阿部暢夫
1939年広島県生まれ/1965年早稲田大学大学院修士課程終了/1965年現実土地建物設計室設立/1968〜1977年黒川紀章建築都市設計事務所勤務/1982年アトリエA主宰/1998年阿部設計室に改称、代表取締役
*本記事は『新建築』1972年6月号の特集記事「カプセルへの挑戦」の中で掲載されたものです。
カプセル設計にとっての新たな問題は、前提となるべき流通組織を想定ないしは設定しなければならないことである。もっと厳密にいえば、一般の建築設計の場合も当然それは前提となるわけであるが、そこではすでに完璧な分野が形成されていて、建築家のルーチンワークとして無意識にわれわれはそれを利用している。しかし一般のゼネコンとカプセルはいろいろな面でギャップが大きすぎる。ではプレハブ業界の流通組織はどうかと検討を加えたわけであるが、プレハブ業界も一部を除いては不動産的思考が定着し、とくに製造面での設備投資の密度と内容および経営的レスポンス、また製造上での誤差レベルにおいてカプセルを製造するには不向きの点が多いのである。
全体のフローチャートとしては表-1のごとくに想定をしているわけであるが、その設計部分を拡大したのが表-2である。
最初のチェックが基本設計に相当する作業であり、商品企画の段階である。機能性、居住性などの問題とともに、セールスプロモーション的発想もここでは要求される。その次の段階においては、その基本的なフレームワークに基づいて部品カードによる部品検索をするわけであるが、このレベルで可能であれば、部品のディストリビューションセンターとのオンラインリアルタイムによる検索をしなければならない。もっともそのカプセルのロット数との相関関係によるコストベネフィットに基づくわけであるが、この検索では、予定コストおよび納期とのマトリックスにおいて使用すべき部品が決定されて行く。当然、最終的に目ざすカプセルのカタチの問題はいうまでもないが、あるフィーリングの枠内ですでに選定してあるならばこの段階ではそれほど重要なファクターにはならない。そして最適な部品に捜しあたらない場合は、さらに新しい部品設計を行なうわけである。
部品カードが集まったところで、実際に製造する過程に沿って、そのプロセス単位ごとに部品の組立図(図-1、図-2、図-3)を作成していくわけであり、それはまた同時に工場アセンブリーでの指示表にも流用されることを指向している。つぎの段階の生産・輸送・セッティング計画および足まわり、設備引込設計は、カプセルと環境との接点の解明である。その後でコスト集計を行ない、YesかNoを出すわけであるが、完全に商品として扱う場合はセッティングの問題はあとまわしでよいことになる。
最後に諸元表を作成するが、これは同時にカタログ作成の一部をなすものであり、営業活動の開始が可能になる時点である。
われわれは部品を3つの概念にわけて考えている。それは、オープン部品、純正部品および特殊部品である。オープン部品は一般市場にカタログとして出まわっている部品および材料をいうが、カプセルにとってはテレビ、電卓などもオープン部品の範囲と見なしている。純正部品はカプセルのために設計され、各カプセル共通に使用できるもので、かつ生産・ストックのラインに乗っているものである。われわれの部品集計の作業は、オープン部品をある程度利用しつつ、いかに純正部品の数を蓄積して行くかに向けられている。特殊部品は、ある特定のカプセルのために開発するもので、この生産・ストックは必要最小限におさえるものである。
部品カードを設計、集計する過程で問題になるのはモデュールである。われわれは箱型量産住宅においてふたつのスケールを組合わせて行く位相モジュールを提案したが、機能をより特殊化し、先鋭化して行く過程で、大きさだけに頼るモジュールを踏襲するだけでなく、さらに比重をスケールにしたモジュールの必要性を感じている。それは容積あるいは重量を機能で除した係数であり、たとえれば、見かけの比重と実際の比重との比率、船の重量トンと積載トンとの関係である。つまり、パーフォーマンスをエレメントからコンポーネントにいたる各段階でバランスさせて行く方向である。
有機的関係においてはひとつの部品がとび抜けて良い性能を発揮できても、組合わせによっては最低の性能の部品で全体の機能が決定づけられることが概して多いのである。
