2022.05.05
Interview

分野を超えて切り拓く「アーバンサイエンス」

巣籠悠輔(GRIT Tech)×吉村有司(東京大学先端科学技術研究センター)

吉村有司さんがゲストエディタを務める特集「データ時代の都市・技術・社会」として4本目となる今回は、国内におけるディープラーニング研究の第一人者の巣籠悠輔さんにお話を伺いました。既存の指標に新たな視座を与えられる、たくさんのビジネスチャンスが潜んでいるにもかかわらず、その可能性は広く認知されていません。アーバンサイエンスにコンピュータサイエンティストが参入すると、新たな可能性が拓かれるかもしれない。日本におけるアーバンサイエンスの確立に向けた道を、都市/コンピュータサイエンスの双方の視点から見ていただきます。(新建築.ONLINE編集部)

吉村 僕は自分の研究を通じて、都市や建築にデータを活用する「アーバンサイエンス」という分野を立ち上げようとしています「「アーバン・サイエンス」とは、もともとはMITのDUSP(アーバンスタディーズ&プランニング学部)が2019年に立ち上げた学部課程コース。世界の先行事例などについては『a+u』2021年9月号の「アーバン・サイエンスと新しいデザインツール」特集を参照。。しかし、従来の都市・建築という枠組みの中で、プログラミングを扱える人はごく少数に限られ、膨大な情報が溢れているのに基本的な都市データの整備すらなかなか進んでいない状況にあります日本の都市データの整備状況は、瀬戸寿一による論考「参加型まちづくりに向けたオープンデータの整備──日本の都市空間に関わるデジタル地図データを中心に」に詳しく記述されている。(https://shinkenchiku.online/column/4259/)。この現状に対し、たとえば巣籠さんのようなコンピュータサイエンスを専門とする方がたに参入の可能性を感じてもらえると、都市の新たな側面を浮き彫りにできるのではないかと思っています。今回は、その可能性をお話できたらと思います。
そもそもデータを分析する際にAIが何を行っているのか。たとえば、「あの子は服のセンスがいい」といういい方をしますが、なぜセンスがよいのかというと、無意識に多くの良質な情報をインプットして脳内で計算し、世の中の動きなどに合わせて服を選んでいるからだと思います。僕の言葉でいえば、そういう人は日々、無意識のうちにデータを集めてパターン解析をしているわけです。AIはこのような膨大なデータを分析して最適解を見つけ出す人間の脳の機能を再現しているというのが僕の解釈です。コンピュータサイエンスの分野で開発され、発展してきたこれらAIの技術が、建築や都市の分野に適応され始めたことによって、これまで人間の目や手だけでは把握しきれなかったところや、膨大なデータを解析することで始めて見えてくる「隠れた秩序」のようなものを発見できるようになりました。新しい領域であることに非常にワクワクすると同時に、時代と環境の変化に合わせて現行の建築や都市計画、まちづくりの分野に科学の視点、つまり「アーバンサイエンス」を加えて都市を再考する必要があると考えています。

コンピュータ・サイエンスの今

吉村 そこでまず巣籠さんにお伺いしたいのですが、コンピュータサイエンスの分野において、建築や都市にまつわるビッグデータ活用やAIの可能性などはどのように捉えられているのでしょうか?

巣籠 研究分野としてのAIには、実は50年以上の歴史があります。その中でも、AIの技術が飛躍的に発展したのはここ10年のことで、そのきっかけとなったのがディープラーニングです。そして、それらの技術を支えるハードウェアの性能も大きく向上しました。これにより、大規模のデータも素早く分析・考察できるようになりました。これまでは扱いきれなかった課題にも次々と切り込めるようになっています。計算コストの面から足枷となっていたデータの規模が、ここからは逆に大きな武器となる時代がやってきた、ということです。
データは単体だとある事実を示す数値に過ぎませんが、それが集合体になった時に、別の意味をもちます。要素ひとつひとつもデータといえますし、その集合体もデータといえます。データを分析することは、その対象が生まれた背景や個性を紐解くことであり、これまでに解明されなかったことを発見することである、新規性溢れるとても魅力的な作業です。囲碁のAIソフト「AlphaGo」の指手に、人間が長年かけて培った定石から逸脱したものが多くあるように、AIやコンピュータサイエンスから都市や建築の新しい定石が生まれる可能性もあるのではないでしょうか。特に、今の日本のデータ産業では、民間会社が数百から数千のデータを集めて活用するような規模の小さなプロジェクトが多い印象です。その中で、都市という巨大なスケールはチャレンジしがいがありそうです。

