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2022.04.29
Essay

点としての記事の連なりから立体的な地図を描く

思考を紡ぐ──建築家10人が選ぶ論考 #5

島田陽(タトアーキテクツ)

「思考を紡ぐ──建築家10人が選ぶ論考」の第5回は島田陽さん。篠原一男「輝く都市をきみは見たか」の紹介を軸に、記事の連なりについて寄稿していただきました。(新建築.ONLINE編集部)

新建築社の発行する雑誌で発表されてきた論考として印象深いのは、やはりわれわれの上の世代にあたる、青木淳や塚本由晴らによる論考だ。「マイクロパブリックスペース」(塚本由晴、『新建築』0502)は海外にも大きな影響を及ぼしたように思うし、「『原っぱ』と『遊園地』」(青木淳、『新建築』0112)「続・『原っぱ』と『遊園地』」(『新建築』0210)はおそらく以降の世代への影響も大きく、最も引用された論考のひとつだと思う。ただ、それらはすでに単行本にまとめられている、あるいはこれからまとめられるだろう。
単行本としてまとめられていない記事として、筆者が浅学で見逃している場合はご容赦いただきたいが、篠原一男「輝く都市をきみは見たか」(『新建築住宅特集』9301)を紹介したい。『新建築住宅特集』で発表された篠原による最後の文章だが、篠原のほぼ最後の住宅計画「未完の家増築計画」(1992年)と共に、「未完の家」(1970年、『新建築』7101)が未完として発表されるに至った顛末や、アフォリズム的でない篠原の葛藤が記されていて、今読み返すと新鮮だ。文中で引用されているテキストや作品を掘り下げていくのも良いだろう。
この文章の結びには「第3の様式」(『新建築』7701)の結びが引用されている。

ひとつの新しい作品をつくることは(中略)すでにつくられ、過ぎ去ってきた私の空間へ向かって、それらを孤立させたり無化させないために、新しく到達した地点から新しい養分をたとえわずかでも送り返す作業でもある。

これは作品について言及した文章だが、論考で頻繁に自らの論考を引用しているのも同じ意識ではないか。1993年の文章に引用された1977年の論考に引用される1962年の論考。そのときどきの作品と論考によって自らのこれまでの作品や論考を新鮮に再定義しようとしているように思える。「第3の様式」(『新建築』7701)に記された「ひとつの統一された主題で説明することができない、ずれを含み、それがむしろ主題となっていく空間」という文章は、私が自分の創作で考えていることとも繋がり、意外な親近感が湧いた。

ちなみにこの記事の掲載号(『新建築住宅特集』9301)は、後半に特集されている山本理顕の「岡山の住宅」「葛飾の住宅」とその序文「家族という思想」、上野千鶴子と山本による対談「住宅、そして家族とは」までの一連も大変面白い。さらに、その山本の住宅を批評した花田佳明による「拡張された住宅」(『新建築住宅特集』9501)は、以降に始まる花田による「青木淳論序説」(「青木淳 1991–1999」、『建築文化』1999年11月号、彰国社)の序説といえるが、その文中で山本と共に批評された宮本佳明が次号の月評(『新建築』9502)で応えているのも、現在のSNSなどでの論争にはない遅さと重さがあった。

上述した通り、雑誌の面白さは点としての記事単体のみならず、その号のほかの記事との線としての広がり、さらには月号を跨いだ面的な繋がりを通して、読者が時代の試行の立体的な地図が描ける点にあると思う。
雑誌の役割は時代の潮流を捉え、つくることにあると考えているが、結果として今やそれは巨大なアーカイブとなっている。本記事の掲載媒体は新建築.ONLINEというオンラインメディアだが、ここに現れているのはその氷山の一角で、以前「穴が開くほど見る」という企画記事のために『新建築』のバックナンバーを見返して、その膨大さと豊穣さに目が眩むような思いをした。常々いっているが、ウェブ上には膨大な情報があるように見えて、非常に偏った情報がヒエラルキーなしに発信されていて、その情報の信憑性や質は問題とされていない。学生にはまず図書館の雑誌を端から読んでいくことをおすすめしたい。さまざまな潮流や試行が行われた先に現在の創作がある、歴史的な感覚というものをぜひ掴み取ってほしい。

そういう意味で、現在の学生に読んでほしい特集として、吉岡賞(新建築賞)の通史が語られている「住宅とは何か 新建築賞の軌跡──『住宅』を議論すること」(『新建築住宅特集』1104)を併せて紹介しておきたい。この特集を端緒に各時代の試行を掘り下げるのもいいかもしれない。私自身、2013年に第29吉岡賞を受賞することができたが、その際の内藤廣、堀部安嗣ら審査員が実際に住宅を訪問し2カ月に渡って賞を決定していく過程は、誌面のコンテンツとしても大変面白かった。最近は数年まとめて賞を決め、1作品の選出のみとなるなど、賞の性格が変わってきたように思う。雑誌社の強みは歴史の連なりと考える私としては気にかかるところだ。

島田陽

1972年兵庫県生まれ/1995年京都市立芸術大学美術学部環境デザイン学科卒業/1997年同大学大学院修士課程修了/1997年タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所設立/2016年「ハミルトンの住居」で2016 Queensland State Architecture Awards State Award、AIA National Architecture Awards National Commendation /2018年「宮本町の住居」でDezeen Awards 2018 House of the Year受賞/主な著書に『7iP #04 YO SHIMADA』(2012年、ニューハウス出 版)現代建築家コンセプト・シリーズ Vol.22『日常の設計の日常』(2016 年、LIXIL 出版)

島田陽
思考を紡ぐ──建築家10人が選ぶ論考
新建築住宅特集

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篠原一男「輝く都市をきみは見たか」/『新建築住宅特集』1993年1月号掲載誌面

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