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2022.04.25
Essay

自立分散型の生産システムをつくる

VUILDの活動

秋吉浩気(VUILD)

*本記事は『新建築』2018年10月号に掲載されたものです。

越境者たる建築起業家

これまでの世界は、「餅は餅屋」と明確に職域が分断されてきた。ところが、先端技術へのアクセシビリティが高まったことにより、その区分にゆらぎが生じつつある。たとえば、UberやAirbnbは末端の顧客と末端のプレイヤーを直接結ぶことで、中間管理業者を飛び越えて、誰もが配送収入や不動産収入を得ることのできる仕組みをつくった。また、分散型台帳や暗号通貨は、大衆による公正で透明な市場の創出と、誰もが貨幣を発行することを可能にしつつある。
このように、近代化の産物たる企業や銀行といった大きなシステムが小さなシステムへと分散していくというのが、世界の潮流である。これは、大学に1台スーパーコンピュータがあった時代から、掌のスマートフォンという圧倒的な演算能力を個人が手にすることができるようになった変化と同質のものである。
このような時代において、ばらばらな個の「繋ぎ方」をデザインすることで新たな価値を見出すのが起業家の職能である。停滞したバリューチェーンの上流から下流まで、徹底的に分解し再構築する起業家的構想力は、今まさに時代が要請する能力と言えるだろう。一方で、ばらばらな個の「まとめ方」に形を与えることも同時に不可欠であり、それこそが建築的構想力のなせる技である。
分散化する諸事象の新しい「繋ぎ方とまとめ方」をデザインすること、建築家(アーキテクト)としてプロトタイプ(一般解になり得る特殊解)を提示し起業家(メタアーキテクト)としてそれを敷衍する(システム化し普及させる)ことこそが、次の時代を拓く者の立ち振る舞いであると私たちは信じている。

林業の不平等性

林業の世界には川上・川中・川下という区分がある。素材生産者である川上、加工流通を担当する川中、そして建設業の川下という線引きであるが、肝心なエンドユーザーであるわれわれはこの分類にすら登場しない。産業構造が肥大化しすぎて、肝心な顧客との接点を見失ってしまっているだろう。起業家として中山間地域に赴くことが多いのだが、素材生産者は口をそろえて「林業は儲からない」と言う。なぜ儲からないのかという背景には、この川上・川中・川下の構図によるところが大きい。
時代の要請に合わせて木造建築を提供してきた川下は、顧客と最も接点がある。在来軸組工法に基づく、大量生産大量供給のための産業システムを成立させることで戦後の住宅供給に応えてきたのだ。この過程で、川下が売りたい材寸に合わせて、川中が加工し、川上から規格に合うものを買いたたくという、今の林業の構図が完成したのである。
平成28(2016)年の利益配分の内訳を見てみると、105mm角スギ材の立米単価6万5,100円に対し、山元立木価格は立米単価2,804円と、全体の利益に対し約4%しか川上の取り分がないことが分かる(参照:『平成28年度 森林・林業白書』、林野庁)。規格流通材は、大量に生産することで単価を下げることに成功しているので、設計者は好んで用いるのであるが、使えば使うほど山元の利益を食いつぶすことになる。このように規格流通材を活用したプロジェクトの背景には、ハウスメーカーが構築した中央集約型生産システムがあることを設計者は自覚すべきだろう。
山に利益が落ちなければ、次の50〜100年のための植林もままならない。しかし、人間は森と共に生きているということを忘れてはならない。たとえばひとりの人間が呼吸することで排出するCO2は年間約15本の木が吸収してくれており、ひとりの人間が文明生活を営むことで排出するCO2の吸収には年間約376本の木が必要なのだという(参照:『森と生きる』、稲本正著、角川書店、2005年)。このような健全な生態系を構築するためには、この川上・川中・川下という林業における不平等なバリューチェーンに対し、風穴を穿つ必要がある。

