2021.12.28
Essay

人びとのための場所

都市と建築とランドスケープが溶け合う先の社会像

藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所)

『新建築』2021年1月号建築論壇に掲載された記事を新建築.ONLINEでも公開いたします。(編集部)

都市と建築とランドスケープが融合した何かを模索する

3年前からハーバードGSDのTokyoStudioとして、藤本スタジオを持っている。10人前後のさまざまな国籍の学生たちが3カ月間日本に滞在してスタジオ課題を行うのだ。その最初の年に「都市と建築、ランドスケープが溶け合う何か」を皆で考えよう、という課題を出した。その時意図したのは、学生のスタジオ課題という場を借りて、現実社会ではまだ実現が難しいかもしれないが、建築のこれからの可能性を切り開くような思考を皆で進めてみたい、という思いがあった。建築設計をしていると、どうしても自分が敷地に縛られて、その外側の道や広場や公園なども含めた総体を制度として取り込むことの難しさにフラストラーションがあったのかもしれない。また僕自身、人間が行き交い過ごす場所としての道空間というものにとても魅力を感じていて、それが今のところ、建築家の仕事の外側に位置付けられていることが、もったいないと思っていたということもあった。
自分たちのプロジェクトで言うと、2011年にコンペで1等を取ったセルビア、ベオグラードの「ベトンハラ・ウォーターフロント・センター」fig.2が、規模的にも、立地としても、プログラムとしても、都市的でランドスケープ的であり、同時に建築的なものになっており、そのような興味が徐々に明確になっていたのだろう。 課題の敷地は、当時の僕の事務所にほど近い神楽坂のエリアを選定した。道のアイデンティティがしっかりしていて、そのスケール感も、都市でありながら建築に近いものを感じる場所である。また中央の神楽坂通りと裏道の曲がりくねった路地の関係も面白く、歴史背景も含めて、学生が思考するための手掛かりが豊富にある。さらにその地形が坂道であるだけではない複雑な起伏を持っていて、ランドスケープという視点からもさまざまな思考を誘発しそうであった。もちろんここでは、ランドスケープ=地形・起伏、という風には限定しなかった。そして樹木という直接的な緑だけでもなく、建築とも都市とも違う、しかし人間の生活環境にまつわるすべてのもの、というくらいの緩やかな定義から始めていった。課題の成果としては、正直に言うとあまり深くは掘り下げられなかったと思う。しかしそれでも、建築という枠組みから視野を広げて、人びとのための場所という総体を捉えたいという意識が明確になったことは確かである。 同じ頃、パリに事務所を開いたこともあって、フランスで都市計画的なプロジェクトに呼ばれることが少しずつ増えてきた。もちろん僕には都市計画の経験はなかったが、それでも少しずつ学びながら続けていると、その魅力に気が付き始める。中国や中東でも、フランスとは規模も意味合いも異なるが、やはり都市のマスタープランを求められることが増えてきた。そうして都市の側から見ていくと、そこには、建築の側から都市に広がっていけない不自由さを反転したかのような、都市の側から個別の建築に繋がっていけない不満のようなものがあることが分かってきた。すごく大雑把に言うと、ゾーニングと道と街区と公園をつくっていくという都市計画と、その街区の中にある建築たちが、両方を同時に計画しながら、でもそれぞれが分断されてしまう、という不満である。それはもったいないことだと思いながらも、既存の制度と僕たちが持っている建築や都市計画の言語の中では、なかなかその両者の間を本質的に関係付けることが難しいと実感したのだった。

ところがここ最近、そのような街と建築とランドスケープの分断を超えて、豊かな関係を構築することができるような、希望の兆しのような現実のプロジェクトがいくつか起こってきた。実際の社会の中で、都市と建築とランドスケープの境界が溶け始め、融合した新しい場を求める動きが起こっているのだ。

UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店

たとえば2020年の春に横浜にオープンした「UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店」(『新建築』2007)fig.3の場合、建物は通常通り敷地の中に建つ独立した建築だが、そのパブリックに開放された段々状の階段広場=遊び場が地上レベルに着地する部分は歩行者専用の道空間なので、道空間と階段広場が完全に連続している。さらに3階建ての店舗の各階エントランスが階段広場にそれぞれ面しているので、正面の道から階段広場を登ってそのまま3階のキッズコーナーにアクセスできたりもする。こうなると、坂を登って坂の上のお店に行くことになるわけで、この階段全体は広がりを持った道空間でもあり、同時に広場でもあり、同時に道のネットワークが遊具でもあり、その傾斜ゆえにランドスケープ的な意味合いもあり、その総体が建築として立ち上がっているのである。ユニクロの柳井正さんによる「今までにない店舗を考えてください」という要望から始まったこのプロジェクトは、結果としてパブリックとプライベート、店舗と道、地形と遊具と都市と建築の垣根を超えた新しい人びとのための場をつくり出すことになった。

