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2023.07.27
Essay

廃屋を面白く!──分野にとらわれない7つの団体のシェアオフィス

私の事務所 #3

家成俊勝(ドットアーキテクツ)

『新建築住宅特集』2014年に掲載された、建築家の方々に自身の事務所を紹介いただく連載「私の事務所」のリライト企画。オンラインでの再掲に合わせて、初出から8年以上を経た現在までの事務所の変化を改めて振り返っていただきました。(編)

2014年6月

実践的空間へ

私たちの事務所は、大阪市の住之江区にある「コーポ北加賀屋」と名付けられた協働スタジオの一角にありますfig.1。コーポと付いているので、皆が集合住宅と勘違いして、事務所にくる際にはよく迷います。なぜなら、見た目はただの工場だからです。最近、工場跡を格好よくリノベーションした事例が多くあります。新たにお金を呼び込み、事業的に成功することも大切ではありますが、一方で別のやり方もある。それは、いわゆる見た目のデザインを整えることをせず、中で行われる運動、それ自体の質を問題にしたいからです。そもそも工場を「こうじょう」と呼んだら、ただのビルディングタイプになってしまいます。「こうば」と読み、そこで働いていた人間たちがつくり上げた空気を考える方が有意義ではないか。今コーポ北加賀屋は、つくること、考えることを楽しんでいるメンバーたちと工場跡をシェアして使っています。改装は最小限。入居してから5年が経ちますが、いまだに廃屋の工場の雰囲気が漂っています。 もちろん、お洒落に改装することもできますが、ここに流行のリノベーションは必要ない。私たちは見せかけの場所に集まる人にもあまり魅力を感じません。すぐに別の流行に乗って別の場所に移っていくでしょう。商品化され消費される空間から、実践的空間へ。廃屋に現れる工場、コーポ北加賀屋fig.2

制限のない共有

2009年、大きなスタジオを探していた私たちと、remo〈NPO法人 記録と表現とメディアのための組織〉の甲斐賢治さんとで廃屋の工場を見学し、この北加賀屋に拠点を構えることにしました。大きな模型、1分の1のモックアップ、家具の製作などを行いたいと思っても、都心では家賃も高く、どうしても狭い床しか借りられません。少し遠くて不便で、夏が暑くて蚊が多くても、冬がめちゃくちゃ底冷えしても、のびのびとものづくりができる環境の方がいろいろよい面があるはずと、廃屋の工場を選びました。もとは家具工場でしたが、見学した時はボロボロ。しかし、自分たちで手を加えながら成長させていける空間の伸び代に魅力を感じました。最初は、remoと私たちのふたつの団体から始まりましたが、現在はアート、オルタナティブ、建築、地域研究、サークル、NPOなど、分野にとらわれない人や組織が集まる「もうひとつの社会を実践するための協働スタジオ」として動いています。150m2ほどの大きさの共有部がふたつあり、ひとつにはバーやサロン、その他に区切られた事務所スペースが7つあります。バーやサロンといっても、ほとんどが解体現場からもらってきた廃材でつくられたもの。それらの場所を現在は7つの団体でシェアして使用していますfig.3。それぞれ違う分野で活動をしている人たちと場所を共有することで、さまざまなアイデアも生まれます。コーポ北加賀屋にリーダーは不在です。月に1回の「コーポ寄り合い」に各団体が集まって、場所の使い方や今後の方針などを話し合っていますfig.4。リーダーがいないのでミーティングは時にすごく長くなりますが、それもまたよし。皆が納得したうえでコツコツと進んでいきます。入居団体同士で協力して同じ仕事に取り組んだりもしています。


