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2023.12.04
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新たな建築家像を掘り起こすマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」

桂竜馬(青山芸術代表)×大野力(sinato)×佐々木慧(axonometric)

2021年に青山芸術がローンチした建築家同士のマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」。その背景には、設計事務所の経営的な負担の解消という課題があります。今回はその業界の構造的な課題と共に、それら課題のもとで「アーキタッグ」がどのような意義をもつのか、青山芸術の桂竜馬さん、建築家の大野力さん、佐々木慧さんにお話しいただきました。(編)

設計者/経営者としての建築家

──まず、桂さんから「アーキタッグ」の概要を、立ち上げられた背景、経緯と共に教えていただけますか。(編)

 「アーキタッグ」は、人手を欲している建築家や設計会社と、逆に案件を探している建築家や仕事を受けられる設計事務所をマッチングするプラットフォームです。われわれは「アーキタッグ」を立ち上げる前に、建築家と施主のマッチングサービス「タイテル」を始めていたのですが、そこで接する建築家の方から、人材の確保や経営の波に悩んでいるという話を数多く聞きました。そういう波や経営的な負担を減らし、建築家の方がより設計に集中できる環境づくりに貢献したいと思って始めたのが「アーキタッグ」ですfig.1

大野 僕は比較的大きなプロジェクトを手掛けることが多く、他の建築家との協働の機会も多いので、「アーキタッグ」のビジネスに興味を持ち、実際に使わせてもらっています。今は労働人口の減少もあり、どこの事務所も人材を必要としていますよね。一方で仕事を欲している人もたくさんいる。どこかミスマッチが起きている印象ですfig.2

佐々木 仕事はどうしても実績のある事務所に集中してしまいます。仕事量の波が激しいのは、どの事務所も抱えている悩みだと思いますfig.3

 サービスを始める以前、私はIT業界にいて、建築家さんの一ファンに過ぎませんでした。それがいざこの業界に入り、建築家の方の働き方を目にすると、設計から経営までをすべてひとりでこなす姿にとても驚きました。どんなビジネスマンを見ても、建築家ほど右脳も左脳も両方フルに使う職業はないと思います。それをこなす建築家の方には畏敬の念を感じます。一方で、そんな才能を持つ方がたが設計以外のタスクにリソースを割かざるを得ない状況をもったいないとも思いました。

大野 確かに建築家として生きるのは、とても難しいことです。膨大な責任を負い、デザインはもちろん、エンジニアリングや法律にも精通していないといけないし、コミュニケーションスキルも求められる。必要な能力がとても多いです。昔はスタッフにもそういうすべての能力を求めていましたが、仕事を重ねるうちに、これは誰にでも出来ることではないなと感じました。今は各自の得意なことと不得意なことを切り分けて考え、サポートし合いながら仕事をするのがよいかもしれないと考えています。

佐々木 なるほど。

大野 スタッフにすべてを求めすぎると、結局はこちらがしんどくなってきてしまいます(笑)。まずはすべて完璧にすることはできないということをベースに考え、できることからやってもらう。できないタスクがあっても、それはチーム内、または外部の力を借りてみんなで担えばいいと思います。

コントロールできない仕事の波

──実際のマッチングはどのように行われるのでしょうか。

 まず、忙しくて人手が足りない設計事務所さんや企業さんから、依頼したい業務内容や募集したい人材などの条件を伺います。そのうえで、約2,000社、10,000名の登録者の中から最適な設計パートナーをスタッフから提案させていただき、両者の希望がマッチすれば、業務委託契約を結んでいただき業務サポート開始という運びになりますfig.4

大野 「アーキタッグ」では、人材の募集と案件の受注のどちらも可能なんですか?

 そうですね。登録者のうち、7割の方が両方のサービス利用を希望されています。人材を探したいけど、希望に合う仕事が見つかればそちらを受注してもいいというスタンスで、適宜切り替えられる方が多いです。

大野 需要と供給のバランスは取れているんですか?

 需要と供給のバランスは時期によって変わります。組織設計やゼネコンの設計部からの依頼なども多く、昨年は人手が足りないという方が多かったのですが、今は逆に仕事が欲しいという、供給の方が多くなっています。それは常に行ったり来たりで、私たちもそのバランスの時期に応じて営業のモードを切り替えています。

大野 事務所の経営の波はどうしてもコントロールしきれない側面があります。特に若い事務所は、短い期間でプロジェクトを回していくことが多く、その波がより激しいです。sinatoも、昔は年間予算を立てようとしても1年後の見通しがなかなか立たない状況でした。ですが、JR新宿駅新南エリアのデザインfig.5を担当した辺りからは5、6年単位の大きなプロジェクトが増え、その状況も変わってきました。

 建築家の方からもやはり、資金繰りの不安をよく聞きます。収入は不定期で、設計料の入金時期が分からないこともある。ある事務所は収入を安定させるために、設計料を10分割にして入金してもらうようにしたと聞きます。

大野 いちばん良いのは、先に設計料を支払っていただくことですよね。そのためには、実績を重ねて事務所のブランド価値を高める必要がある。それはそれで大変なことです。

佐々木 経営の波は本当にどの事務所も頭を悩ませている課題だと感じます。建築は社会やクライアントの動きで突然プロジェクトが止まることもあります。僕も何度か「アーキタッグ」で人材を紹介をしてもらいましたが、こういうサービスがあれば、プロジェクトがなくなった合間にも出来る仕事があると思えるし、多くの人が安心して仕事に打ち込めるようになる気がします。

適度な距離の人間関係

──佐々木さんは2021年にaxonometricを設立されています。独立の前後でギャップを感じたりすることがありましたか?