白井屋ホテル

先日竣工した群馬県前橋市の白井屋ホテル(『新建築』2101)では、たまたま既存の建物が、正面の国道と背後の馬場川通りという小川の流れるヒューマンスケールの道の両方に接道していて、既存建物の1階部分にはピロティ状に両者を繋ぐ道が内包されていた。以前の建物ではこのピロティはエントランスへ至る通路と背後の裏方の搬入駐車場が機能的に結ばれていただけだったが、最初に敷地を見た時から、このプロジェクトは道を内包した、つまり建物と道を一体的に考えることが可能だし、その方が豊かであることが理解できた。さらにプロジェクトが進むにつれて、施主がこのホテルだけでなく前橋の街全体の活性化に積極的に関わるようになると、個別の建築やリノベーションとしてのデザインだけではなく、街の中でのこの場所の都市的な意味を皆で考えるようになった。最終的にでき上がった建物では、既存棟の4層吹き抜けの開かれたラウンジ空間と、馬場川通りに面した土手のような緑の丘状の建物が敷地内の道によって繋がれた内外新旧の反転した「都市ー建築空間」となっている。既存棟では吹き抜けは内部化された都市広場であり、背後の土手においては道が面的に拡張されて街路空間を囲い込むことで、逆に都市の中に囲まれた街の部屋のような空間をつくり出している。そしてそのどちらもが建築的・立体的な回遊性をつくり出し、それが都市の街路のあり方を拡張している。都市と建築とランドスケープが幾重にも入り交じりながら複雑な総体を形づくっている。

Torch Tower

先日概要が発表された東京駅隣接の「TOKYO TORCH」プロジェクトの中でも、日本一の高さとなる超高層ビル「Torch Tower」fig.4の頂部デザインは、約300mという高さに都市的な場所を拡張するという新しい試みである。このプロジェクトでは、僕たちは次世代アーキテクトチームの一員として、三菱地所設計らと協働し、Torch Towerの頂部デザインを担当している。
ここで提案しているのは「人びとのための場所」としての超高層の新しいタイポロジーである。従来の超高層が、多かれ少なかれ巨大なオブジェクトであり、内部のプログラムが多様になった現代においても、やはり閉じた箱としてその形状を競ってきたのに対して、これからは、拡張された都市─建築空間として、人びとが集い出会う新しい空中広場を建築的につくり出す試みだ。300m上空の超高層上部に大きな水平スリット状の半屋外空間をつくり出す。ホテルや展望エリア、オフィスのロビーなどのプログラムが複数階にわたって集積する場所であり、それらを繋ぐように、巨大な丘状の半屋外の広場が広がっている。この超高層のフットプリントはほぼ100×100mという、ある意味では都市スケールの大きさであり、それらが基準階ではオフィス空間やコアとしていわば不可視の状態なのに対して、この丘のスリットの存在によって、突如広大な都市広場的なスケールが上空300mに出現するのだ。丘状の傾斜は眺望の確保だけではなく、さまざまなレベルのプログラムを繋ぎ合わせ、また人の身体スケールや所作とも連動する居場所の創出を促す。そして何より直下の東京駅前から見上げた時に、この空中広場が、たしかに地上の都市空間の拡張として、都市と連続して体感されることを意図している。地上から見上げて、あそこに行ってみたい、と思えるような視覚と体感による都市空間の連続性をつくり出す。 ここでは、地上の道との連続性がなくてもなお、都市的なるものをつくり出せることが示唆されている。それは建築の一部でありながらそれを超えた巨大な都市の開かれた丘であり、空中につくられた坂道であると同時に、家具的な場所の広がりでもあるのだ。

東神楽町役場複合施設

都市と建築とランドスケープと言った時に、それはいわゆる市街地のみに適用できる考え方ではなく、たとえば美しい田舎の景観の中でも有効である。僕の故郷である北海道上川郡東神楽町で進めている役場複合施設(2024年竣工予定)fig.5fig.6は、美しい田園の中の住宅地に囲まれている。170×150mほどの敷地なので、周囲の住宅地に住む人びとは、いろいろな方角からこの施設にやってくることが想定された。必然的に、1カ所に正面をつくるとその他の方角からはぐるっと回ってこなければならず、それは冬の寒さも厳しい北海道では難しいだろうと考えた。結果として、森に囲まれた施設にどの方角からやって来たとしても、回廊に設けられた複数のエントランスのどこからでもアクセスできる計画となった。これはエントランスの話を超えて、複合文化施設全体をさまざまに通り抜け、また滞在できる道空間として再定義することなのである。さらにその道は、外観である森の中を抜けていく道である。街の道と森の道と点在する建築的プログラムが重なり合って連動する。ここでは高密な都市部とはまた別の仕方で、都市的なものとランドスケープ、そして建築が溶け合った新しい場がつくられているのだ。