日本の都市・建築分野におけるビッグデータ

吉村 吉村 建築や都市分野におけるビッグデータ分析は、学術的にもビジネス的にもポテンシャルはすごくあると思います。いちばんのネックはわれわれの分野でビッグデータを扱える人材があまりいないということです。建築・都市系でプログラミングの授業を行っている大学はまだまだ少ないので、データを扱うとなると基本的にExcelやSPSSといった既存のツールになってしまいます。そうすると扱えるデータ数が極端に少なくなってしまったり、柔軟性に乏しかったりと、都市スケールの大規模なデータは扱えません。また扱えたとしても、それらのデータをどうやって分析していき、さらにそれをデザインや提案にどう活用していくのかというところで必ずつまずいてしまいます。また、そもそも日本では都市データの整備が遅れているという問題もあります。欧米では盛んに都市データをオープンにし、市民に使ってもらえるようにしていたり、ビジネスに繋げていたりしますが(300.000km/sなど)、日本では最近になって東京都や国土交通省がデータ整備に取り組み始めた段階ですfig.1

巣籠 たとえば不動産業において、アメリカでは多くのベンチャー企業が参入し、データ整備がかなり進んでいますが、日本は全然整備が進んでいません。私は今、不動産売買にかかわるデータを自分たちで集めて整備し、提供する投資家向けのサービス「プロマト」を展開しています。不動産業では相対取引も行われますが、この場合、取引が当事者間のやりとりとして完結されてしまい、情報としてきちんと記録されないことも稀ではありません。データ整備がきちんとなされていないために、適切な情報へのアクセスが困難となり、その結果、業界全体として、情報処理に著しく時間がかかる、取引情報の非対称性が発生しやすくなってしまうなどの問題が発生しています。この課題や現状は、不動産業に限らず都市の分野でも同じような問題があるのだろうという気がします。

吉村 不動産はまちづくりや建築と切っても切り離せないので相互作用で一緒に発展させていくのはとても重要です。おっしゃる通り、日本のデータ整備はかなり遅れていて、GIS上で扱っていくべき都市情報の多くが、まだまだデジタル化されていないのが現状です。最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がさまざまな場面で使われていますが、その前段階であるデータ化(デジタル化)すらできていないのが建築や都市分野の状況なのです。去年、不動産の中でも「負」の「動産」に興味を持って卒論で取り組んでいた学生がいました。今、日本の各地で人口減少に伴う空き家とその集積が問題となっていますが、現状それらがどこにどれくらい発生していて、将来的にどれぐらい発生しそうなのかをデータから分析した研究です。ただ、その分析のもととなっているデータも、一部が欠けていたり、最近のデータしかないなどあまり整備されておらず、かなり苦労して研究していましたfig.2。 ちなみに、僕が以前勤めていたバルセロナの都市生態学庁では、僕が入庁した2005年の時点ですでに、今でいうところの都市ビッグデータを収集し、それをGISなどで分析し可視化しながら都市政策に落とし込むサイクルが普通に行われていましたfig.3。1980年代には都市のアクティビティ(小売店の集積など)を定量的に把握して街の中心性や求心性を数理的に求め、それらエビデンスに基づいて、新しくつくるターミナル駅の立地を戦略的に政策決定していました。あるべき都市のかたちを想像し、それを実現するためにデータを戦略的に用いるという方向性です。

──吉村さんは都市生態学庁に入られる前から、バルセロナ市役所が都市ビッグデータを用いて公共空間戦略を立てたり、分析結果をデザインに活用していることを知っていたのでしょうか?また、入庁時点でプログラミングなどはすでに習得されていたのでしょうか?

