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2023.12.27
Exhibition

フィクションから構想するノンフィクションのまちづくり

「(Non)Fictional Urbanism─まちの観察と実験─」レポート

新建築.ONLINE編集部

2023年9月から12月にかけ、海法圭氏、川勝真一氏、津川恵理氏が講師を務め、都市の観察とまちづくりの提案を行う10代の若者向けの講座「(Non)Fictional Urbanism─まちの観察と実験─」が開かれました。その模様をレポートします。(編)

2023年9月から12月にかけ、都市の観察とまちづくりの提案を体験する10代の若者向けの講座「(Non)Fictional Urbanism─まちの観察と実験─」が開かれた。若者を対象にしたクリエイティブ領域の授業を展開する「GAKU」プロジェクトの一環で、海法圭氏、川勝真一氏、津川恵理氏が講師・監修を務めた。新橋・虎ノ門地区のまちづくりに取り組むUR都市機構の協力を受け、参加者は新橋を中心にワークショップを重ね、今ある都市をいかに受け止め、またいかに生き生きとした空間をつくり上げるかを模索した。

講座は全10回で、計11人の高校生、大学生が参加。前半は街に繰り出してノンフィクション、つまり目の前の現実への理解を深め、後半はそれらの体験や理解をもとに、未来の新橋のあり方へのフィクショナルな要素を組み込んだ提案をつくり上げた。

前半の第1〜4回はそれぞれ、モノ、人、空間、現象の観察をテーマにフィールドワークに取り組んだ。
第1回「モノの観察」では新橋駅周辺を歩き、気になるものや魅力的なスポットの写真を撮影し、10枚にまとめてタイトルを付けた。瓶ビールケースを椅子のように使う「新橋的アップサイクル」fig.1、派手な看板や広告を写した「過剰広告」fig.2など、それぞれに感じた新橋らしさを整理、可視化した。
第4回「現象の観察」では、舞台を渋谷に移した。参加者は、モノの硬度や空間に充満する臭い、風の強さや音の大きさなどを測るセンサーをそれぞれ手にして街へ繰り出し、都市のさまざまな現象を数値として認識。その数値をもとにしたビンゴゲームを組み込むことで、楽しみながら身の回りの現象について学んだfig.3

続く後半は、まちづくりへの提案を見据え、より実践的な演習に臨んだ。
第7、8回では、自身の思う未来の新橋のあり方をテーマに、新橋で撮影した写真やインターネットで収集した画像を用いたコラージュを作成。新橋の「親密さ」をヒントに、都市と自然、人との繋がりを構築しようと、高層ビルに立体動線や緑を重ねた建築的な提案fig.4から、新橋の良い意味での雑多さ、汚さを象徴する画像を集め、水族館の背景に重ねるといった実験的な試みfig.5まで、多様な思いが込められたコラージュが提案された。

最終回は、新橋駅西口周辺のまちづくりを提案。参加者はグループに分かれ、「大人の正しい遊び場」、「路上の不自由さ」「グッド・バッド・デザイン」など、これまでのフィールドワークで得た着眼点を念頭に、敷地図に思い思いの提案をしたためた。
あるグループは「体と心をつなぐ広場」と題し、駅前を演説や路上ライブなどが繰り広げられる精神的な充足をもたらす広場とし、駅前広場から南側にかけては、大人が遊ぶための遊具を備えた公園や運動施設などを配置した、身体的な悦びをもたらすエリアとし、それらを繋ぐようにSLを走らせるという提案をしたfig.6
またあるグループは「おじTopia」と題し、新橋に目立つ中年男性がエネルギッシュに生きられる空間を目指した。巨大なピロティを設けたビルや、街を見下ろす屋上庭園、回遊性を生み出す商業施設などの施設提案を行ったfig.7
提案を受け、川勝氏は「目の前のリアルだけを追いかけてまちづくりをしても、同じような街を再生産することになる。これからの都市を考えるためには、未だないものをどう想像するかが重要だ」と指摘fig.8。津川氏は「都市は外的な要因と内的な欲望が交錯する場所であってほしい。今回の参加者が示してくれたイメージ像は、未来の新橋に変数を与えるきっかけになったのではないか」と振り返ったfig.9。海法氏は「どの提案も、ファンタジーがありつつもリアリティを感じさせるものだった。それは、前半のフィールドワークで新橋の街を歩いて自分にとって切実かつリアルな気づきを得ていたからだろう。これからもマジョリティの論理で定まるリアリティだけに囚われず、未来の都市を考えてほしい」と締め括ったfig.10

今回の講座は、若者ならではの視点で未来のまちのあり方を模索することのみならず、絶えず変化を続け、とらえどころのない総体としての都市を、自らの身体で主体的に感じ取るプロセスにこそ本質がある。風景を所与のものとして受容するのではなく、こうだったら楽しい、こうあるとワクワクするという根源的な感性からフィクションを想像し、それを実現するところから、インクルーシブなまちづくりは始まるのだろう。

デザイン
まちづくり
都市
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「新橋的アップサイクル」。瓶ビールケースが椅子の代わりとして使われている場面。/提供:GAKU事務局

「過剰広告」。複数の看板広告が入り混じる新橋の風景。/提供:GAKU事務局

渋谷の路上で風の強さを計測する参加者。/撮影:新建築.ONLINE編集部

高層ビルに立体動線や緑を重ねたコラージュ。/提供:GAKU事務局

新橋の雑多さを象徴する画像を集め、水族館の背景に重ねたコラージュ。/提供:GAKU事務局

「体と心をつなぐ広場」の提案シート。/撮影:新建築.ONLINE編集部

「おじTopia」の提案シート。/撮影:新建築.ONLINE編集部

川勝真一氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

津川恵理氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

海法圭氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

fig. 10

fig. 1 (拡大)

fig. 2