人びとの多様性を受け止める場

これらのプロジェクトは、そのほんの一例に過ぎないと思うが、今、社会の中で、来たるべき未来における新しい「人びとのための場所」を広い視野で模索する動きが生まれていると言えるのではないだろうか。今までのように道をつくって街区を囲い、建物は建物で建て、道は道で整備する、その間に植栽などのランドスケープを入れていくという方法だと、何かを掬い取れていないという感覚が、事業者や人びとの間に意識され始めているに違いない。それはよい意味での社会の多様化と関連しているのだろう。多様な人びとが多様に関係し合う現代という時代に、かつての建築や道、公園や広場という個別の枠組みは、もはやそれらの多様性を受け止めきれずにいる。その閉塞感や堅苦しさに人びとが気が付き始めている。今まで通りの建築や都市をつくっていては、もはやこれからの人びとの活動にはそぐわない、窮屈なものになってしまうのではないか、という大きな危機感の現れでもあるのだ。その多様性を受け止めることができるものとして、都市と建築、建築とランドスケープの間に新たに発見されるべき、今までは名前すらなかった無数の新しい場に期待が寄せられているに違いない。それは素晴らしい兆候である。社会の中での建築の位置付けが、大きく動き出す予感がする。

それは建築関係者にとっても大きな機会である一方、それ以上に大きな責任でもある。新たに開拓することができる領域が、目の前に開けつつあるのである。さまざまなことが試みられるだろうが、そこには本質的な誠実さが求められる。今までにも、建築を街に開いたり、街の活動が建築の中に入ってきたり、庭と建築が連動したり、という試みが重ねられてきた。それらは誠実に、この新しい動きの助走となっているはずだ。
一方で、道のような建築、広場のような建築、街のような建築、(そして自省を込めて)森のような建築というふうに、メタファーとして都市やランドスケープを建築に取り入れながらも、本質的には建築の枠内にとどまって、一風変わった「作品」や少し珍しい場所をつくることで終わってしまっている建築もある。それは一見越境を志しているように見えて、実際には建築の旧来の枠の中にとどまって「作品」を面白くつくるということに終始しているだけなのかもしれない。それを続けていては、建築家は社会の真の信頼を失ってしまうだろう。 今、社会で起こっている本質的な変化とは、そういう建築家的な建築の枠内の変化ではなく、建築と都市の両方を扱うことができる時に、あるいはランドスケープも含めた総体として扱うことができるとした時に、その今まで触れられなかった、踏み入ることができなかったこの領域に、どんな新しい「人びとのための場所」を見出せるのか、という問いなのである。

ところで、都市や街というと、ある程度以上の大きさを持ったプロジェクトにしか関係しない話だと受け止められるかもしれない。しかしここでいう街と建築とランドスケープの間というのは、何も都市計画的なスケールや、大きな建物だけに限った話ではない。それこそ、住宅においてさえ、それは可能なのである。
たとえば2020年の吉岡賞を受賞した山田紗子さん設計の住宅「daita2019」(『新建築住宅特集』1908)fig.7は、それ自体は敷地の中に建つ戸建て住宅だが、その本質は、都市の中のオープンスペースでもあり、ランドスケープの中の住処でもあり、街と建築とランドスケープの混ざり合う領域に人間の住む場所を真摯に再構築している事例だろう。 またツバメアーキテクツによる下北沢のBONUS TRACK(『新建築』2005)fig.8も、街と建築とランドスケープが融合した新しい都市環境をつくる試みの萌芽と見ることができる。残念ながら最終的にでき上がったものは、どちらかというと旧来の「道と建物」というタイポロジーを援用したことで、その両者の間に現れ得たかもしれない新しい場の創造までには至らなかったかもしれない。しかしこのような事例を少しずつ重ねることで、建築家も事業者側も、また利用する人びとの間にも、少しずつ新しい都市─建築─ランドスケープのあり方が浸透してくるのではないか、という期待が持てるプロジェクトだった。 一方で、都市と建築とランドスケープが融合するとした時に、建築が都市的な巨大さという暴力性を持ち始めてしまう懸念もあるだろう。実際に、近年つくられた都市施設のいくつかには、そのような残念な事例があることも確かである。それはおそらく、建築と都市とランドスケープを一体的に捉えた先を見据える中での、過渡期ならではの悲劇なのではないだろうか。都市と建築とランドスケープを横断して統合的に思考する言葉が成熟していないまま、一方で社会そのものは、その予感としての「都市ー建築ーランドスケープ」の統合体を求め始めている。そのズレが解消しないまま、建築に都市的な暴力性が重なって、ランドスケープも唐突に載せられただけ、というようなものが建ち上がってしまった。 ここから僕たちが学ぶべき教訓は、それは常に「人びとのための場所」であるべきだ、ということだろう。都市と建築とランドスケープの間に現れたこの新しい領域は、先ほども述べたように、社会の中での人びとの多様な活動を受け止めるための新しい場の要請から生まれてきている。つまり多様な人びとのためにこそ、それは生まれてきているのだ。都市、と聞くとそれはなにか巨大なものを想像してしまうが、巨大さとは異なる都市の持つ力、複雑さなのか、寛容さなのか(そこはいろいろと展開しそうだが)、その都市ならではの魅力を、建築やランドスケープとの関係の中で発酵させて、人間の場所として新たに再発明することこそが今求められているのである。建築を都市の巨大さに拡張して暴力装置を生み出すこととは正反対の方向性なのだ。 それは翻って、建築スケールであればそれでよい、無批判に人びとのための場所なのだ、ということではない。そうではなくて、今までの都市・建築・ランドスケープの前提を問い直し、そのどれでもありながらどれでもないような、新しい「人間のための開かれた場所」をつくり出すことが、われわれ建築家の責任なのである。

