴィジョンですね。PLATEAUのようなプラットフォームは、ビッグデータや人工知能(AI)を用いた都市分析と非常に相性がよい気がします。特に時系列で見た時の都市の変化をサイエンスとして分析して、その結果の上に計画を乗せていくというストーリーです。また、そのようにしてつくられた計画を住民と一緒に議論していく際のプラットフォーム、特にヴィジュアライゼーション(視覚化)という側面が今後のまちづくりには非常に有効になる気がします。さらに、現在バルセロナ市役所と今後のまちづくりと民主主義の議論をしているのですが、Decidimのような市民の声を幅広く集めて政策に落とし込んでいくようなデジタルプラットフォームとの相性も抜群だと思っています。現状のDecidimは、ほとんど文字情報だけのプラットフォームなのですが、ここに都市3Dモデルなどが絡んでくると、より一層熟議が活性化するのではないかと睨んでいます。

内山 時代は変わってきていると思います。国土交通省は基本的にインフラなどのハード面の整備を担っていますが、少子高齢化や人口減少で町が活気を失うと、ハードを整備するだけでは人びとの生活の質は上がらなくなる。そのため近年は、これまでにつくった膨大なストックの上で何をするかが重要だ、というパラダイムシフトが起こっています。こうした状況の中でコロナ禍になり、人びとのニーズはより多様化しています。便利なだけではない、いろいろな価値が重要視されてきているので、そういった期待に応えるために都市政策も変わる必要があります。問題が細分化かつ複雑化しているため、大雑把な立案をしてみんなで方向性を合わせられる時代は終わりました。これからの問題を解決するには、紙とペンだけではなく、デジタル技術が必要です。デジタル技術をまちづくりに積極的に取り入れていく方法を考える場として「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション実現会議」は位置づけられています。
時代はコントロールできるものではなく変わっていくので、PLATEAUからどんなソリューションを生むべきか、ということに関しては今後データを活用してくれる人たちに期待したいのですが、その基盤となるデータがないとそもそもDXは起こらないということが、PLATEAUをつくって図らずも分かりました。

吉村 われわれデータサイエンティストはデータがないと無力なのです。データを自分たちでつくり出したり、APIを通して取りにいくという方向性ももちろんあるのですが、それでもデータが存在するという条件は変わりません。また、研究者や研究室、民間企業などにおいて、データを扱うことができるのと扱うことができないのとでは、何をするにしても今後のアウトプットに相当な差が出てくることは明白です。
政府の中でのPLATEAUをはじめとするデジタル技術への風向きはどのような感じですか?これからデータを使って社会や都市が変わるためには、ほかの省の協力を得ることが大事ではないかと思っていますが、何か具体的な動きがあるのでしょうか?

内山 たとえば、国土地理院と連携し、PLATEAUの3D都市モデルを作成するための測量ルールを定めたりしています。これによって、いわば3D都市モデルは「地図」として位置付けられることになります。PLATEAUの広がりと共に、3D地図の有用性が認識されるようになり、国土地理院の中でも、3D都市モデルも「地図」と呼べるのではないか、という理解が徐々に広がったのだと思います。地図として扱われるということは、公の財産として参照されるということなので、PLATEAUにとって非常に重要な転機です。
現在の3Dモデルのカバレッジは約60都市と小さいので、本当の意味で地図として使われるためにはさらにデータを広げていく必要があります。今年度で100都市程度に増える予定ですが、日本には約1600の自治体があるので、まだまだ拡大が必要です。

データ活用者への期待

吉村 データを整備する立場として、今後のデータ活用に期待されることはありますか。

内山 たくさんあります。特に都市計画や地理、建築など、都市データと親和性の高い分野でいうと、研究に使ってほしいです。PLATEAUのデータはこれまでなかった新しいデータセットなので、使い方が確立されていません。現在はまだ手探りの段階ですが、そういったことを研究できるのは大学などの研究機関か政府のどちらかだと思っています。政府は利益を考慮せずにイニシャルコストを負担する実証実験や先行調査はできます。一方で、民間と共同して実践的な取り組みができるのは研究機関なので、PLATEAUを使って自分の研究が他分野、あるいは社会にどう貢献し得るのかを探ってもらいたいです。

吉村 現状では交通問題や防災への活用を考えている人が多いと思いますが、僕はものごとを最適化するのではない方向で使えないかと考えています。データを扱うとどうしても人は「それをどう最適化するか?」ということを考えてしまいがちです。しかしそのような最適化からはこぼれ落ちてしまうところにこそ、まったく違った可能性があるのではないかと思います。
たとえば僕が数年前に開発したHIKAGE FINDERなどはよい例かと思います。都市内を移動する際に最短ルートではない「日陰が多いルート」という、時間と距離の最適化ではないもうひとつの可能性です。また、都市多様性と小売店・飲食店の売上の関係性に基づいたまちづくりもその類といえるかもしれません「ビッグデータを用いた都市多様性の定量分析手法の提案 〜デジタルテクノロジーでジェイン・ジェイコブズを読み替える〜」(2021年、https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20211208.html)/原著「Revisiting Jane Jacobs: Quantifying urban diversity」(Yuji YOSHIMURA, Yusuke KUMAKOSHI, Sebastiano MILARDO, Paolo SANTI, Juan MURILLO ARIAS, Hideki KOIZUMI, Carlo RATTI 『Environment and Planning B: Urban Analytics and City Sciences』, SAGE Publishing, Newbury Park, 2021, DOI:10.1177/23998083211050935)。近代の都市計画が示した特定用途による土地利用区分とその最適化ではなく、さまざまなものが混ざり合っている混合用途による土地利用が街路に賑わいをもたらすキーであることは誰もが認めるところだと思います。しかしそれらの用途がどのくらい混ざっていれば良いのか、徹底的に混ぜればよいのか、逆にある程度混ぜればよいのかなど、こちらも単純な最適化思考だけで解ける問題でもなさそうです。最近は都市における「感性的なもの」の定量化にも挑戦しているのですが、人間の五感や美しさのようなもの、ウェルビーイングを高めるような都市空間は、データの最適化だけから導き出せるものではありません。
そう考えると、実はPLATEAUのような大規模な都市データこそ、歴史や人文地理分野で応用できる可能性が大きいのではないでしょうか?そういった事例はまだあまり見かけません。

