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2023.09.12
Interview

都市を身近にする廃棄食材

町田紘太(fabula)

人新世と呼ばれる現代において、人は気候変動や人口減少、食糧危機などの多くの社会課題に直面しています。これらの課題に直面する今、建築・都市はどうあるべきか。廃棄食材を用いた新素材を開発するfabulaの町田紘太氏に、そのアプローチを伺いました。(編)

廃棄食材からつくる新素材

──町田さんはfabulaのCEOとして、廃棄食材をリユースしたセメントの開発に取り組まれています。取り組みを始められたのにはどのような背景があったのでしょうか。

町田 私の出身研究室である東京大学生産技術研究所の酒井雄也研究室はコンクリートの研究を専門としており、学生時代からコンクリートが引き起こす社会問題の解決に取り組んできました。コンクリートは世界の二酸化炭素排出量の約8%を占めている最も環境負荷の高い工業材料のひとつです。また、原料となる石灰岩や砂、砂利などは天然資源のため、いずれ枯渇してしまいます。そのため、コンクリートを代替する持続可能性の高い建材の開発を目指していました。ただ、単に天然資源を新たな材料で置き換えるだけでは資源の枯渇を先送りにしているだけで、根本的な解決には至りません。そこで、廃棄食材から新素材セメントをつくる研究をスタートし、2021年に法人化しました。

──なぜ新たな建材の原料として廃棄食材に目をつけられたのでしょうか。

町田 コンクリートの原料となる石は素材として使えるようになるまで数億年の期間を要します。資源の枯渇が迫る未来では、循環のサイクルの早い素材を使う必要があります。たとえばもやしや豆苗は数週間で成長しますよね。食材は生産から加工、再利用までのサイクルが早いですし、世界では食品ロスが社会問題となっている。それを有効活用できれば、さまざまな課題を解決できると考えました。

──セメントは具体的にどうやって製造するのでしょうか。

町田 食材を乾燥させて粉末にし、熱圧縮して成形するという、大きく3つの工程で製造しています。通常のセメントとはまったく異なる工程ですが、強いていえばプレキャストコンクリートの製造工程に熱を加えたというイメージですね。この際、加える熱の温度と圧力を調整することで、基本的にはどんな食材でも成形することができます。使用する食材は、農林水産省が算出している廃棄率の高いものから選んでいて、最初は家や研究室で出たみかんの皮やコーヒーの抽出カスなどを使っていましたが、今は食品メーカーさんから購入していますfig.1

──現在はどのようなかたちで実用化されているのでしょうか。

町田 たとえば明治からご提供いただいたカカオハスクを活用したコースターやお椀fig.2、タイル、堀口珈琲狛江店で廃棄されたコーヒー豆を用いたトイレサインfig.3など、雑貨のスケールではすでに多く実用化しています 。

──将来的には建材としての実用化も目指されているかと思います。そのための強度を保つことはできるのでしょうか。

町田 素材の強度は使用する食材によって異なり、食材が含む繊維と糖分のバランスによって強度が決まります。特に白菜は現状そのバランスが最もよく、コンクリートの約4倍の曲げ強度を出すことができ、将来的には建材として普及することが期待できますfig.4

──建材としての実用化に向けては、どのようなハードルがあるのでしょうか。

町田 新素材は耐水性が強くないため外装で使う際にはコーティングなどの対策が必須で、また基本的に有機物の塊のため燃えやすいので内装で使う際にも不燃性能が求められます。現状、難燃材料の基準に達することはできますが、準不燃まで性能を高めないと、使用範囲はかなり限定されてしまいます。防火、防水への対応は実用化に向けた大きな課題です。
ただ、実際に建材の一部として用いた事例もすでにあり、三菱地所設計からお声がけをいただき、ヴェネチア・ビエンナーレに出展したパビリオン「茶室・ベネチ庵」では、床材をコーヒー豆で、紙管や床材を繋ぐジョイントをパスタで制作しましたfig.5fig.6fig.7。単独で構造を担保することはまだ難しいですが、ジョイントくらいのスケールであればすでに実現が可能です。今は各所からパビリオン制作のお話をいただいており、試行を重ねたいと思っています。

都市にストーリーを込める

──ペレットには使用した食材の色や香りが残っているのが印象的です。

町田 そうですね。よく考えてみれば、原料由来の色が残る建材は現状あまりありません。コンクリートは灰色で、木材は茶色。色を出そうと思えば、ペンキを塗ったり、土に釉薬を混ぜて焼いたりと、人工的にコントロールするしかない。fabulaの新素材であれば、素材のもつ色や香りをそのまま街の風景にすることができます。香りは好き嫌いに左右されるものでもありますが、芳香剤や消臭剤として使うなど、工夫次第でいろいろと使い道があるのではないかと思います。

