新規登録

この記事は下書きです。アクセスするログインしてください。

2022.08.22
Interview

アートと建築の境界で想像を巡らす「新建築書店」

POST×新建築社による新書店がオープン

中島佑介(POST)

2022年8月19日に、新建築社とlimArtが共同で設立した本屋「新建築書店」(POST Architecture Books)がオープンしました。両社が培ってきた知見やネットワークを活かし、建築業界における紙の書籍の価値を再定義する、建築とアートの領域をまたぐ専門書店として発信を行います。2011年から東京・恵比寿でアートブック書店「POST」を運営し、今回新書店の運営を手がける中島佑介さんに、書店のコンセプトや見どころを伺いました。

今の時代に本屋をオープンする

──2002年に古書店を始められて以来、出版業界の流れを追い続けてこられた中島さんにとっての本の魅力を教えていただけますか?

もともとは情報を伝える手段という意味でのメディアの役割を担っていた本は、21世紀により利便性の高い情報伝達手段としてインターネットが発達したことで、単なるメディアとしてはいられなくなりました。その中で、物質性を伴うという本の特性をうまく活かし、表現手段として本が使われることが増えてきたことがこの十数年の興味深い流れとしてあるように思います。
また近年は、社会全体で店員とお客さんがコミュニケーションを取る機会が減っていますが、書店も例外ではありません。さらに、電子書籍の普及による出版物の発行部数減少やネットショッピングによって書店売上は右肩下がりです。にもかかわらず、小さな書店が近年増えているのは、本屋のあり方として、人とコミュニケーションを取りながら価値観を共有することが求められているからのような気がします。
僕が運営しているPOSTやTOKYO ART BOOK FAIRでも、本の背景をお客さんに直接伝えたり、展示やトークイベントでつくり手が生の声を届けることによって、購入してくださる人が増えていることを実感していますし、実際に来場者数も増えています。ブックフェアは、2006年につくり手がエンドユーザーに直接販売するイベントとしてスタートしたNew York Art Book Fair(NYABF)が発端ですが、現在は日本を含む世界各地で開催されるほど発展しています。

──そんな本を取り巻く変化をご覧になられている中で、今回の「新建築書店」はどのような書店を目指していらっしゃるのでしょうか?

これまでも大事にしてきた、つくり手とリアルでコミュニケーションできる場づくりは、つくっていきたいです。今回、新建築社との共同設立なので、新建築社がこれまで築かれてきた建築分野に関わる人たちが集いたくなる場所にしていけたら理想的だと思っています。集いたくなる場所として、僕個人が選んだ本が並ぶ書店というよりは、そこに通ってくださる方や、企画の中で協力してくださった建築家の方々のセレクトを反映していくことで、複合的な価値観でつくられる本屋ができたら面白いなとイメージしています。
長年本屋を運営する中で、お客さんに本を教えてもらうことがたくさんあります。そして、それが本の仕入れに反映されることも多いです。僕が最初に古書店を始めた時は、日本で流通していない古書が並んでいる書店をやりたくて、実際に海外に買い付けに行って自分が面白いと思ったものを店頭で扱っていました。僕が選んで買ってきたものに興味を持ってくださる方がいることはありがたいと思う一方で、個人的な価値観でセレクトされるため、良くも悪くもすごく偏りがあると僕自身が感じました。本来書店はもっと開かれた価値観で選ばれたものが並んでいるべき場所なのではないかと。その打開策になったのが、2011年から始めたPOSTで、毎月ひとつの出版社を選んで特集し、その出版社の本を一堂に並べるスペースを設けることにしました。今回の書店も僕自身が面白いと思った本を並べるというよりは、複合的な価値観で選ばれた本が並ぶ試みをしていきたい。なので、来店してくださる方には、ぜひ積極的に本屋を一緒に成長させるのに携わってもらえたら嬉しいです。

──どのような本を置いているのですか?

