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2023.10.30
Exhibition

都市における生成AIの可能性

「Generative AI for URBAN PLANNING and DESIGN」レポート

新建築.ONLINE編集部

9月に東京大学先端科学技術研究センターで開かれた建築・都市計画・まちづくりにおける生成AIの可能性を探る研究会「Generative AI for URBAN PLANNING and DESIGN」の模様をレポートします。(編)

9月19日、都市における生成AI活用の可能性を探る研究会「Generative AI for URBAN PLANNING and DESIGN」が東京大学先端科学技術研究センターで開かれたfig.1。同センターの吉村有司特任准教授が主催し、武蔵大学の庄司昌彦教授、弁護士の水野祐氏、東京大学大学院の須藤望氏の3名をゲストに迎えてレクチャーが行われ、コメンテーターとして、奈良先端科学技術大学院大学の荒牧英治教授、青山学院大学の古橋大地教授、駒澤大学の瀬戸寿一准教授が参加した。午後からは学生や自治体職員たち約30人が参加し、画像生成AI(Stable Diffusion)を活用したワークショップも催された。

吉村氏は冒頭、都市のイメージと画像生成AIの関係について言及。東京のイメージは1990年代前半にテレビドラマ、雑誌、音楽などのメディア・エンターテインメントを中心に形成されてきたが、SNSなどの普及につれ、そのイメージが拡散してきているとの仮説を提示した。一方、Stable Diffusionなどの画像生成AIは世界中の人びとが撮影したタグ付きの画像を学習したものであり、その結果として生成される画像は、ある特定の人の心の中にある都市のイメージというよりはむしろ、世界中の人びとの心の中にイメージされる平均的なイメージと見なせるのではないかとの仮説を示した。これらのツールを上手く使うことによって、現代における都市のイメージの定量分析と研究が進む可能性を示唆したfig.2

情報社会学を専門とする庄司氏は、AI活用の普及における倫理的課題に言及。たとえば学生が論文やレポート、プレゼンの作成に役立てるなど、教育機関内では生成AIの活用が広がりつつあるが、その対応方針は、引用を適切に明示した上でのみ使用を限定する、そもそも生成AIの使用は不適切とするなど、著作権問題を中心に大学ごとに異なっており中には倫理的非難も見られるという。一方、政府や自治体は対応方針を策定するなど生成AIの活用に向けた取り組みを進めているが、いち早く実運用に入っている事例では誤情報や機密情報などの発信を避けるため、かえって保守的な利用が目立つと指摘し、実験的な取り組みも必要ではないかと述べたfig.3

続く水野氏は、画像生成AIの活用を巡る法的課題に焦点を当てた。AIの法的問題の検討においては、大量のデータを学習して学習済みモデルを開発する学習・開発段階の問題と、開発したモデルを利用する段階の問題とに区別して検討することが大切だという。日本では、著作権者の利益を不当に害する場合を除いてはデータの学習が原則として適法とされているなど、諸外国と比較しても適法領域の広い法整備が行われている一方で、データの著作権者に対価還元が必要なのか、必要だとしてどう対価を還元するかが課題だと明かした。また、生成された画像に著作権が発生するかという問題については各国の有識者や政府で議論が行われている最中だが、日本においては、制作者の創作意図と創作的寄与が必要であるとされており、著作物と認められるためには長文のプロンプトを入力したり、生成された画像を取捨選択したり、画像に別途修正や改変を加えるなど、生成過程に創作的寄与となる作為を残すことが重要ではないかと指摘したfig.4

最後に、東京大学大学院修士2年の須藤望氏は、画像生成AIによるボトムアップのまちづくりデザインの実践を紹介した。墨田区京島において、地域住民の一般意志と地域らしさを反映させることを目指し、フィールドワークを通じて「京島らしさ」を表す画像を集め、Stable Diffusionに追加学習させることでその特徴を非言語要素として抽出。それらの要素を元に無数の画像を生成し、選定、調整を経て、京島の伝統的風景を活かした共有農場の提案を生み出したというfig.5fig.6

これらのレクチャーを受けて、午後からは4-6名のグループに分かれてワークショップが行われた。各チームが、ある地域をもっともよく表している画像を生成するためにはどのようなプロンプトを組み合わせるとよいかなどの観点から、都市における生成AIの活用法を探った。上野を選定したチームは、「アメ横」を表すイメージを非属人的な抽出方法で拾い上げるように試行したfig.7。宇治市の裏路地をテーマにしたチームは生成された画像を重ね合わせて再生成し、理想的なイメージに近づくプロセスを提案したfig.8fig.9

吉村氏は「Stable Diffusionなど生成系AIの登場はAIの民主化ととらえられる。これまではプログラミングができる人しかAIや都市ビッグデータに触れることができなかったところに、誰でも触れるツールが登場した意味は大きい。建築家やアーバンプランナーも『プログラミングは分からないから』『AIはほかの領域だから』といった言い訳はできなくなった。これからは人間のクリエイティビティを用いた、誰でも参加可能な競争になっていくのではないか。そんな中、建築家には何が可能なのか、これからの都市やまちづくりにとって建築家の意義とは何かを考えていくことが重要だろう」と総評した。

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レポート記事の内容を元に、Chat GPTによりプロンプトを生成し、Stable Diffusionによって生成したサムネイル。/制作:新建築社(Stable Diffusion)

吉村有司氏。/撮影:新建築社

庄司昌彦氏。/撮影:新建築社

水野拓氏。/撮影:新建築社

「京島LoRA Project」Stable DiffusionIによって生成された共有農場のイメージ画像。/提供:須藤望、森谷正希

須藤望氏。/撮影:新建築社

Stable DiffusionIによって生成されたアメ横のイメージ画像。/制作:Mizuki Yamauchi

宇治チーム。プレゼンテーションボード。/提供:Hozumi Kikuchi

宇治チーム。プレゼンテーションボード。/制作:Hozumi Kikuchi

fig. 9

fig. 1 (拡大)

fig. 2