新規登録

この記事は下書きです。アクセスするログインしてください。

2020.11.01
Essay

第14回:スイス連邦工科大学のComputer Aided Architectural Design(1/4)

海外の建築教育

石津優子/ジオメトリエンジニアリングラボ代表

2010年代初めのETHz CAAD

建築学の歴史は長く、時代の技術進歩に応じて新たな分野が加わり、分野分岐を繰り返している。筆者が2012年に留学したスイス連邦工科大学(ETHz)のLudger Hovestadt教授の研究室MAS CAAD(Master of Advanced Studies Computer Aided Architectural Design)は、コンピュータベースの建築設計とその自動化された生産に焦点を当てた、1年半のポストグラディエイトという大学院プログラムだ。スクリプトやプログラミング言語を取り入れた設計のための新しい技術や方法を探求すると同時に、材料や生産技術といったCAD/CAM技術を習得する。その教育は、1:1スケールの生産モデルまでの一貫したデジタルの考え方を重視している。新しい分野の活動を取り入れることで建築家としての能力を補強し、建築全体の定義を拡大することを掲げた当時は珍しいプログラムだった。その特徴は、設計課題を通してデザインを学ぶというスタイルではない、モデュール型というゼミスタイルの教育にあった。現在、MASはHovestadt教授の元では開講されておらず、MAS DFAB(Master of Advanced Studies ETH in Architecture and Digital Fabrication)というプログラムが人気である。本連載では、私が8年前に経験した体験を振り返る。

「MAS CAAD」コースを知ったのは、神戸大学の修士課程で1年間ワシントン大学に交換留学した時だった。修士過程修了後に就業を経た者が再度新しく知識を得るためや、博士過程に進むための準備期間として進学することを目的とするMASのプログラムを知り、修了後、プログラムを使ったデザインを専門に進学したいと考えた。ワシントン大学では、デジタルファブリケーションとコンピュテーショナルデザインという分野を初めて知ったが、1年間で習得するにはあまりに短い時間だった。設計課題のスタジオやサスティナブルデザイン、ライティングデザインのコースも取りながらだったので、プログラミングが建築に役立つだろう、将来そういう専門が広まるだろうというぼんやりとした確信はあった。そこで、就職をするという選択ではなく、プログラミングを使った建築の仕事の可能性を見たいと、受験を決意した。fig.1

ETHzを選んだのは、スイス政府から奨学金を受けたという理由も正直大きいが、留学中に聴講したMatthias Kohlerのレクチャーが印象的で進学を決めた。ロボットアームやドローンでつくり出されるパラメトリックデザインを使ったプロトタイプは、当時の私にとっては衝撃的だった。ロボットが何かをつくる場合、プログラム的には配置していくため位置、回転が各部材で違っていても、同じでも、数値を伝えるというプロセスは同じであり複雑性という意味では等価として扱えるということに、デザインのパラダイムシフトを見たと感じた。fig.2

CAADのコースは、哲学、プログラミング、ファブリケーションの大きく3つの要素で構成されている。8つのモデュールを、各モデュールを1か月半の期間でこなすカリキュラムで、哲学、プログラミング、哲学、 デジタルファブリケーション、プログラミング、哲学、ファブリケーション、最後に修士作品という順にモデュールが組まれている。fig.3実際には、修士作品に3か月以上かけることが一般的だったため、1年半くらいコースに所属している人が多かった。定員は15人以下と少数で、年齢もバックグラウンドも多岐にわたるのが特徴で、私の代はスイス人はいなかった。奨学生には専用の寮が用意されており、そこでベトナム、セルビア、ケニア、ブラジル出身のルームメートとの共同生活を過ごした。
次回は、CAADでのプログラミング授業について紹介する。

石津優子

神戸大学工学部建築学科建築意匠・環境デザイン専攻卒業/同大学大学院進学中にワシントン大学へ交換留学を経て修了/スイス政府奨学生としてETHz ITA MAS CAAD修了/フリーランスとして建築系コンピュテーショナルデザインの経験を積んだ後インハウスのリサーチャー兼エンジニアとして大手建設会社、不動産テックにてデザイン支援ツール作成やBIMデータを活用した業務支援ツール開発に携わる/2020年ジオメトリエンジニアリングラボ代表/著書に『Parametric Design with Grasshopper』(2018年、ビー・エヌ・エヌ新社)共著

石津優子
海外の建築教育
続きを読む

クラスルームの様子/撮影:筆者

「Gramazio Kohler:Flight Assembled Architecture」/MuDAより転載

「a day in the chair」ETHz CAADのある日の1日/MAS CAADより転載

fig. 3

fig. 1 (拡大)

fig. 2