吉村 僕が都市生態学庁に入庁した理由は、バルセロナの公共空間のデザインや戦略に携わりたかったからなのですが、その時点ではデータとか、そもそもテクノロジーにはあまり関心がありませんでした。僕はどちらかというと、模型を作ったりスケッチをしたりといった、自分の手と目で一歩ずつ建築や都市を把握していくタイプだったのです。都市生態学庁でもそのようなアプローチを期待していたのですが、いざ入ってみると、30人近くいた同僚のうち、建築家は僕を入れて3人だけで、物理学者や数学者、植物学者、生物学者など、さまざまな職能の人びとが集まっていました。長官のサルバドール・ルエダもバックグラウンドは心理学と生物学で、それらの知見を活かしながら都市政策に従事していました。多様なバックグラウンドを持った人びとがひとつのテーブルを囲み、さまざまな側面から都市を議論していたのですが、そこでみんなを繋いでいたのがデータだったのです。データというものを介することによってある問題に対する共通の認識を持ち、それらを可視化することで専門性がまったく違う人びととのコミュニケーションツールとして機能していました。データが持つパワーや明快さ、実現したい都市像を達成するための戦略的なデータの使い方に圧倒されました。日本に同じやり方が合うかどうかは分かりませんが、データを活用した都市政策や都市デザインを前に進めるには、デジタルや都市計画、地理学などの分野の中間にいるわれわれが、公的機関に積極的に呼びかける役割を担う必要があります。

巣籠 不動産テックという文脈でデータ分析をしている人は、コンピュータサイエンスの分野でもそこそこいます。近年、金融業界ではフィンテックが盛り上がっていますが、それはマネーフォワードが数年かけて金融機関にAPIAPI(Application Programming Interface)とは、ソフトウェアやアプリケーションなどの情報・機能を外部に向けて公開することにより、別のソフトウェアやアプリケーションからの利用・共有を容易にしてくれる仕様のこと。を開放するよう働きかけたことによる功績です。同様に、都市関連のデータも整備やAPI開放が進むと、アーバンサイエンスは急速に発展すると思います。

吉村 都市データの整備や、それこそ自治体を巻き込んだスマートシティの構築にはAPIへの理解が必要不可欠だと思っています。しかしAPIという言葉を理解できる人や、そもそもこの言葉に興味を持つ人は専門家以外にほとんどいないのが現状です。だったらまずはそこに興味を持ってもらおうと思い、2021年に開催したのが「ネコにとって住みやすい街とはどんな街か?」という静岡県沼津市でのシンポジウムでした。「スマートシティ」「データ」といってもなかなか市民には興味を持ってもらえない。でも「ネコ」というと少しは興味を持ってもらえるかもしれないfig.4。これからのスマートシティや「データを用いたまちづくり」などは市民が中心になってくると思います。ボトムアップ的に、そして共創的にみんなで街をつくり、育てていくという観点です。だとするならば、われわれ専門家も一般の人びとの目線に立って彼らにもきちんと分かるように説明する努力をすべきだと思っています。

アーバンサイエンスの新しい可能性(評価指標をつくる、美を定量化する)

吉村 現在、国土交通省などによって進められている都市データの整備以外にも、都市におけるビッグデータ分析にはさまざまな活用法があります。たとえば僕は、芦原義信(1918〜2003年)が提唱した「街並みの美学」『街並みの美学』(芦原義信、岩波書店、1979年)の定量化fig.5や、ジェイン・ジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』『The Death and Life of Great American Cities』(Jane Jacobs, Random House, New York, 1961)邦訳『アメリカ大都市の死と生』(山形浩生訳、鹿島出版会、2010年)の中で主張される都市多様性の定量分析fig.6、スペイン全土を巻き込みながら大規模にデータを分析した歩行者空間化と小売店の売り上げ関係の検証などに取り組み、データによって既存の評価指標を裏付ける研究をしてきました。今後さらに、心理学者の方がたと共に、歩行者空間化が対象地域住民の幸福度やウェルビーイングに与える影響を定量分析しようと試みていますfig.7。また、機械学習を芸術分野に応用する方向も模索していて、たとえば浮世絵の流派の特定を試みています。浮世絵の世界にはいろんな絵描きがいますが、どの絵描きも流派に属してるらしいのです。だから描かれたスタイルを見るとその人が属する流派がある程度分かるそうですが、写楽は売れてるにもかかわらず、どこにルーツがあるか分からないといわれているそうです。そこで、各々の絵描きの浮世絵をデジタルで何千枚と集めてきてAIに学習させる。そうすると特徴量を勝手に抽出してくれるので、それをプロットしてやることによって、浮世絵界における写楽のポジショニングが分かるかもしれないと考え、今少しずつ研究を始めています。そうすると、人間の目ではなく機械の目から見たものとして、新たに光が当たるかもしれません。