統一したビジョンはもたない

入居団体のひとつにFabLab Kitakagayaがあります。このFabLabは、市民にものづくりを開いていく活動を世界的なネットワークをつくりながら行っています。今では認知度も高まり、いろいろな人が出入りしながら、面白いプロダクトが日々できてきていますfig.5。FabLab主催で行われるファブナイトでは、さまざまな技術や情報の発表会が行われています。羽ばたき飛行機が会場を飛び交う中、さっぱり分からない専門的なことが話されていますが、聞いていると楽しい。また、現場で製作家具が必要になれば入居者の102木工所に頼めば話が早い。以前、私たちの事務所で働いた後に独立した安川雄基は、違う場所で事務所を構えていましたが、今年の3月からコーポ北加賀屋に戻ってきました。ひとりでやっているよりここでいろいろな分野で活動する人たちと場を共有したいとのこと。ついこの前、皆でバーベキューをしました。入居者のひとり、アーティスト兼デザイナーの有佐祐樹さんはデザインもよいですが、料理の腕前も最高です。夜になると外は寒かったので、室内でバーベキューをしました。こんなことをできる場所は本当に稀だと思います。次の日の事務所は少し炭臭かったですが……。共有スペースは、入居者が格安で使えるようになっていて、さまざまなイベントが行われます。私自身は不定期でタチアナというバーを開いたりしていますfig.6。昔、バーテンダーをやっていた経験があり、カウンター1枚を挟んでいろいろな人たちと話をしたことが今肥やしになっている気がしていて、ここでも建築の領域以外の人たちと出会える状況をつくれたらと思っています。ほかにも、展覧会やトークイベント、ワークショップ、演劇などさまざまなことが行われています。今年の3月30日には、6回目となるDESIGNEASTというデザインプロジェクトの出発式が行われ、ゲストの建築家の山道拓人さんやデザイナーの飯田将平さん含め、延べ200人くらいの来場者と共に、地方の町の可能性について意見が交わされましたfig.7

シェアの本質

コーポ北加賀屋では、手づくりでもデジタルでも、映像でも研究でも、皆、フィジカルを頼りに、自分たちの状況を自分たちでつくるという当たり前のことをしていきたいと思います。remoの甲斐さんは、地域との関係について特別な意識は何もないと言っていました。「たこ焼き屋」をやっているのと同じように、市民権があればよいと。地域にとっては、私たちは特別な存在ではなく、他所からやってきたわけの分からない人たちでもなく、隣にいる兄ちゃんたちでよいのだと思います。だから、地域のために無理に何かをするというより、ただ隣の工場のおっちゃんと挨拶をするだけでよいのだと思っています。ここの契約期間は10年。すでに5年経ちました。このまま手探りで進んでいくのだろうと思います。空間を他の人や団体とシェアする時に、全員が統一された明確なビジョンをもつというのは息苦しいものです。シェアとは与えられた場所、与えられたルールに全員で従うことを意味しません。活動団体のそれぞれのアイデンティティがバラバラとあったまま、時には協働し、さまざまにカタチを変えながら何でも変化できる可能性を担保して活動を続けていければと思います。それと入居団体のうちのひとり、us/itの森下くんに連絡がつきません。この記事を読んだら、僕に連絡ください。風の便りで東京にいると聞いています。頼りがないのはよい頼りとはいいますが、少し寂しくなってきました。飯でも食べにいきましょう。



2023年7月

生きるために必要な諸要素の動的な合流地点

北加賀屋一帯はかつては沼地だったと聞いています。18世紀前半から新田開発が行われ、その後、それらの土地が買い取られて土地経営事業に転じ、時代の流れに合わせて農業用地を工業用地に大転換して、大大阪時代と呼ばれるほど発展していきます。その当時、北加賀屋では河口という立地を活かして3つの造船所が創業し、労働者で大層賑わったそうです。しかし20世紀後半に再び起きた産業構造の転換と世界の物流事情の変化によって造船所はなくなり、それに伴って人口が減少、空き家や空き工場が増え、町の空洞化が進むこととなります。時代に合わせて都市活動のさまざまな影響を受けて現在に至っている。都市の周縁に位置する北加賀屋には、ゴミの焼却施設やリサイクル工場、生コン工場(業界では「生コンの銀座通り」と呼ばれているらしい)、物流倉庫など都市活動を支える施設が多くあり、まさに都市の下半身です。