──この素材由来の色と香りが残るという点は、従来のコンクリートとは大きく異なる特徴だと思います。そこにどのような可能性を見出していますか。

町田 たとえばコンクリートジャングルと表現されるように、コンクリートはこれまで近代化の、都会の冷たさの象徴とされることが多くありました。その理由は、コンクリートは背景にあるストーリーが見えにくいことにあるのではないかと思います。木材はどこに生えていたものかということが見た目から想像しやすいですが、コンクリートは複数の原料を複数の工程を経て加工・生成するものなので、それが見えにくいです。また、まちづくりなどの分野では歴史や文脈的な要素が重要視されますが、材料分野では実用性やコスト効率に重きが置かれ、原料となる石や砂利がどこで採れたものなのか、ということには意識が及びません。食材を用いた建材が各所に広がれば、街にさまざまなストーリーが込められる。それは「優しい街」づくりに繋がることだと思っています。

──町田さんは、原料の背後に潜むストーリーを重視されているということでしょうか。

町田 その通りです。実はfabula(ファーブラ)という会社名は、「物語」という意味のラテン語に由来しています。僕がこの事業を通してやりたいことは、「優しい街」をつくることです。SDGsには17の目標が挙げられ、それぞれの目標には具体的な数値目標が設定されていますが、主に経済的な指標や社会的な数値が多いです。僕は優しい街、つまり人びとのウェルビーイングを生み出すには、そうした指標に表れない感性が大切だと思っています。僕が思う優しい街とは、不安がない街です。たとえば階段の横にスロープがあるとか、車椅子の方用のルートが示されているとか、現代の都市では誰もが安心して暮らせるように配慮されていたりもしますが、それは最低限の義務だと思っています。それだけではなく、ものづくりに込めたクラフトマンシップがインフラとして街の各所に点在することが大事なのではないかと思います。

──クラフトマンシップを込めるものづくりというのは、具体的にどういうことでしょうか。

町田 たとえば今の静脈産業は手段が目的になっている場合が多く、その製品の付加価値を伝えきれていないように感じます。紙ストローや古紙から再生したトイレットペーパーのような製品は、環境への配慮が第一にあります。それ自体は消費者を惹きつける要因にはならないでしょう。私たちは廃棄食材をリサイクルすること自体が目的ではなく、新しくて面白い素材の魅力や、製品に込めた付加価値、クリエイティビティを提供することをゴールにしています。その意識がものに感性を込める肝になるのだと思っています。
先ほどコンクリートは冷たさの象徴という話をしましたが、実は意外に可愛いところもあるのです。私は持ち手がモルタルでできているペンを長年愛用しているのですが、使ううちに手の脂や空気で中性化し、経年変化を楽しんでいますfig.8。たとえば洋服はくたびれれば雑巾にしたり、食材は肥料にしたりと、廃棄の過程が分かりやすいですが、コンクリートはその過程が人びとの生活からは見えにくいところにあります。ただ、手元にあればその温かみを感じることができるのです。
廃棄食材を用いた建材が街に広がる意味は、これまで何気なくあった街並みにストーリーを込め、都市をより身近で優しいものにすることなのだと思っています。
fig.9

(2023年7月29日、東京大学生産技術研究所にて。文責:新建築.ONLINE編集部)

町田紘太

1992年生まれ/2021年東京大学工学部社会基盤学科卒業/2021年fabula設立、CEO

町田紘太
材料
都市
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みかんの皮を再利用して制作したタイル(左)。/撮影:新建築.ONLINE編集部

カカオハスクを再利用して制作したお椀。/撮影:新建築.ONLINE編集部

堀口珈琲狛江店のトイレサイン。/提供:fabula

白菜を再利用して制作したペレット。/撮影:新建築.ONLINE編集部

ヴェネチア・ヴィエンナーレ国際建築展2023「茶室:ベネチ庵」(建築設計:藤貴彰+稲毛洋也+Kang De Yuan/三菱地所設計)。ジョイントはパスタを再利用して制作した。/撮影:Yuta Sawamura

ヴェネチア・ヴィエンナーレ国際建築展2023「茶室:ベネチ庵」(建築設計:藤貴彰+稲毛洋也+Kang De Yuan/三菱地所設計)。ジョイントはパスタを再利用して制作した。/撮影:Yuta Sawamura

パスタを再利用して制作したジョイント。/撮影:新建築.ONLINE編集部

持ち手がモルタルでつくられたペン。/撮影:新建築.ONLINE編集部

町田紘太氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

fig. 9

fig. 1 (拡大)

fig. 2