中間技術としてのデジタルファブリケーション

経済学者のエルンスト・フリードリヒ・シューマッハーは「中間技術(適正技術)」という概念を提唱した。中間技術とは、「安くてほとんどだれでも手に入れられ、小さな規模で応用でき、人間の創造力を発揮させるような」技術である。このような技術が真の自治を実現し、暴力や戦争のない永続的な社会が構築されると彼は考えていた。
現代の林業の頭打ちの状況においては、デジタルファブリケーションがその中間技術であると筆者は考える。導入コストが5,000万円から1億円程度する大型プレカット加工機に対し、500万円程度で導入可能な3軸CNC(コンピュータ数値制御)切削機「Shopbot」Shopbotの生産能力:たとえば直径6.35mmの刃物を用い24mm厚の合板を削る場合、線の概形を6mm毎の深さで4周なぞることで加工が行われる。切削速度は秒速約80mmを基本とし、36枚の板に部材を敷き詰めた一般的な平均加工時間は1枚あたり20分である。直径12.7mmの刃物を用いれば、一周あたり12mm厚を削れ、半分の10分以下で加工が終わる。が登場している。この投資規模であれば中山間地域の林業体は導入しやすく、自分たちの素材を自分たちの力で製品に変え、顧客に直販できる能力を獲得することができるのだ。これこそが、大きな林業システムから、小さな林業システムへ分散化するためのフックとなる。
在来軸組の接合部加工に用いられるプレカット加工機は主に小口方向の加工を得意とし、3軸CNC切削機は面方向の加工を得意とする。したがってCNCは、角材よりは板材に強い技術であり、その意味で、CLTや非規格の番板の加工に強いのである。安価であることのトレードオフとして、長手方向の加工範囲が2.4m程度であることや、木材の上下で太鼓のように平面が出ている必要があることというデメリットがあるものの、板にして加工すれば、戦後の植林から50年から80年近くを経て育った大径木を活用することもできるだろう。整理すると、ツインバンドソーで正角に挽き、プレカット機で均質な部材を生産するのが大きな林業(既存のプレファブ産業)であるのに対し、シングルバンドソーで板に挽き、Shopbotでバラバラの部材を出力するのが小さな林業(これからのポストファブ産業)である。fig.1fig.2
私たちVUILDは、地域材に付加価値をつけてエンドユーザーに直接プロダクトを提供できるよう、川上の素材生産者にShopbotの販売導入を行っている。他方、導入後に具体的な設計を行うための教育から、地域で転用可能なデザインフォーマットの開発まで、幅広いデザイン領域に対峙している。
以下に、筆者らの取り組む具体的事例を見ていこう。

川上から川下までを統合する

民家に見られるように、伝統構法では大梁や根曲がり材が活用されていたが、規格材一辺倒の市場では、大径木は細切れにされ価値を損ね、非規格材は商品にならない。前述した通り、市場のニーズに合わせて材料が選択されるという「川下から川上へ向かうベクトル」が支配的であるのだが、逆に山側で使ってほしい材に合わせて川下で価値付けするという「川上から川下へ向かうベクトル」を構築できないだろうか。また、立米単価とは「量の経済指標」であり、どれだけ丁寧に良質な木材を育てたかという「質の経済指標」は考慮されない。であるならば、大トロや中トロといったように、部位ごとに評価し販売する仕組みがつくれないだろうか。
このような仮説の下に、まずは1本の立木と向き合ってみることにした。なんの変哲もない一般的なスギの木から、素材生産者の手でベンチをつくるという実験である。伐倒した後、2m間隔で玉切りし、山に持ち込んだ簡易製材機で36mmに挽いていく。乾燥した後はプレーナーで30mm厚に整え、スキャナで1枚ごと木目を取り込むことで、データベースを構築していく。あらかじめ設計しておいた天板と足の雛形を、データベースの木目に合わせて変形し「木なり」に加工していく。この手法においては、木が曲がってようが真っ直ぐだろうがデータ上等価になる。
結果、1本の木から5つのベンチをつくることができたfig.3fig.4fig.5。それぞれに個性があり愛嬌があるのだが、この世に1点という付加価値をアピールすることで、市場調査で1台約3万円の評価額を得ることができた。きちんと枝打ちされ、まっすぐに育ったスギ1本の単価を約1,500円とすると、実に100倍のバリューを出せたことになる。つまり、中間技術としてのデジタルファブリケーションを活用することで、ひとりの自伐林家の中で川上から川下まで垂直統合することも可能なのである。

