特徴のないモノのスキャニング
第17回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では、展覧会の構想から現地でのインスタレーション設計までをほかの建築家の方々と一緒に行いました。また、移築・転用の対象となった部材の3Dスキャニングやデータベース構築に取り組み、そのワークフロー設計やテクニカルディレクションを担当しました。fig.1
今回は2つの3Dスキャニングを実践しています。ひとつは、解体前の高見澤邸のスキャニングで、据え置き型のレーザー照射3Dスキャナを使いました。対象物にレーザーが照射されると、照射された点が3次元の情報として記録され、その点の集積が3次元の点描画のようになることで立体物が3Dモデル化される仕組みです。fig.2 もうひとつは解体後の各部材のスキャニングで、ハンディスキャナを部材にかざしながらスキャニングを行いました。fig.3 ハンディスキャナは、かたちの特徴からスキャナを当てている部分とその前後の連続性を計算していくため、形状が複雑なモノはスキャンしやすい一方で、かたちの特徴の少ないモノは連続性が見つけにくいため判別が難しくなります。今回スキャニングしたのは、柱や梁といった非常にかたちの特徴が少ない部材でした。また、通常特徴の少ないモノには、形状の連続性を判別するための手がかりとしてマーカーをたくさん貼るのですが、今回400という数の部材をスキャニングするにあたり、すべてにマーカーを貼る作業コストとマーカーの消費量が課題となりました。そこで、木材とアルミでできたフレームに透明のテープを貼り、そのテープにマーカーを貼った治具を制作、この治具の中に部材を入れてハンディスキャナでスキャニングしました。フレームの周りの透明のテープの上からマーカーが貼られているため、スキャナは位置情報を容易に取得できます。そして、フレームを使い回しできるようにしたことで、マーカーを貼る作業コストや消費量の課題を解決しました。
過去と未来を保存するデータベース
このプロジェクトでは、約400部材をスキャニングし、そのうちの150部材をオンライン上にアップロードしています。また、スキャニングされた400部材を含む高見澤邸のすべての部材情報がデータベースで管理されています。このデータベースには、高見澤邸のどの部屋のどの部分であったかという位置情報、柱や梁など躯体のどの部分であったかというエレメント情報、木材か金属かというマテリアル情報が含まれています。特にマテリアル情報はヴェネチアに輸送する時の検閲においても使われ、データベース自体が輸送の際のリストとしての役割も果たしました。
情報技術の活用
これらの主な目的は解体前の情報を保存することにあります。スケジュール上、解体後に現地でのインスタレーション設計を始めることを余儀なくされたため、解体された後でも部分をインスタレーションとして再構築できるようにするために元情報を保存する必要がありました。建築家はデータベースから高見澤邸の情報を辿り、3Dスキャニングされたモデルを活用して設計しました。またビエンナーレの会期後に部材を再度解体し、ノルウェーのオスロで転用されて別の建築物として再構築されるプロジェクトや部材の一部を使ってプロダクトをつくるアップサイクルのプロジェクトが計画されています。データベースは、元の部材情報が伝達されることはもちろん、新たなプロジェクトにおける使用状況がデータベースに入力されることによって、高見澤邸であった最初の記憶をそのまま保存するだけでなく、その後の展開やかたちを記録することで部材と共に受け継がれていきます。