コーポ北加賀屋を使い出して、今年で14年目に入りました。入居者の動きもちょっとあります。最近はcontact Gonzoというアーティストが入居して、現在の入居者は7団体となりました。彼らはパフォーマンスを主体としていますが、空間をつくったり作品を制作したりととても面白い活動を繰り広げていて、ドットアーキテクツも一緒に作品制作を行ったりしています。コーポ北加賀屋では、彼らの主催で「アバランチフェス」fig.8「アバランチフェスの概要」は以下。「パフォーミングアーツを総合的にサポーツするミニマルフェス。出演者は10名以内で各5-20min程度でなにかしら発表。現行の社会やアートの世界の正解を求めず、思いつきの純度の高さのみでとにかく新鮮に届ける。リハーサルなどもあまりしないようにきちんと心がけ、発想から発表までの速度感のみで勝負するフェスティバル。極端な話、意味不明なプレセンでもいいし、滑りまくって汗をダラダラかいてもいい。そういったパフォーマンスにおける、ある種逆転した夢のような現場を実現します。」(「アバランチフェス」企画書より)というパフォーマンスの力が問われるイベントも開催されています。このフェスは実験のような側面もあり、パフォーマンスが雪崩のようにスベることがほとんどですが、こういった活動から面白い作品が生まれていくと思います。ほかにも、remoが主催する「Alternative Media Gathering」という素晴らしいイベントをはじめとして、展覧会やトークイベント、ワークショップなどさまざまなことが行われています。

コーポ北加賀屋をつくるにあたっては、ひとつのモデルがありました。それはremoのメンバーに教えてもらった、イタリアに数多く存在する社会センターですfig.9。それらは工場跡や学校、粗大ゴミ集積所、病院跡など、さまざまな使用されなくなった建物を占拠し、占拠を実行したグループによって自主管理されている場所のことです。各社会センターによってその政治性やあり方、使い方は無限のバリエーションがありますが、すべては現行の政治や制度、経済とは違う別の世界を実現させるために機能しており、生きるために必要な諸要素の動的な合流地点となっています。「資本によって都市空間全体が包囲される渦中において、荒廃した都市の近隣地区においてさまざまな目的を持った人々・集団が協働し、社会関係を再形成すること」参照:北川眞也著「イタリア・ミラノにおける社会センターという自律空間の創造─社会包摂と自立性の間で─」(『都市文化研究』no.14、pp.12-25、2012年)が模索された空間であり、資本制、委任、権威の制約の中でしか、あらゆる表現を許さない現代社会に対するオルタナティブな活動です。コーポ北加賀屋では引き続き、皆が水平的な関係の中で運営について話し、制作やイベント、実験を繰り広げています。場所やルールはあるものではなく、皆の合意のもとで新たに生み出していくものです。これからもこのまま手探りで進んでいくのだろうと思います。

家成俊勝

1974年兵庫県生まれ/1998年関西大学法学部法律学科卒業/2000年大阪工業技術専門学校卒業/2004年~ドットアーキテクツ共同主宰/現在、京都芸術大学教授

家成俊勝
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新建築住宅特集 2014年6月号
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コーポ北加賀屋全景。佇まいは5年前の廃屋の時と何も変わっていない。/提供:ドットアーキテクツ

1階の中廊下。廊下に面して5つの団体が入居している。右手2階がdot architectsの事務所。/提供:ドットアーキテクツ

1階共有部。現場から出る廃材や購入した最小限の材料を利用してつくられている。/提供:ドットアーキテクツ

月1回開かれるコーポ寄り合い。dot architectsの事務所にて。/提供:ドットアーキテクツ

FabLab Kitakagayaでのワークショップの様子。/提供:ドットアーキテクツ

不定期で開かれるBARタチアナ。いろいろな人たちと話せるよい機会。/提供:ドットアーキテクツ

DESIGNEAST05 CAMPの出発式の様子。たくさんの人が入ると空間が息を吹き返す。/提供:ドットアーキテクツ

「アバランチフェス」の様子。contact Gonzoによるパフォーマンスなどが繰り広げられた。/提供:ドットアーキテクツ

イタリア・ミラノにある社会センター「Leoncavallo」。/提供:ドットアーキテクツ

fig. 9

fig. 1 (拡大)

fig. 2