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2022.07.29
Essay

建築と庭の境界の融和

室内緑化で緑を身近に引き寄せる試行錯誤

荻野寿也、荻野彰大(荻野景観設計)

本記事は『新建築住宅特集』2019年8月号に掲載された特集記事です。荻野景観設計の事務所兼ショールーム「green cave」(2016年)が、設計担当の荻野彰大さんによる解説「緑と器」、造園担当の荻野寿也さんによる論考「近くの緑」のふたつ視点からの文章によって紹介されています。荻野寿也さんのインタビュー記事「庭・建築・街をつなぐ──理想の環境と暮らしを提案する造園」も合わせてご覧ください。


緑と器

荻野彰大(設計)


シンプルな小屋の床を1スパンを抜き、地面を露出させた、室内の庭をもつ事務所である。植物にとって必要最低限の採光、通風、排水環境を設定した実験場でもあり、ショールームとして庭をより近く見られる演出の場でもある。トップライトを南側に設けることで中庭に直接光を届け、ガラスドアは室内の地表に心地よい風と光を誘い込む。溶融亜鉛メッキ仕上げの階段は室内庭の外部性を強調し、木毛セメント板の曖昧な有機・無機性が鉄骨と植物の存在感を紡ぎながら、光を吸収してトップライトの光をドラマチックに造形する。簡素な流通材を無理なく組み合わせながら、洞窟のように自然な質感と光を生み出す植栽の器となる建築を目指した。
また、建築の平面形状を南北軸に対して斜め45度に振ることで、極端な日照環境をつくらず、四方を取り巻く庭が半日陰となり、植物にとって負担の少ない配置としている。隣地の野池へ向かう段差部分は擁壁ではなく景石で土留めをして植栽を加え、隣の森のような景観を受け止めながら室内の中庭へ受け渡すランドスケープとしている。計画から施工に至るまで建築と庭、造園の境界を消失させ、両者の自然な融解とコントラストが顕れるように工夫した。

fig.1fig.2fig.3fig.41階配置平面図断面詳細図



近くの緑

荻野寿也(造園)


室内環境を屋外に近づける
これまで半屋外や軒下などの一般的に植栽が厳しいと思われてきた場所に積極的に緑を提案し、経験を重ねてきた。温暖化で猛暑が続く昨今では植物には陰が必要で、建築がその役割を果たすべき時代にきていると感じている。10年前には地下店舗での庭に挑戦し、暗室実験を行いながら日陰に強い日本の自生種を主に植栽したが、今でも月1度のメンテナンスを行いながら維持している。
室内緑化の維持は実際には難しい。計画に重要なことはその状態をどれだけ屋外や山の環境に似せられるかで、光・風・水・土の要素をいかに取り入れ余分なものを排出できるかに尽きる。2016年に竣工したわれわれの新社屋では日常生活にもっとも近い庭として、一般的な住宅に似た室内で実験的に中庭をつくった。天井が全面開口でたっぷりの光が降り注ぐような室内では植物が生育しやすいことは想定できるため、あえて暗い室内で試している(何より温室のように蒸し暑い環境になることは避けたかった)。植物育成用LED照明で光合成を促したり、自然換気で新鮮な空気を保つ工夫(エアコンの風は傷み・害虫発生の原因となる)や、水はけをよくするため無機系土壌改良剤の割合を多くして暗渠排水管を建物周囲に入れるなどの対策をとっている。また、雨が当たらない分の栄養を週に1度の液肥でフォローしたり葉水をかけて埃を落とすなどのメンテナンスを行っている。実績として庭木ではヤブツバキ・アオキ・ハクサンボク・マツラニッケイ・バイカウツギ・ヒサカキ・ナンテンなどは耐性があり、照葉樹をはじめ耐陰性・成長力の高い樹木の成績がよい。ジャカランダなどの熱帯植物や観葉植物も順調で、地表面はシダ・ヤブランなど林床の植生がやはり強い。風通しがよいせいか、懸念していた虫や菌の発生も、アリが夏場少し出る程度で問題はない。