白井屋ホテルで経験したことは、建築─都市─ランドスケープの垣根を超えてつくられた開かれた場所というものは、単に物理的に開いているということだけではなく、その横断性ゆえに、さまざまな人びとを巻き込んでつくられる総体のようなものの現れとなり得ることだった。誰がどこをデザインした、ということが意味をなさなくなるくらいに多様なものが溶け合い、無数の個が響き合いながら、緩やかにひとつの統合体となっている。それゆえに、竣工後においても、さまざまな人びとの関わりに開いていくだろう。それは本質的な意味でのコラボレーション、CO-CREATIONと言えるのではないだろうか。先に挙げたTorch Towerにおいても建築家と組織設計事務所が有機的に協働している。その先にデザイナーやアート、食、そしてその地域の特色なども大きく含み込んでいくことができる開かれた場の創出が期待できる。

この都市と建築とランドスケープの間に広がる領域は、それがまさに「間」であるという意味において、とてもアジア的な捉え方なのではないかと思う。都市は都市、建築は建築、ランドスケープはランドスケープ、と明確に区切るのではなく、そのどちらでもあるような曖昧な領域にこそ多様な場を見出すことができる、というのは、内部と外部の間に豊かな「間」の領域を見出し、物理的なもの以上にさまざまな概念においても、磯崎新さんが数十年も昔に示したように「間」の多様さを見出した伝統に繋がっている。
これからの時代が、多様化の時代になることは間違いないだろう。近い将来、それら多様な人びとの多様な関係を受け止める場所が新しい社会像として、グローバルに求められるに違いない。都市と建築とランドスケープの溶け合う場所というのは、この先の世界へと向けた大きな提案になるのではないかと期待している。

(初出:『新建築』2101 建築論壇)

藤本壮介

1971年北海道生まれ/1994年東京大学工学部建築学科卒業/2000年藤本壮介建築設計事務所設立

新建築
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ベトンハラ・ウォーターフロント・センター。城壁と隣り合い、公園や川に囲まれた敷地に渦巻き状の空中ブリッジを置き、中央は広場や展示スペースとなる。フェリーターミナル、トラムなどの都市交通のハブにもなる。/提供:藤本壮介建築設計事務所

UNIQLO PARK 横浜ベイサイド店(『新建築』2007)/撮影:新建築社写真部

東京駅近くの常盤橋に計画されている「TOKYO TORCH」プロジェクトの敷地に建つ「Torch Tower」。頂部のスリット部分が半屋外の空中広場。/提供:三菱地所設計

東神楽町役場複合施設。既存の役場庁舎と図書館、新設する文化ホールと診療所はそれぞれが幅3mの回廊でリング状に繋がる。周囲を樹木のリングが囲う。/提供:藤本壮介建築設計事務所

東神楽町役場複合施設。敷地のアクセスを示すスケッチ。/提供:藤本壮介建築設計事務所

「daita2019」設計:山田紗子建築設計事務所(『新建築住宅特集』1908)/撮影:新建築社写真部

「BONUS TRACK」設計:ツバメアーキテクツ(『新建築』2005)/撮影:新建築社写真部

fig. 8

fig. 1 (拡大)

fig. 2