吉村有司
愛知県生まれ/2001年〜渡西/ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了/バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年〜東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、ルーヴル美術館アドバイザー、バルセロナ市役所情報局アドバイザー
日本の夏は暑い。高い湿度とともに、うだるような暑さは身にしみる。このことを知らずに日本に観光でやってくる外国人や、筆者のように日本を長く離れていた者には特に辛い。そんな時は自然と日陰を探してしまう。「少しぐらい回り道をしてもよいから涼しい道を歩きたい」だとか、「シミができるから、なるべく日陰を歩きたい」というニーズは高いだろう。
しかし、われわれの検索テクノロジーはそのような要望に応えられていない。その最も大きな原因は、街路レベルでどこに日陰ができるのか分かっていないからだ。その問題を解決するために、筆者のチームはGoogle Street Viewから風景画像のビッグデータを収集し、そこから街路レベルにおける日陰情報をつくり出す技術開発を試みた。fig.1
まず、まちのある地点から360度見渡したパノラマ画像を収集する。分割されているGoogle Street Viewの風景画像を、1地点から6枚集め(何枚集めるかはAPI*で設定可能)、ひと繋ぎにしてパノラマ画像を生成した。*他のソフトウェアと機能を共有できる仕組み。アプリケーション同士で連携が可能になるfig.2
次に、パノラマ画像の状態でセグメンテーションを行う(図中)。画像になにが写っているかを機械の目に判断させる。ここで重要なのは、機械の目に「空の領域」をピクセル単位で認識させることだ。
セグメンテーションを実行したパノラマ画像から半球型の写真を生成し(図下)、コンピュータ上で太陽の動きをシミュレーションする。太陽の動きは1年を通して科学的に解析できるため、何月何日の何時頃に、どこに日陰がどれくらいできるかの推定が可能になってくる。fig.3
ここまでくればあとは簡単だ。既存の最短経路アルゴリズム(地点AからBに移動する時に最短経路を検索するアルゴリズム)に日陰の情報を加味してやることによって(専門用語で「重み付けをする」という)、日陰経路探索アプリができ上がる。また、「日陰が多少混じるが、少し急ぎたい時の経路」や「日陰は無視した最短経路」などの検索もできるようにした。fig.4
「HIKAGE FINDER」と名付けたこの日陰アプリは、今年行われるはずだった東京オリンピックにおける、熱中症対策へのキラーアプリとしてリリースする予定だった。しかし、予想以上にコンピュテーションのパワーが必要なことなど、さまざまな問題点が見えてきたため、現在は渋谷区における日陰マップをβバージョンとしてリリースしながら順次問題点を解決していくフェーズにいる。また、今回開発したコードをGithub上でオープンにすることを通して、自分のまちの日陰マップがつくりたい人たちがマップを作成できる環境も整いつつある。fig.5
このように開発技術を公開していくことによって、皆でまちをよくしていきたい。そのまちに住んでいる人、ひとりひとりができることを、できる範囲で貢献することによって、皆でそのまちの生活の質を上げていきたい。これが本当の意味でのスマートシティなのだと思う。
関連情報
Li, X., Yoshimura, Y., Tu, W., Ratti, C. (2020). A pedestrian level strategy to minimize outdoor sunlight exposure in hot summer, arXiv:1910.04312