今、建築や都市のつくられ方が劇的に変わろうとしている。デジタルテクノロジーの進展がわれわれのアクティビティをかつてない粒度で測定し、時系列のビッグデータとして蓄積しているからだ。それによって、これまでは建築家や都市プランナーが自分の頭の中で想像するしかなかった人びとの立ち振る舞いが、データによって解析され、視覚化されてしまう時代に突入した。また、ディープラーニングなど機械学習の技術は、人間の目や脳といった処理能力だけでは不可能だった計算量を実現し、その単純でしかし膨大な繰り返し計算が分析の質そのものをも変え始めている。
このような状況において、われわれ建築家や都市プランナーにできることは一体何なのだろうか?もしくは何も変わらないのだろうか? 今回の特集「データ時代の都市・技術・社会」では、この問題意識のもと、3人の論者との対談と寄稿論考を通して、さまざまな角度から建築・都市におけるデータの可能性を掘り下げる。
本特集は、前半・後半に分けての公開を予定している。
前半ではビッグデータを建築や都市、それらの分析に用いる可能性を探る。建築家の岡部明子氏(東京大学)との対談と、社会地理学・地理情報科学の研究者である瀬戸寿一氏(駒澤大学)による寄稿論考を公開。岡部氏は建築家として、バルセロナに在住していた1980年代から都市の時空間データのポテンシャルに着目し、都市計画からはこぼれ落ちてしまうインフォーマル居住空間をデータで読み解く方向性を打ち出している。また、データという数字がもつ強すぎる、そして分かりやすすぎる力が人間の想像力・創造力を抑制してしまうのではないかと警鐘を鳴らす。それらを考慮した建築・都市デザイン教育が求められている。対して、駒澤大学で教鞭を執る瀬戸氏は、GISやオープンデータに精通し、官民連携データプラットフォームなどの観点から都市への問題に切り込んでいる。彼が論考で提示している視点は、今後建築家や都市プランナーが都市を実際に分析していく際に必要となるデータインフラの基礎知識である。
そして後半では、ぐっと視点を変えてビジネスの観点から都市データの可能性に迫る。
日本におけるディープラーニングの第一人者である巣籠悠輔氏にはビジネスの観点から見る建築・都市におけるデータの可能性を、また現在のデジタルツインの流れをつくり出した立役者のひとりである国土交通省の内山裕弥氏には、今内部で何が起きているのか、そして今後何が展開されていくのかを語ってもらうことを予定している。
官・民・学の各分野からまったく違うバックグラウンドをもった3人に、ビッグデータというひとつのテーマを語ってもらうことにより、今の社会で何が起こっているのか、そして建築家や都市プランナーはこれからどうしていけばよいのかの方向性を示せればと思っている。
建築や都市デザインにとってのAIやビッグデータのポテンシャルとその可能性を感じてもらいたい。