内山 私は学生時代に法哲学を学びましたが、哲学の研究は図書館で文献を読み漁ることなので、そこにデータという発想はありませんでした。たしかに言語哲学や分析哲学は数学を起源としているので、数学の領域に還元され得るデータと近い領域なのかもしれません。

吉村 そもそもPLATEAUという名前自体も、ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの評論集「千のプラトー」『千のプラトー 資本主義と分裂症』(宇野邦一、豊崎光一共訳、河出書房新社、1994年)に由来してますよね。僕はルネサンス建築とバロック建築の様式の違いを、大量の画像と機械学習から解き明かそうという研究をしていますが、その延長線上に、ライプニッツ哲学とバロック建築の形態の関係性(ジル・ドゥルーズ著、宇野邦一訳『襞:ライプニッツとバロック』、河出書房新社、2015年)をディープラーニングで結び付ける研究も行っています。このような研究はほんの数年前までならまったく思いつきもしなかったし、技術的にも難しかったと思います。この対談シリーズの巣籠悠輔さんとのお話の中で出てきた話題なのですが、その部分においては正にディープラーニングという技術の進展が大きかったと思います。上述のライプニッツとバロックの研究は、コンピュータサイエンスで開発された技術を人文系の研究に活かすという方向性ですが、そこにさらに時系列で人びとの営みや歴史が保存されていれば、今までは見えてこなかった建築や都市の側面が科学的に明らかになる可能性は大きいと思います。

内山 デジタルの長所は、理論上は無限にデータをストレージできることです。たとえば都市開発のワークショップなどではさまざまな生の意見が上がることもありますが、そのリアルな声が聞けるのはそのワークショップの中だけで、多くの人が知らないまま終わってしまいます。そういう声も動画などで建物に紐付けて保存することで、どんな経緯で街ができたかというプロセスもアーカイブできる。つまり、人びとの営みや歴史をデータ化することで、永久に保存、シェアできるという意味でも、人文的な方面で活用するという発想は、PLATEAUにおける本質的な役割だと思いました。

吉村 まったく同感です。そしてそこにこそ建築家の想像力と創造力が発揮される場面であるとも思っています。これまで建築家は、都市空間の中で行われる人びとのアクティビティを自身の頭の中で想像し、それに基づいて都市空間を創造してきました。逆にいえば、空間内で行われる人びとのアクティビティを想像して、適切な空間デザインに落とし込める人のことを建築家と呼んできたのだともいえます。同様に、その土地のコンテクストを読み込み、その場所に対するポテンシャルを理解したうえで適切な空間デザインを施せる職能、それが建築家であったということでもあります。このような枠組みに対して今何が起こっているかというと、これまで建築家が頭の中でしか想像できなかった人びとのアクティビティや土地の記憶、コンテクストがデータ化され、視覚化されながら、みんなに共有されてきているということです。このような状況の中で、われわれ建築家には一体何が可能なのか?それを考えるべき時代に突入しているのではないでしょうか。デジタル化といった技術の進展と、それに基づいた社会の変容を鑑みた時の建築家や都市プランナーの職能に対する問いだともいえると思います。

内山 私もそう思います。また、建築はCADやBIMソフトを扱うので、デジタルとの親和性は高いはずです。少しのきっかけがあるだけで、建築分野でもデジタルに精通する人は増えてくると思います。PLATEAUはまだ人文方面からの関心を多くは得られていないと思うので、理系と文系の間の存在である建築分野の方が人文分野と繋がり、データを活用することで新しい何かを生み出せる可能性に期待したいです。
これまで国は、基本的に大学での研究成果を使わせてもらい、政策立案に活かす側でしたが、国のサービスが研究に役立つということはすごく嬉しい転換ですし、その今後の可能性を拡張していきたいです。

(2022年4月14日、オンラインにて。文責:新建築.ONLINE編集部)

内山裕弥

1989年東京都生まれ/2012年東京都立大学(旧首都大学東京)都市教養学部卒業/2014年東京大学公共政策大学院法政策コース修了/2013年国土交通省入省/現在、国土交通省都市局都市政策課課長補佐

    吉村有司

    愛知県生まれ/2001年〜渡西/ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了/バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年〜東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任

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    fig. 6

    fig. 1

    fig. 2