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2023.03.14
Exhibition

腸内細菌×地理情報から未来の都市を構想する

「The Guide to Next Urban Science」レポート

石神俊大(MOTE)

新建築社は2022年〜2023年にかけ、データがもたらす今後の建築や都市のあり方を探求すべく、東京大学先端科学技術研究センターと共同研究プロジェクトに取り組みました。その一環として、都市におけるデータ活用の新たな可能性を見出すアイデアソン「The Guide to Next Urban Science」を実施しました。コーディネーターを務めた石神俊大さんに、イベントのレポートを寄せていただきました。(編)

「データ」から建築と都市は変わっていく

2022年、これからの都市におけるデータの利活用を考えるべく、新建築社と東京大学先端科学技術研究センターによる共同研究プロジェクトが実施された。プロジェクトの監修を務めるのは、数多くの都市データ活用プロジェクトに携わってきた同センターの吉村有司氏(特任准教授)。従来の建築や都市計画に関わってこなかった新たなプレーヤーを含め、これからのデータ利活用を考える場をつくる取り組みが進められた。
中でも2023年1月23日に行われたアイデアソンプログラム「The Guide to Next Urban Science」は、本プロジェクトを象徴するものといえる。腸内細菌の分析や腸内環境改善のサプリ開発を行うAuBの田中智久氏(取締役)と駒澤大学文学部の瀬戸寿一氏(准教授)、東京大学先端科学技術研究センターの古賀千絵氏(特任助教)の3名をゲストに迎えたこのプログラムは、腸内細菌にまつわるデータからこれからの都市を構想するもので、公募によって集まった約30名の学生が参加した。犬の社会行動学などを専門とする麻布大学獣医学部の菊水健史氏(教授)がコメンテーターを務め、吉村氏によるモデレーションのもとでプログラムが進んでいった。

腸内細菌×地理情報から見えてくるもの

まず最初に行われたのは、ゲスト3名によるレクチャーだ。
社会地理学を専門とし市⺠参加型GIS(地理情報システム)やシビックテックの研究を進める瀬戸氏は、災害対応のハザードマップやCOVID-19の感染状況の可視化など、近年多くの場面でGISの活用が広がっていることを明らかにしたfig.1。地理空間情報の中にはオープンデータとして広く利活用の機会が開かれているものも多いという。たとえば日本の国土交通省が展開している3D都市モデル「Project PLATEAU」で採用されているフォーマット「CityGML」は海外のまちづくりでも広く活用が進んでいる。こうした地理空間情報を活用してまちづくりのDXを行ううえで重要なのは、「まちづくりの共有財となるコモンズ」、「デジタル技術による課題解決を行う感覚を共有するコモンセンス」、「地域の実践を広く共有するコモンプラクティス」の「3つのコモン」を実現することだと語り、レクチャーを締めくくった。
続いて、社会疫学を専門とする古賀氏のレクチャーが行われたfig.2。「JAGES(日本老年学的評価研究)」に携わってきた古賀氏のレクチャーテーマは「リスクデータを用いた暮らしているだけで健康になれる都市形成の可能性」だ。古賀氏によれば、健康とは単に個人の生活習慣だけではなく、人間関係や生活環境など多くの要素から影響を受けている。たとえばJAGESデータを分析すると、人と会う機会が少ない人ほど健康リスクが高まり、歩道の多さや団地に住んでいるか否かも健康リスクと関わることが分かったという。こうした分析は実際に都市デザインにも導入され始めており、健康やウェルビーイングといった指標が、これからの都市を考えるうえでも見逃せないことがうかがえる。さらに「社会疫学の手法を使い、暴力の予防を実現できないかと考えている」と述べ、都市へアプローチすることで個人の暴力を抑制できる可能性を語った。
最後にレクチャーを行った田中氏はまず、「腸のケアこそが体調管理の一丁目一番地」だと語ったfig.3。腸内に存在する1,000種、100兆個以上の細菌は、アレルギーや糖尿病はもとより、筋力や持久力、メンタルヘルスとも関わっていることが明らかにされているという。そこでAuBは、腸内環境をケアするためアスリートの腸内環境に注目し、33競技850名以上のアスリートを分析。良好な腸内環境を築くには腸内細菌の多様性と短鎖脂肪酸が重要だと推定し、多様な菌を腸内に取り入れ、育てるためのサプリメント開発に取り組んでいる。また、これまでは直接便を採取して分析を行っていたが、便の臭気からも腸内細菌の状態を推定できることが明らかとなっており、臭いのセンサリングによって、より日常的に人びとが腸内環境を測定できる環境をつくろうとしているという。

これからの都市をつくるコミュニティを醸成する

こうした腸内細菌データをまちづくりと接続すると、どのようなことが考えられるのだろうか。この日行われたアイデアソンでは、学生がA〜Dの4チームに分かれ、「腸内細菌データと地理情報を組み合わせることで見えてくる仮説」、「地域の人びとのウェルビーイングを向上させるために腸内細菌データを活用する施策」のふたつをテーマに議論を重ねていったfig.4
各グループの議論から生まれたアイデアは実にさまざまだ。たとえば、Dグループは食事や調理法に着目しながら、飲食店やスーパーマーケットの消費データと腸内細菌のデータを比較することで、地域の腸内細菌多様性を高めるまちづくりの可能性を提示した。またCグループは、子どもへのアプローチを念頭に置きながら、動物や農業などとの触れ合いを通じて子どもの腸内環境を改善していく施設のプランを考案した。
参加者の発表に対し、田中氏は「実際に取り組んでみても面白そうなアイデアがいくつもあった」と述べ、菊水氏は「精神に関する病気やアレルギーなどの多くは都市部に集中しているといわれるが、みなさんが考えたウェルビーイングがまちづくりで実際に検討されると住みやすい街がもっと増えるように思う」と語った。ふたりの反応を受け、吉村氏は「学生に参加してもらったことで柔軟な発想が促されたと感じるし、何より楽しかった。研究は退屈なものと思われがちだが、こういったプロジェクトを通じて議論の場をもっと広げていきたい」と語ってプログラムを締めくくったfig.5

2022年に始まったこのプロジェクトは、かたちを変えながら今後もさまざまな取り組みを展開していく。今回のアイデアソンが示したように、データを介することでこれまで以上に多くの企業や学問領域、プレーヤーが建築や都市の領域へと関われるようになるだろう。本プロジェクトの活動を通じて、より多様な人びとが集まるコミュニティも醸成されていくはずだ。そんなコミュニティの中から、まだ見ぬ未来の都市の姿が立ち現れてくるのかもしれない。



各グループのプレゼンボード一覧
A①A②BC①C②D

石神俊大

1989年東京生まれ/2013年東京大学文学部卒業/広告制作会社での勤務を経て、2016年〜2018年『WIRED』日本版編集部所属/2019年MOTE設立

    石神俊大
    ウェルビーイング
    デジタル
    都市
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    瀬戸氏のレクチャーの様子。

    古賀氏のレクチャーの様子。

    田中氏のレクチャーの様子。

    参加した学生は付箋にアイデアをしたため、提案を完成させた。

    総評を述べる吉村氏。

    Aグループプレゼンボード①

    Aグループプレゼンボード②

    Bグループプレゼンボード

    Cグループプレゼンボード①

    Cグループプレゼンボード②

    Dグループプレゼンボード

    fig. 11

    fig. 1 (拡大)

    fig. 2