佐々木 僕が独立前にいた藤本壮介建築設計事務所は4、50人規模の組織で、分業がしっかり行われていたため、存分に設計に打ち込めていました。その後独立し、運に恵まれて仕事が増えたことで、スタッフもすぐに8人ほどになり、経営にこれだけの時間を取られるのかと、身をもって感じているところです(笑)。また、拠点が福岡なので建築人材の母数自体が少なく、スタッフの募集もなかなか難しく、そんな中で「アーキタッグ」のことを知り、マッチングを依頼したのが最初でした。

──どのような内容で依頼をされていたのでしょうか?

佐々木 インテリアと宿泊施設の実施設計者とのマッチングを依頼しました。僕の事務所はチームとしてすごく若いので、外部の熟練した知見が必要な時があります。たとえば宿泊施設や商業施設、インテリアは一般的な建築とはまた別の、特殊な知見が必要になります。その領域について相談させてもらえつつ、図面の細かい部分も描いてもらえる人という要望で、数人の設計者の方を紹介していただきました。

大野 佐々木さんのように、若い事務所がベテラン設計者をアサインするのは理想的な使い方な気がします。世代の近い意匠設計者同士だと、やはりいろいろと気を使う部分も増えてきますが、若い事務所に熟練した方が入れば、デザインの手綱は事務所側で握りつつも、分からないことを丁寧に、家庭教師的に教えてもらうことができるのでしょうね。

──大野さんはフリーランスを経てsinatoを設立されていますが、初めはどうやって設計を学ばれていたのですか?

大野 とにかく工務店の社長を頼っていました(笑)。施工や細かい納まりについては彼らの方が圧倒的に知識がありましたからね。でもその時に重要だったのは、審美的な主導権は必ずこちらが持つということです。いわれたことを受け入れるだけでは美しいものは出来ないし、施工者との関係もおかしくなってしまいます。知識が乏しいながらも設計者然として振る舞うことで、お互い気持ちよく仕事が出来た気がします。

佐々木 僕たちがアーキタッグに紹介いただいた方も、スタッフとはかなり歳の差があるので、親のように頼っています(笑)。

大野 工務店の社長と同じ感覚ですね(笑)。

──マッチングの際は、登録者の要望やスキルと別に、人柄や年齢などのペルソナも参考にするのですか?

 登録いただいた方とは面談を行い、コミュニケーションスタイルや本人の希望などもしっかりと記録し、マッチングの際に参照しています。やはり人と人の関係ですので、そういう部分も大事にしています。

大野 協働設計は、良い人間関係がなければ難しい部分があります。同じ職能でも、人によって作法や価値観が違ったりするので、お互いの考えを尊重する必要がありますよね。

佐々木 地方の人間関係には独特の距離感があります。同業者に紹介してもらうと、万が一相性が悪かった場合に、なかなか外しにくかったりします。首都圏だと母数も多いので適度な距離感があるでしょうが、福岡ではほとんどが顔見知りです。その近すぎる距離感ゆえに、良いことも、困ることもあります。

大野 「アーキタッグ」は、第三者的な立場からマッチングを手伝うことで、適度な距離の人間関係の構築をサポートしているとも考えられますね。

意匠設計者の協働

──大野さんはどのような依頼をされたのでしょうか。

大野 最近、設備設計者の方をご紹介いただきました。普段よくご一緒する設備設計事務所が多忙でプロジェクトのスケジュールに合わないということがあり、それ自体はよくあることですが、最適な方をゼロから探す時間も無かったので、「アーキタッグ」に依頼しました。設備や構造の方がたは、意匠設計のわれわれとは微妙に領域が異なるので、初対面でも比較的協働しやすいように思います。佐々木さんは意匠設計同士で協働されていますが、具体的にどうやって連携しているんでしょうか?