半径10km圏内で建築をつくる──まれびとの家

このように、川上へ川中・川下の能力を付与することによって生まれる副産物として、輸送時のCO2排出量(マテリアルマイル)が限りなくゼロになることが挙げられる。大きな林業が地域材を工場に輸送し工場で大量生産を行うのに対し、小さな林業はデータを輸送し現地で適量生産を行う。長い年月をかけて貯蓄した炭素を、輸送の過程で放出してしまっては元も子もない。そこで私たちは、山主・製材所・Shopbot所有者・建設業者といった地域のプレイヤーをネットワークすることにより、半径10km圏内でモノづくりが完結する仕組みを地域ごとに構築している。1時間あれば車で行き来できるという、この小さな経済圏では、小物や家具に留まらず、建築物を出力することも可能である。
富山県南砺市五箇山で建設中の「まれびとの家fig.6fig.7fig.8は、Shopbotと地域材を活用してつくることのできる建築雛型である。今後、住まいは「所有から利用へ」と転換していくという見立ての下、月額利用できる短期滞在型のシェア別荘として企画された。敷地のある五箇山に現存する「合掌造り」と町家構法の「枠の内」から着想した構法であるが、すべて30mm厚の家具用材で構成されているfig.9。現状、森は育っているのにバイオマスしか使われていない五箇山において、shopbotにて製材し板に挽くことで建材としての利活用を図っている。長さは3m以下、幅は240~480mmと大径木の活用も視野に入れている。製材機能を有す地元の総合建設業者である長田組に3m材まで加工できるShopbotが導入され、製材所の真横で部材加工を行うことが可能になった。3mの合掌板を上下に配置し、1.5mのタイビームと3mの大引きで挟むことで繋ぎA型のフレームをつくるfig.10。その後、1mの貫板をフレーム間に篏合させ、2mの枠板で千鳥に打ち付けることで剛性を高めていく構法であるfig.11
ここで問題となるのが、ものを輸送しないものづくりにおいていかに収益を上げるか、である。材を材として売らず、地域内で製品にして出荷するのが「小さな林業」における基本的なスタンスであるが、建築の場合は輸送に膨大なエネルギーを要する。縮小していく新築市場と木造建築に必須のメンテナンス性を考えると、売り切りというビジネスモデルだけでは将来性に乏しい。そこで、遊休木材と遊休敷地を建築化し現物出資する(それぞれの労力や資源といったリソースを出し合う)ことで原資とし、月額課金(サブスクリプションモデル)による不動産収入で投資回収していく方法を提示した。
ここで私たちが提示しているのは、ものを動かさず人を動かす術であり、都市の流動人口を受け入れることのできる住処を地方につくることである。今後、テクノロジーの進化により、どこにいても仕事ができ暮らせる時代が来れば、都市と地方という二項対立も再構築される。都心一極集中という人口動態も分散化に向かうことを想定した方法である。
ここにおいて、単純に建築や林業という産業単体ではなく、人を呼び込むためにあらゆる産業を動員した「地域の総力戦」になるだろう。挑戦は始まったばかりだが、中央都市に支配されずに地域が自立して生きるための可能性を提示できればと思っている。