巣籠 評価指標を裏付けたり、評価指標そのものを新しく生み出す取り組みをされているというのには驚きました。評価指標をもってものごとを測るのは大事ですよね。ヨーロッパの都市とアジアの都市では景観が大きく異なりますが、東京という高層ビルが建ち並ぶような街並みでも、バルセロナのように多様性や経済への影響を評価できたら面白いと思います。日本の建築都市の景観はオリジナリティもありますし、私自身も海外で働いていた時期がありましたけど、やっぱり東京の街並みはすごい綺麗だなと改めて思ったので、日本発の情報が発信できると嬉しいですよね。
また、都市と経済、都市と美学などの異分野が絡む新規性にも可能性を感じます。新しい評価指標は新しい分野でこそ生まれるので、アーバンサイエンスは今が研究しがいのある時期といえますね。写楽のようにほかの分野にも応用できそうな手法だと思いました。ひとつのデータでも、いろいろな可能性を秘めていて興味深いです。今、日本はアニメや漫画、ゲームの国という印象が強いように思いますが、それ以外の分野で世界に発信できるようになるといいなと思います。そして、それがアーバンサイエンスになる可能性は大いにあると思います。

ビジネス的可能性と人材育成の課題

吉村 建築家の職能は、設計という行為からもっと広がっていくべきだと思っています。
データサイエンスという視点においては、現行今の都市・建築分野において求められるデータ分析のスキルとしてはそれほど高度な技術を用いる必要がないため参入のハードルはそれほど高くなく、画像解析や、マッピングだけである程度の成果が出せるはずです。ただ、都市・建築の学生は、Pythonなどのコーディングの授業を受けていない人が多いので、ビッグデータを扱える人がまだ少ないのが現状です。また、コンピュータサイエンスの分野では学生がアイデアを出し合ってスタートアップを立ち上げたりといったことが普通に行われていますが、日本の建築・都市分野で資金調達をして起業することはまだまだ一般的ではありません。ただ欧米はちょっと事情が違っていて、たとえば僕がいたMITの建築・プランニング学部では、建築・都市系に特化したアクセラレータープログラム(MIT DesignX)を走らせたりして、僕の同僚や教え子もたくさん起業しています。

巣籠 コンピュータサイエンスの分野では、お金が生まれるかどうかは関心を引くためのひとつのキーになります。最近は外資系の証券会社などでエンジニア部門の人数がすごく増えているという話も聞きます。やはり、儲かるチャンスがあるところに人は集まるものです。一方で、AI の技術が発展してデータ分析の精度は上がったという話は数多く出ているものの、じゃあ一体何のデータを分析するのがいいのだろう、と悩むケースも多いので、そういう意味でも実際に都市の経済に絡むデータというのは新しさがあると思います。

吉村 今、学生と共にスタートアップのプロジェクトをひとつ始めようとしています。風景画像から街路樹や建物のファサードをセグメンテーションしたマッピングデータを導入し、自動で更新できるようなシステムが組めると、自治体が数年ごとに実施していた大規模調査の予算を大幅にカットすることができます。巣籠さんならお分かりいただけると思うのですが、上記のビジネスを始めるのに技術的なところで難しいところはほとんどありません。今までコンピュータサイエンスで公開されてきた技術の組み合わせだけで十分達成できる範囲の話なんです。僕は今はアカデミックの世界にいるので、これをそのままビジネスにするというよりは、まずは教育プログラムとして走らせたいと思っています。基礎研究として論文を書き、スタートアップにすることで、学生の契機となってくれたらと思っています。

