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2020.08.01
Essay

第5回:Decidim デジタルプラットフォームは熟議をもたらすか

都市とテクノロジー

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

2016年、バルセロナはスーパーブロック・プロジェクト(市内の約60%の街路を歩行者空間に変更する計画、ja116号掲載)の社会実験という位置づけで、ポブレノウ地区の一角を歩行者空間にする試みを始めた。fig.1

現在では、「子どもの遊び場が増えた」など好意的に受け入れられているが、実施当初は近隣住民を巻き込んだ大論争が繰り広げられた。話し合いの場として市役所が提供したのが、擬似市民議会場だった。歩行者空間になった交差点のうえにチョークで丸い議場を描き、文字通り「くるま座になって」市民との対話を始めた。連日続いた対話は、夕方4時頃から始まって深夜2時頃まで続いていた。fig.2fig.3

ラテン社会においては、合意形成の技術の核心を「延々と続ける対話」に置く傾向がある。言いたい事を言い、聞きたい事を聞くというこの地域の文化が生んだ参加のスタイルだ。その延長上に生まれたのが、熟議を進めるデジタルプラットフォーム、Decidimだ。fig.4

「我々で決める」を意味するカタルーニャ語にちなんで名づけられたこのツールは、多様な市民の声を拾い上げ、それらを実際の政策に反映させるデジタル・プラットフォームだ。これまでも、オンライン上で市民の意見を集めるデジタル・ツールは数多く開発されてきた。しかしDecidimは、単にスレッドを立て、そこに言いたいことを書きつけるだけの掲示板ではない。「どのような仕組みにしたら熟議が引き起こされるのか」という点にまで踏み込んだ。たとえば、ある提案にたいするポジティブなコメント、ネガティブなコメントを分かりやすく表示することによって、付随するディスカッションをカスケード的に引き起こす仕組を導入した。また、議論の行方が一目で追える分かりやすいデザインが果たした役割も見逃せない。2015~2019年のバルセロナ市のアクションプラン策定の際には、4万人以上の市民が参加し、市民側から10,860の提案があり、約1,500のプランが採択された実績がある。そのなかには、昨今のオーバー・ツーリズムの波を受け、新しいホテルのライセンスの発行の許認可問題や、市内を斜めに貫く路面電車の建設を巡る問題など、都市に暮らす人々の生活に直結する議題が数多く議論されていた。

このように単なる掲示板という機能を超えて、熟議を引き起こす市民参加型のプロセスをデジタル・ツールによって補助することで、市民の声が自分たちの住むまちのかたちを決めていく時代が到来しようとしている。

吉村有司

愛知県生まれ/2001年〜渡西/ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了/バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年〜東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、ルーヴル美術館アドバイザー、バルセロナ市役所情報局アドバイザー

吉村有司
都市とテクノロジー
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バルセロナのスーパーブロック・プロジェクト

ポブレノウ地区のスーパーブロック・プロジェクトによって歩行者空間になった交差点/撮影:筆者

交差点に描かれたサークルの擬似市民会場に集まって議論する市民/撮影:筆者

Decidim

2020年に東京大学で行われた第8回目のUrban Sciences Lab連続レクチャーでは、バルセロナからLuis Gomez氏, Josep Bohigas氏, Jordi Cirera氏を迎えて行われた。

fig. 5

fig. 1

fig. 2