オープン・純正・特殊部品という分類はより流通的な面であるが、他方ユーザー側から要求される分類にスタンダード部品とオプショナル部品というコンセプトがある。前者は必要最低限度の機能を確保する部品であり、住宅関連ではベーシック部品と呼んでいる。後者はそれに個人のレベルで付加し得る部品である。
カプセルはひとつの側面から論ずればアセンブリーされた部品のネットワークといい得る。それだけに、その部品の体系化は重要な意味をもっている。われわれはPART/COSTの手法を使い、ツリーシステムによる分類体系化を試みている。表-3、表-4に示すのがその一例である。分類のグレードは6段階あり、カプセルーセクションーコンポーネントーユニットーパーツーエレメントの順で、図はいずれもセクションのグレードである。おのおののグレードはそれぞれ9のアイテムに分枝する。カプセルは販売単位に相当し、セクションは空間選択単位に相当する。以下同様に、コンポーネントはアセンブリー工場でのラインに乗る最小単位を形成し、ユニットは機能単位、パーツはカプセル市場での最小流通単位である。部品交換、追加などはこのグレードで行なう。エレメントは部品としての最小発注単位あるいは生産単位であり、これ以上の分類は設計上では必要としない。表-3はBC-25fig.1およびLC-30Xfig.2で使用したブレイクダウンであり、図-1がそのボディおよびシャーシのコンポーネントの組立てを表わしている。図-2はBC-25のバストイレコンポーネントの組立図であり、すでにカプセルの純正部品となっている。表-4はHU-38Xfig.3のブレイクダウンであり、表-3とはかなり違う方向を示す。その最大の理由は、住宅を前提としたキュービクルタイプであるということである。つまり3m×6mのコンクリートボックスをベーシックモジュールとして、他の部品はそれに付加して行く形態Fをとっているが、BC-25、LC-30Xはいずれも、すべての部品が同等の比重で並んでいる。設備についてもHU-38Xは住宅の枠内での多様性であるのに対してLC-30Xは考え得るすべての可能性をシステムの上で保有させている。それらが分類上の違いとなって表われている。
現在採用しているカプセルの構造は2種類に大別できる。ひとつはキュービクルタイプであり、 ひとつはリンクタイプである。前者に属するものは、箱型量産住宅からはじまってMC-18Xfig.4、 BC-25、HU-38Xにいたるプロジェクトである。箱型量産住宅では構造と機能がまだ一体化し得ず、カプセルとしては過渡的なものであったが、BC-25にいたって完全な一体化がはかられている。最終的には、目的が単一に限定できれば生産上、流通上も非常に効率をあげることができるが、現在需要の絶対量が少ないために多少融通性に欠けるきらいがある。しかし、HU-38Xにおいては軀体と内装とを切り離すことと、住宅産業に基盤をおくソフトウェアを背景にもつことによりそれを解決している。リンクタイプあるいはリンクシステムと呼んでいるのは、万博導出入、便所カプセル、タカラパビリオンのカプセルからはじまり、HL-14、LC-30Xにいたるものである。LC-30X以前のリンクシステムは、そのメリットを生産手段と 輸送手段にしか生かし得なかった。もっともそれらはプロジェクトとしては単発であり、さほどプロダクトアナリシスの必要性はなかったわけである。LC-30Xにいたって、カプセルとしてははじめての本格的な見込み生産を前提とする量産タイプに取り組んだわけである。構造的にはラーメン構造で、梁も柱も3.2mm厚の 鋼材を1/4の円型にロールした円型のものである。ロット数は年間600個を目標においているが、この程度のロット数では、モノコックをとるにはまだ数量不足である。つまり、600個を前提とする生産計画から設備投資の額を割り出し、その結果逆算されて出た構造のコスト限度をとっている。LC-30Xのシステムは図-4に示すごとく、原則的にはリニアな発展型を想定し、各セクションの機能性は居住度と設備度の関数の和と定義する。それは決して一元的に把握できるものとは考えていないが、設計上の指標としては有効である。
(初出:『新建築』7206fig.13-18)