生活の一部となる緑
鉢植えで緑を楽しむ方法がある一方で、この事務所では1スパンが大地と繋がる大きな植木鉢になっていることで、根をのびのびと張らして木が健康に育つと共に、水やりも汚れを気にせずホースでたっぷりあげられるのは気持ちがよい。周囲の緑がそのまま室内に伸びてきたような自然さが地植えでは感じられ、森のように足元から生まれる植栽は安心感がある。フジ・ブドウの壁面緑化も同じ感覚で、波板スレートのフックボルトに枝をテグスで固定することで建物を覆っている。階段から木の高い部分に手が届くこともメンテナンスしやすい利点である。
室内庭は手間がかかる一方で、暮らしに近い緑だけにより愛着をもちやすいことは外庭との違いかもしれない。植物が家族の一員として迎えられることを嬉しく思っている。

fig.7fig.8fig.9fig.10fig.11植栽リスト

(初出:『新建築住宅特集』1908 特集記事)

荻野寿也

1960年大阪府生まれ/大阪府立今宮工業高等学校建築科卒業/1988年家業である荻野建材入社、同時に緑化部創設。以後ゴルフ場改造工事を機に樹木、芝生を研究、独学で造園を学ぶ/2006年荻野寿也景観設計開設/2021年荻野景観設計に改組/1999年自邸が「第10回大阪府みどりの景観賞」受賞/2013年「craft松本アトリウム」で長野県松本市景観賞奨励賞受賞/ 2015年「三井ガーデンホテル京都新町別邸」で第25回日本建築美術工芸協会賞(AACA賞)優秀賞共同受賞/著書に『荻野寿也の「美しい住まいの緑」85のレシピ』(エクスナレッジ、2017年)

荻野彰大

1987年大阪府生まれ/ 2010年早稲田大学創造理工学部建築学科卒業/ 2012年同大学大学院修士課程修了/ 2012年荻野寿也景観設計勤務

荻野寿也
荻野彰大
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植栽

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新建築住宅特集 2019年8月号
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「green cave」(大阪府堺市・2016年)
応接室から中庭越しに事務所を見る。荻野寿也景観設計の事務所兼ショールーム。中庭は、布基礎とすることで植栽用客土と地盤を直接接続し、建物の地際に暗渠排水管と砂利層を設けて排水を確保している。開口部はガラスドアと電動式トップライトとして、必要最低限の採光・通風を保ち洞窟のような空間としている。/撮影:新建築社写真部

事務室。水平連窓から緑を望む。/撮影:新建築社写真部

外観(南面)。アカマツを主とした植栽の中に建築が佇む。/撮影:新建築社写真部

西側隣地の野池(写真手前)とウバメガシの森を借景とした立地。/提供:荻野景観設計

1階配置平面図。/提供:荻野景観設計

断面詳細図(上)。地際の部分断面詳細図(下)。/提供:荻野景観設計

室内の中庭回り。高木(奥からサザンカ、常緑ヤマボウシ、ジャカランダ)はトップライトに向かって伸びながら階段を通る人へ枝葉を差し伸べるように配置し、低木(奥からナンテン、セイヨウシャクナゲ、ハクサンボク、マルバシャリンバイ、フィカス・ベンガレンシス)とグランドカバー(奥からセイヨウイワナンテン、モンステラ、ムサシアブミ、ベニシダ、トキワホウチャクソウ)は歩行部分を確保しながら、生花のように背丈・葉の大小のものを組み合わせることで豊かな緑の地表面を構成する。/撮影:新建築社写真部

東側外壁とベンチの近景。壁面上部にはフジ、ブドウが、下部はナツヅタ、オオイタビ、フィカス・プミラが這っている。/撮影:新建築社写真部

敷地西側の遊歩道の先にテラスを見る。右手の西側外壁際には植栽を施し、白石島石で土留めしている。左手は野池。/撮影:新建築社写真部

昨年冬に開花した中庭のサザンカ。/提供:荻野景観設計

波板スレートのフックボルトにテグスによってフジの枝を這わせている。/提供:荻野景観設計

「green cave」植栽リスト。そのほか敷地全体では約300種類の植栽を植えている。/提供:荻野景観設計

fig. 12

fig. 1 (拡大)

fig. 2