新規登録

この記事は下書きです。アクセスするログインしてください。

2023.09.29
Exhibition

移動から解く都市とウェルビーイングの方程式

NEXT URBAN SCIENCE PROJECT アイデアソンレポート

新建築.ONLINE編集部

これからの都市におけるデータの利活用を模索するべく、2022年に立ち上がった新建築社と東京大学先端科学技術研究センターの共同研究プロジェクト「NEXT URBAN SCIENCE PROJECT」。今年はNTTドコモの協力のもと、移動をテーマにしたアイデアソン「移動から解く都市とウェルビーイングの方程式」を開催しました。その模様をレポートします。(編)

都市におけるデータ利活用の可能性を模索するアイデアソンイベント「移動から解く都市とウェルビーイングの方程式」が9月26日、東京大学先端科学技術研究センターで開かれた。2022年に立ち上がった新建築社と同センターの共同研究プロジェクト「NEXT URBAN SCIENCE PROJECT」の一環。今回はNTTドコモの協力、同センターの吉村有司特任准教授の監修のもと、学生約20名が参加。NTTドコモの子会社であるドコモ・バイクシェアが提供する「ドコモ・バイクシェアサービス」のデータを参考に、都市にウェルビーイングをもたらすアイデアを探った。

アイデアソンに先立ち、NTTドコモクロステック開発部の三村知洋氏、同センターの古賀千絵特任助教、宮園侑門特任専門職員によるレクチャーが行われた。
バイクシェアサービスは日本全国で2,800カ所以上のポート、19,000台以上の自転車、年間1,980万回の利用実績を抱える。三村氏が所属するクロステック開発部は、自転車の利用履歴や位置情報などを分析し、需要予測や配置の最適化を行っている。また、扱うデータはバイクシェアサービスの情報のみならず、携帯電話のユーザー情報や決済サービスデータなど、NTTドコモが保有するさまざまなビッグデータを掛け合わせ、バイクシェアサービスユーザーのプロファイルを分析し、サービスの利用促進、効果検証などに取り組んでいるという。三村氏は「シェアサイクルのデータを活用すれば人の動きや街の特性は見えてくるが、街の課題を把握するにはさまざまなデータを掛け合わせることが重要だ」と強調したfig.2

続いて、社会疫学をバックグラウンドに、データを活用した健康まちづくりに取り組む古賀氏が登壇fig.3。人の健康には個人の生活習慣から経済状況、社会のあり様までさまざまな社会決定要因が影響するとし、個人の努力に依存しない健康のための地域づくり、環境を改善することで疾病を予防するゼロ次予防戦略の研究に取り組んでいるという。こうした研究は近年注目を集めてはいるが、環境が健康に影響することをエビデンスとして明かした論文はいまだ少ないと課題を示唆した。その一例として、高齢者を対象とした大規模アンケートデータ「JAGES(日本老年学的評価研究)」を活用した研究を紹介。アンケートデータと衛星画像や地図データより算出した環境要因のデータをマージすることで、緑が多い地域ではうつ病患者が少ない、歩道の多い地域では認知症リスクが半減するなどの結果が導けるという。こうした環境と健康の関連を調べることで、健康なまちづくりを可能とする科学的根拠が生み出せるとした。

都市における人やモノの動きを通して都市分析を行ってきた宮園氏は、データ活用の具体例を提示fig.4。Google Street Viewから切り出した画像データから都市の緑視率を算出する「都市緑視率マッピング」や、それらに太陽高度を掛け合わせて日陰の多い経路を提示する「HIKAGE FINDER」などを紹介した。データを用いたまちづくりとしてウォーカブル政策にも言及。「歩きやすさ」という抽象的な指標を定量的なデータで明かす手法として、接地時間や足の向きなどをセンサーで検出するスマートシューズを紹介。ベンチや植栽などのオブジェクトだけでなく、舗装など歩きやすさに繋がるさまざまな指標を解き明かそうとしているという。都市においてデータを活用する際には、さまざまなデータを組み合わせてビジョンを描く想像力が重要だとして締め括った。

レクチャーを踏まえ、参加者はA〜Dのグループに分かれ、アイデアソンに臨んだ。与えられた課題は「シェアバイクに関するデータを活用した、地域の人びとのウェルビーイングの向上策」。何を市民のウェルビーイングと定義するか、どうやってデータを収集するか、どのようなデータを結びつければ今までにない可能性が拓けるかなど議論し、仮想のデータがあるとの想定のもとでアイデアを練ったfig.5
たとえばAグループは携帯電話や決済サービスデータからユーザーの趣向を分析し、都市の人流データで導いた魅力あるスポットを通るルートをおすすめするバイクシェアの利用促進策を提示fig.6。Bグループは深夜の需要に着目し、アクティビティ施設とコラボレーションしたキャンペーンを提案fig.7。施設で使えるクーポンや移動距離に応じた割引、ユーザーのリアルタイム位置情報から都市の盛り上がりを可視化するなどし、施設の需要予測にも役立てるとした。
いずれの提案にも共通したのは、自転車の移動や利用を最適化するためではなく、移動を通じて都市や人々の生活を豊かにすることを目指していたことだ。吉村氏は「モビリティは単に移動のための手段ではなく、人生を豊かにする体験と捉えることが重要。こうしてそれぞれが想う小さなウェルビーイングを積み重ねていくことで住みやすい都市をつくれるはずだ」と総評したfig.8

今回ゲストの方々が強く示唆したのは、データとデータを掛け合わせる創造力だ。データは単に分析するものではなく、さまざまな事象と組み合わさることで複合的な価値を生み出す。その創造にこそ、建築・都市領域が抱えるクリエイティビティが発揮されるはずだ。



各グループのプレゼンボード一覧
ABCD

データ
デザイン
デジタル
都市
続きを読む

「移動から解く都市とウェルビーイングの方程式」メインビジュアル。

三村知洋氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

古賀千絵氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

宮園侑門氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

アイデアソンの様子。参加者は議論を交わし、アイデアを付箋にしたためた。/撮影:新建築.ONLINE編集部

Aグループ「Cycling For Cycling」

Bグループ「夜のウェル活」

吉村有司氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

Cグループ「自転車でつくる街づくり」

Dグループ「つくれ!逆向きの需要」

fig. 10

fig. 1 (拡大)

fig. 2