いわゆる建築書に限定せずに選書していく予定ですfig.2。これまでPOSTに来てくださった建築家の方々が手に取る本を見ていて、建築書だけを見ているわけではなく、アートや写真、そのほかデザインに関する本など、さまざまな本からインスピレーションを受けているのだと感じました。書店がオープンするまでに、連載「建築家のライブラリー」の企画で4人の建築家に愛読書を伺う機会があったのですが、たとえば内藤廣さん(第4回)が紹介してくださった本は、ほとんどがいわゆる建築書ではありませんでした。だけど、その選書には内藤さんの今やられている仕事に繋がっている部分があるのだろうなとお話の中で強く感じたんです。書店では、連載で上がった本も含めて、アートブックや写真集、建築家の作品集など、幅広く置いています。読んだ本の内容がその時は直接惹かれる表現ではなくても、自分の中に留めておくことである瞬間にほかの何かと繋がって消化され、新しい価値観を得られる可能性を秘めているのが本の面白さなので、ぜひさまざまな本を手にとっていただきたいです。

これは本だけでなく、さまざまな表現にも通じるところですが、食べ物を食べて「美味しいな」と思うことと、絵を見て「綺麗だな」と思うことは根源的には同じだと思っています。「美味しい」に対しては、多くの人がいちいち理由を求めることなく、感覚的に言葉が出ますよね。そしてそれでいいわけじゃないですか。それは絵画や本を見る時も同じで、感覚的に自分の中にスッと落ちることを信じればよくて、難しい歴史などを理解していなくてもまずは楽しんで触れてほしいです。そして、その手助けとして書店員の存在があります。また、すでに自分が知っている本でも、書店でのコミュニケーションや企画を通じて、自分で気がつかなかった理解の仕方を得られると思います。僕自身も連載「建築家のライブラリー」を通じて、さまざまな新しい見方を学んでいます。

変化の余地をもつ書店

──「新建築書店」の2階には、展示やトークのスペースが設けられていると伺いました。

そうなんです。POSTでも展示やトークイベントを行うスペースを設けていますが、場を通じて本の理解をより深めてもらえることを日々実感しています。そこで、「新建築書店」も2階はイベントや展示のためのスペースとしましたfig.3。今回「新建築社 青山ハウス」を改修して書店としています。本というモノを起点に機会をつくることで、これまでとはまた違う試みが生まれるのではないかと楽しみです。最初の試みとして、「建築家のライブラリー」で青木淳さん、乾久美子さん、長谷川豪さん、内藤廣さんが紹介してくださった書籍を、手に取って見ていただけるように展示していますfig.4。1冊しかない本もありますが、古書も含めて購入可能です。今後は、1カ月半ぐらいをひとつの期間としながら展示を企画していきたいです。

──足を運ぶたびに変化が楽しめそうです。

内装も、いきなり大きな本屋として構えるのではなく、少しずついろんな変化を受け入れていけるように、もともとあった什器を活用しながら、書店として運営するのに足りない部分だけ追加で制作・改修するかたちにしました。オープン時は、1階が販売、2階が展示やイベントスペースになっていますが、今後の成長によっては2階まで書店が拡張されるということもあるかもしれません。そんな、運営していく中で徐々に変化していく余地をもつ書店として捉えて考えていけたらと思いますfig.5

──最後に、サインのデザインについて教えてください。

全体のアートディレクションはデザイナーの田中義久さんにお願いしています。レンガの外壁に取り付けられたサインには、亀倉雄策がデザインした「新」を再利用しています。「新」は正確に英語にすると「new」になるのですが、ポストモダンなどの言葉で使われる接頭語「post」を拡大解釈して「新」と捉え、「新」と「POST」を対にしました。それがそのまま店舗のサインになっています。また、共同という運営スタイルも暗に示しています。田中さんには、そんな背景を汲んでいただきながら、建物の佇まいにスッと馴染むサインをデザインをしていただきました。2階の展示サインなども手がけていただいているので、書店にお越しいただいた際には、そういったところもぜひ見てもらえたらと思います。
fig.1

(2022年8月3日オンラインにて 文責:新建築 .ONLINE編集部)

中島佑介

1981年長野県生まれ/2003年早稲田大学商学部卒業/2003年limArt設立/2011年〜アートブックショップ「POST」代表/2015年〜Tokyo Art Book Fairディレクター

新建築書店

中島佑介
続きを読む

「新建築書店」外観。/撮影:新建築社写真部

1階。/撮影:新建築社写真部

2階。連載「建築家のライブラリー」で紹介された本を手に取ることができる。/撮影:新建築.ONLINE編集部

連載「建築家のライブラリー」でどのように建築家が紹介されたかがキャプションで読める。/撮影:新建築.ONLINE編集部

運営を手がけるPOSTの書店員のふたりと中島さん(左)。/撮影:新建築.ONLINE編集部

fig. 5

fig. 1 (拡大)

fig. 2