宮益坂、道玄坂、スペイン坂…数々の坂に囲まれる街・渋谷。すり鉢状の地形の中心、渋谷駅の足元は人びとの喧騒にあふれ、頭上にはビル群がひしめく。
本展は、ものの修復をテーマに制作を続けるアーティスト・青野文昭が、地形と建物によってかたどられた渋谷の谷底を流れる人や金、欲望、エネルギーなどのさまざまなモノから着想を得て制作した43点の新作を展示している。
会場には、青野が渋谷を巡り収集した家具やごみなどの不用品を組み合わせて制作したオブジェ、ドローイングなどが並ぶ。1階の吹抜け空間には、複数の箪笥を積み上げた高さ約4.5mのオブジェ「なおす・合体代用・連置・集積『谷間に生えだす──とあるビルのおもかげ・渋谷』2021~2022」がそびえるfig.1。箪笥に空けた小窓からは人型の木板が覗き、壁に囲まれたオブジェの背面では、路地裏に机を置いて人が談笑する様子が再現されるfig.2。2階の展示スペースには書籍をくり抜きビル群に見立てたオブジェfig.3や、新聞の欠片を補完するように筆を加え、街の風景を描いたドローイングfig.4などが展示される。
生み出し、増殖し、さらに何ものかを引き寄せ、破棄する。終わらないサイクルの中の盛衰。様々な情報や広告看板を草花の様に芽吹かせ、人々の視線や欲望を誘発し吸収しまとわりつかせながら、それらを養分として伸びあがる―縦に立つ・建つモノ―「タテモノ」。例えば街の雑多なビルディングは、そうした循環を視覚化してくれているようでもある。(展示ステートメントより)
と青野は説く。
街の廃棄物より立ち上がった本展の作品群は、成長を続ける都市を横目に、都市のサイクルからはみ出したモノたちに、青野が手向けた墓標のように感じられる。
都市生活の背後で、密かに終わりを迎えるモノがいる。そのモノも含めて、都市は総体としてあるという現実を突きつけられるかのような展示であった。
(新建築.ONLINE編集部)