分散した小さな林業の連環で大きな林業を超える

筆者らは、これまでに全国28カ所の自治体・製材所・工務店にShopbotを導入してきたfig.12。インターネット黎明期には、モデムを全国に無料配布し、ブロードバンドサービスを享受できる受信基盤を一気に整備することで、急速に世の中が変化した。私たちVUILDは2018年2月に1億円の資金調達を実施したが孫泰蔵氏が率いるMistletoeおよび不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営するLIFULLを引受先とした第三者割当を実施し、2018年1月26日付けで1億円を調達した。
、その資金を元手に目下開発しているのは、これら28台の受信基盤を繋ぐ「建築のインターネット」である。都市に住まう顧客と、地方の生産者を直接繋げるためのプラットフォームであり、地域拠点に収益を流入させる役割を担う。2018年11月末にリリース予定のサービスを活用すれば、顧客はWEBブラウザ上で自由に家具や建築を設計し、好きな産地、好きな材料、好きな製作者を選択し、自分好みの製品を出力することができる。
導入台数28台と述べたが、2013年時点で1台、2014年2台、2015年4台、2016年8台、2017年16台と順調に増えてきている。この流れを受けて「指数関数的増大の法則」に順当に乗せられれば、2023年には1,000台を超え、林野率50%以上の中間農業地域1,022市町村すべてに行き渡ることになるかもしれない。実績に基づく1拠点の売上を月間500万円とすると市場規模は600億円に上り、単純に予測すると2030年には計13万台、約7兆円になる。ポストオリンピックに斜陽産業となる大きな林業を横目に、小さな林業は指数関数的な成長を遂げるだろう。
また、単に末端の消費者と末端の生産者を繋ぐだけでなく、末端の生産者同士が連携し合えるのも、分散化の力のなせる業である。同じ加工データを共有することで、並行生産が可能になる。ひとつの拠点で10日かかる仕事量も、10カ所の拠点で分散処理すれば1日で加工が終わる。つまり、これまで大きな林業がつくり上げてきた大型建築も、小さな林業が協調することで代替できる可能性もあるのだfig.13
われわれが理想とする林業のあり方は以下の通りである。A材(無節・上小)は簡易製材機で板に挽き、B材(小節)は簡易圧着機を用い地域内でCLTとした上で、それぞれCNC切削を行い製品化する。残りのC材とD材は、バイオマス燃料として、地域で活用する。ここで「簡易製材機、簡易乾燥機、簡易圧着機」という次の適正技術が登場するが、これら三種の神器とShopbotを合わせて、2019年から履行される森林環境贈与税(ベーシックインカム)を活用すれば、導入費用と維持管理費を賄うことができるだろう。これらの設備をベーシックアセット化(共有私財化)し民間に開放することで。分散化の流れに合流してほしい。

(初出:『新建築』1810 特集記事:木造技術の展開)

秋吉浩気

1988年大阪府生まれ/芝浦工業大学工学部建築学科卒業/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域デジタルファブリケーション専攻/2013年ShopBot Tool社よりShopBot Guru­達人の認定を受け、国内唯一のエバンジェリストとしてShopBot Tools 社のCNCルーターの導入支援、サポート、ユーザーコミュニティの育成を行う/2017年VUILD創業。「ShopBot」「EMARF」「ビルドデザイン」事業を展開、「建築の民主化」を目指す/2019年~芝浦工業大学非常勤講師/2018年「まれびとの家」(『新建築住宅特集』1910)でSDレビュー入選/2018年ウッドデザイン賞で林野庁長官賞受賞/2019年SDレビュー、Under 35 Architects exhibition 2019入選

秋吉浩気
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大きな林業と小さな林業に川上・川中・川下のシステムの差。/提供:秋吉浩気

大きな林業と小さな林業の特徴の比較。/提供:秋吉浩気

根曲り材のせい材と木取りの風景。/提供:秋吉浩気

Shopbotで切削している様子。/提供:秋吉浩気

非規格材を活用したベンチ。/提供:秋吉浩気

「まれびとの家」俯瞰イメージ。/提供:秋吉浩気

西から見たイメージ。/提供:秋吉浩気

「まれびとの家」模型写真。/提供:秋吉浩気

部分詳細図。/提供:秋吉浩気

部材説明図。/提供:秋吉浩気

断面詳細図。/提供:秋吉浩気

大きなスケールでみるシステム。/提供:秋吉浩気

小さな林業の自律分散型システム。/提供:秋吉浩気

fig. 13

fig. 1 (拡大)

fig. 2