佐々木 打ち合わせに入っていただいたり、設計検討にも参加してもらったり。もはやチームの一員という感じですね。

大野 外部設計者の方との関わりは、大雑把に3種類くらいあると思います。CADオペさんのように図面だけ描いてもらう方法、作図+打ち合わせにも参加してもらう方法、スタディ段階から一緒にデザインを考えてもらう方法。佐々木さんの事務所ではスタディ段階から入ってもらっているんですね。意思疎通が難しかったり、意見が衝突することはないんですか。

佐々木 それがないんです。今入っていただいている方は熟練の設計者さんなのですが、僕らから相談をすると、いろいろな事例を教えてくれつつ、一緒に考えてくれます。ただ、ゼロベースで一緒にデザインを考えることはしてないです。そのやり方はお互いのデザインにかなりのリスペクトがないと成り立たないので、デザインのリードは絶対にこっちが握ると割り切っています。

大野 その感覚は分かります。他の建築家とあまり明確に役割分担をせずにデザインを進めていくと、最初は色々な発見があって面白いけど、実施設計に近づいていくにつれて作法や解像度の違いが現れて、問題が生じてしまうことがある。そこで、僕は最近、協働設計者に完全に任せる場所やエレメントをつくってみたりしています。自分の設計の中に、他者性を薄く面的に浸透させるよりは、濃い点として受け入れ、全体との差異そのものをデザインの対象とするイメージです。

佐々木 あえてコントロールしないということですね。

大野 先方にとっての聖域をつくりつつ、全体の文脈はリスペクトしてもらう。でこちらも「お、そっちがそう来るならこっちはこう変えよう」と反応して自分たちの設計も良くしていく。新宿駅のプロジェクト以降、協働設計で大きなボリュームに対応する作法を身につける必要性を感じ、色々と試してきたのですが、現時点ではそういうやり方にハマっています(笑)。

新たな建築家像を発掘する

 日本には現在、10万近い設計事務所があって、建築士も120万人いるといわれています。「アーキタッグ」を始めた当初、建築家はおふたりのように設計、デザインをリードする方がたが多いのかなと想像していたのですが、実際はそういう方を実務でサポートするのが好きだという方や、柔軟なかたちで幅広い建築に携わりたいという設計事務所も多くいることを知りました。

大野 以前、とても優秀なCADオペさんに仕事をお願いしていた時に、施主や施工者との打ち合わせ内容をその都度共有するのが二度手間なので、打ち合わせに同席してくださいと頼んだのですが、絶対に出てくれないということがありました(笑)。コミュニケーションよりも、とにかくずっとCADを触りながら考えていたいと。理想とするサポートのかたちも人それぞれありますね。

 以前、「ライスワークとライフワークを分けて業務に臨んでいる」とおっしゃっていた利用者の方がいました。ライスワークは、事務所の売り上げを確実に上げるための仕事で、ライフワークは、売り上げに繋がるかは不透明だけど自身がやりたい建築の仕事。「アーキタッグ」によって埋もれているライスワークの機会を提供できれば、事務所の基盤が安定し、建築家がライフワークに携わる余力をつくれるかもしれません。また、若手だと単独では受けることができないような、大規模な仕事にも携わることもできるかもしれませんし、それがライフワークに繋がるかもしれません。私たちはライスワーク、ライフワークの両側面で建築家の仕事をお手伝いしたいと思っています。

佐々木 欧州には設計のマネージメントを生業としている建築家が多くいるそうで、たとえば大きな案件では頭となる建築家の下に彼らが設計チームを組み、プロジェクトを指揮したりするそうです。自分で仕事をとって、自分の名前で建築をつくるだけではなく、彼らのように細分化されたさまざまな役割の建築家がたくさんいると聞き、多様性があっていいなと思いました。日本で独立するというと、生きるか死ぬかという感じじゃないですか(笑)。ハードルがとても高いイメージがあります。日本にもそういう働き方をされている建築家は多くいると思うのですが、まだそれが顕在化していません。もう少しいろいろなタイプの建築家が活躍できる機会が増えてもいいのにな、と思います。

 それは「アーキタッグ」が目指す世界観にも近いと思います。今後も「アーキタッグ」を通して新たな建築家像を発掘し、そういった方がたと、おふたりのようなデザインをリードする建築家のタッグを促進したいと思います。
fig.6

(2023年11月10日、sinatoにて収録。文責:新建築.ONLINE編集部)

桂竜馬

1990年東京都生まれ/2013年慶應義塾大学法学部政治学科卒業/2013〜2014年ドイツ銀行/2014〜2018年ゴールドマン・サックス/2018〜2021年メルカリ/2020年青山芸術設立

大野力

1976年大阪府生まれ/1999年金沢大学工学部土木建設工学科卒業/2004年シナト(sinato)設立/2011年〜京都芸術大学非常勤講師/2015年〜日本工業大学非常勤講師/2016年〜昭和女子大学非常勤講師

佐々木慧

1987年長崎県生まれ/2010年九州大学芸術工学部環境設計学科卒業/2013年東京藝術大学大学院修了/2013〜15年INTERMEDIA/2015〜2019年藤本壮介建築設計事務所/2021年axonometric設立

桂竜馬
大野力
佐々木慧
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建築
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桂竜馬氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

大野力氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

佐々木慧氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

アーキタッグのサービススキーム図。/提供:青山芸術

「JR新宿駅新南エリア」。sinatoは改札内外コンコース、駅前広場、商業施設「NEWoMan」の全体環境デザインを担当。/撮影:新建築社写真部

鼎談時の様子。右から桂竜馬氏、大野力氏、佐々木慧氏。/撮影:新建築.ONLINE編集部

fig. 6

fig. 1 (拡大)

fig. 2