巣籠 吉村さんが始めようとされているような研究を軸としたスタートアップは、研究者の間では大いに話題になります。私がサービス立ち上げに携わったグノシーは、O'Reilly Japanから出版された『集合知プログラミング』(Toby Segaran著、オライリージャパン、2008年)をもとにニュース記事の推薦アルゴリズムを実装したサービスですが、研究者の間ではかなり話題になりましたし、データ分析の専門家が興味を示してくれました。研究からのスタートアップという切り口から、コンピュータサイエンスの学生が関心を持ってくれそうです。 特にこの3〜5年で、大学在学中あるいは卒業後にすぐに起業する人が急激に増えた印象です。研究室時代の後輩は、人工知能によるあらゆる機械の自動化を目指して「DeepX」という会社を立ち上げましたし、別の後輩は自然言語処理技術を活用した「ELYZA」という会社を立ち上げました。AI技術を活用して起業をしよう、という取り組みがとりわけ活発です。
東京大学では、2004年からアントレプレナー道場という企業やスタートアップについて学ぶプログラムを行っていますが、昔は学外活動の一部という位置付けだったものが、今は講義として単位がつくものになっています。

──コンピュータサイエンスの研究を軸としたスタートアップは、建築や都市の分野でも可能性があると感じますか?

巣籠 日本では長らくお金を儲けることが汚い、デザインはお金を払う対象ではないというイメージがありましたが、2020年にGoodpatchがデザイン会社として初めて上場したように、デザインによってお金を稼ぐ文化が徐々に根付き始めていくのではないかとも感じています。私自身も広告代理店に勤めていたことがありますが、たとえばデザインをクライアントに提案した時の判断がすべて感覚で成り立っています。そこを定量化して可視化できるとすごい説得力が増すと思いますし、結果的に自分の好きなデザインができるはずです。都市計画・建築は数字がものすごいインパクトをもつ分野だと思うのでデータとは相性がいいはずです。

吉村 実際、建築業界でも自分たちで資金調達する人たち、つまりこれまでとは異なる建築家像が出てきたことはとても大きい変化で、そういうところからデザインの価値を上げていくことにとても可能性を感じています。コンピュータサイエンスの人たちが都市計画のことを知って参入してくる道と、都市計画や建築を学んでいる学生がデータの領域を知っていく道、双方向の道があると思います。まちづくりのプレイヤーが増えると、クライアントにとっての選択肢が増えてアウトプットにも多様性が生まれるため、特に異分野の人たちの参入は欠かせません。

巣籠 研究は、ほかの分野と交わることによって新規性を増します。私が専門としているディープラーニングも、私がやり始めた2012年当時はまだ海外で注目されてきた程度で、日本で本格的に盛り上がったのはそれから数年後のことでした。機械学習によって画像認識の精度などの整合性を競うコンペティション「ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge」が行われ、そこでディープラーニングを用いた手法が既存の手法に大差で勝ったのをきっかけに、アカデミアの人たちが一斉に研究を始めたのです。ディープラーニングの場合は、たとえば画像認識で90%の精度のものが99%まで向上したという分かりやすい進化の指標があったので、インパクトが大きかったのだと思います。アーバンサイエンスでも、インパクトの大きさが分かる指標が出てくると認知の広がりも早まるのかもしれません。このように都市の視点とコンピュータの視点が絡めば、研究だけに留まらず、産業としても新たな地平を拓くものになるのではないでしょうか。

(2022年3月1日、オンラインにて。文責:新建築.ONLINE編集部)

巣籠悠輔

2013年東京大学大学院工学系研究科修了/現在、GRIT Tech CTO/2018年 Forbes 30 Under 30 Asia 2018 に選出/主な著書に『詳解 ディープラーニング 』(マイナビ出版、2017年)など

吉村有司

愛知県生まれ/2001年〜渡西/ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了/バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年〜東京大学先端科学技術研究センター特任准教授、ルーヴル美術館アドバイザー、バルセロナ市役所情報局アドバイザー

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