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2023.06.22
Interview

ビジネスから建築を変革する

佐竹雄太(アラウンドアーキテクチャー)×本多栄亮×水越永貴(ReLink)

建築を学び、ビジネスに取り組む方々による対談企画。建築家とタッグを組む不動産コンサルなど幅広く手がけるアラウンドアーキテクチャーの佐竹雄太さんと、中古建材情報のウェブプラットフォームReLinkを立ち上げた明治大学の本多栄亮さん、水越永貴さんに、事業によって見据えるビジョンや、ビジネスを通して建築にどのような変革をもたらそうとしているのかを語っていただきました。(編)

出口を整備し、入口に変革をもたらす

──まずはお互いの事業内容からお聞かせいただけますか。

本多 ReLinkは、日本の中古建材販売業者の情報をまとめたウェブプラットフォームとして、今年2月にローンチしました。名称はリユースを意味する「Re」と、ウェブ上に散在する中古・余剰建材の情報を繋げるという意味の「Link」に由来しています。日本における建材の循環は、2000年に「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(通称:建設リサイクル法)が制定されたことにより、スクラップして再資源化するリサイクルを中心に考えられています。しかし、エネルギー効率でいえばリサイクルよりもリユースの方がよく、各地で解体と共に捨てられてしまう建材を再度流通させ、建築においてもリユースを促進することができればと思い、ReLinkを立ち上げました。柱、梁など、扱っている建材ごとに販売店をカテゴリー分けして閲覧できるようにしていますfig.1。実際に設計に使ってもらうには配送も考慮する必要があるので、地図上に販売店をプロットしたりもしており、今後のアップデートでは地図から販売店を検索できるようにする予定です。合わせて、モノを使うとはどういうことかを考えるメディアも運営しており、これから本格的な事業化を目指しています。

佐竹 アラウンドアーキテクチャーは「建築のまわりで建築をシコウする」というビジョンを掲げ、建築家に設計をお願いする方への不動産仲介、不動産コンサルをベースに、イベントの企画やエンターテインメント制作など、建築家の仕事を「支える」と、「広げる」という大きな二方向の動きを行っています。私はもともとは建築の設計をやっていたのですが、建築の新規サービスは内的な課題を解決するものが多いと感じてきました。たとえば建築におけるDXは主に、設計や施工を効率化することが目指されています。もちろんそれも大事なことですが、私はそれに加え、業界の外と交わること、巻き込むことに可能性があると思っています。他業界との協働によるイノベーションや、一般の人が建築を知って楽しんでもらうことも大事なことです。そのために、建築の周辺からさまざまなかたちで試行(チャレンジ)しています。
販路として、私は建築家を通してその先にいるクライアントにアプローチすることが多いのですが、ReLinkはどういった人をターゲットにしているのですか?

本多 メインのターゲットは設計者です。工務店の通常の業務では安く安定した品質の建築を提供することがミッションなので、あえて古材を使うことは少なく、基本的には設計者が指定するものを使うのが一般的だそうです。だから、ReLinkでは設計者に向けてアプローチし、古材の情報を標準仕様書でも使えるところまでを目指したいと思っています。

佐竹 日本には中古建材を扱う業者はどれくらいいるのでしょうか。

水越 ReLinkで掲載している事業者数は現時点で80以上、店舗でいえば100以上もあり、アンティークへの付加価値が高まる近年では、さまざまな分野でリユース市場の規模が拡大しています。ただ、建材においては流通のプラットフォームが十分にまとまっていないため、僕たちはそれを整備する役を担おうとしています。将来的には、中古建材を建築にどれだけ使ったかという数値がブランドイメージに繋がったり、古材を利用することが人を惹きつけるデザインに繋がったりする社会を目指しています。

佐竹 そもそも、建材をリユースすることでどのような価値が生まれるのだと考えていますか。

本多 今、中古建材を使うことにはアンティークとしての魅力や、リユースによる環境負荷の軽減が価値として捉えられていますが、それは近視的なものだと思っています。自分たちの建物で使っていた建材を一定の価値で売ることができる状況ができれば、建築にも新たな価値が生まれるはずです。たとえば今は新築で住宅を建てても、年月と共に価値が減り、最終的には売ることも難しくなってしまう。ただ、それが建築としてではなく、建材ごとに売れるということになれば、新築の際の心理的ハードルは下がるでしょうし、建築の更新も今よりポジティブに捉えられるはずです。全国で問題となっている空き家も、単なる負の資産ではなく、ストック資源として見られるようになるでしょう。建材にも出口となる市場があれば、その入口である建築設計においても、より長く使える建材が求められるようになるなど、意識の変化が起こるのではないかと思いますfig.2

佐竹 入口を変えるために出口を整備するというのは大変共感します。アラウンドアーキテクチャーが創造系不動産と共に運営する「建築家住宅手帖」という不動産サイトも同じビジョンをもっています。建築と不動産は非常に近い分野でありながら、業界の成り立ちや扱う法律、必要な資格など、多くの構造的な隔たりがあります。不動産業界では建築の文化的な側面に馴染みがなく、査定では築年数や面積、駅からの徒歩分数などだけで価値が算出され、誰が設計したのか、どんな空間なのかということはまったく考慮されません。「建築家住宅手帖」は、その価値付けを行うための市場を構築するためのサービスです。建築家が設計した空間の価値をどう設定するかというルールは現状世の中にありませんが、ひとつの試みとして、施主が建築家に支払った設計料を不変の価値とし、不動産価値に上乗せ出来るのではと考えています。われわれのサイトでは、物件情報と共に、その建築の魅力を伝えるために、実際に訪れて取材した記事や、写真家に頼んで住みこなされた現在の状態を撮影した写真も掲載しています。建築家に設計を頼むにあたって、建設費に加えて設計料を支払うことを負担に感じる人も少なからずいるかもしれませんが、その価値が売却時まで残り続けるのであれば投資してもいいと思う人が多くなるはずです。

水越 建築を市場という視点から見て、そこに変化を起こせれば、建築家と建築の関係性も多様になっていくのだと思います。現在建材は建物を構成する一要素として捉えられますが、柱1本単位でも出口戦略を与え、価値付けが行われると、その建築を構成している部材を見る解像度も高まっていくでしょう。建材は生産者の知性や技術の結晶として生まれるものですが、その価値は建物単位の市場では取り扱われません。

本多 市場だけでなく、設計の仕方にも変化があると思います。建築設計では、建材の流通・調達は分業化されているので、建材の調達の仕方にまでアプローチされることはあまりありませんが、ReLinkをきっかけとして、設計者が解体材の行方や建材調達の計画にまで参画し、部材やモノへの解像度が分野横断的に高まっていくことで、より環境に適した流通や建材の選択など、設計と建材の関係性も洗練され、建物のつくられ方にまで影響する。そうした変化を起こせるといいと思っています。

一般層へ伝えることの重要性

佐竹 中古建材を使うことのひとつのメリットは、普通の建材を使うよりも安く済むということなのでしょうか。

水越 たとえば釘抜きから塗装までして販売する業者もいれば、解体現場から取得したままの状態で売る業者もあり、価格帯は販売元の手間のかけ方によってさまざまで、コスト面でいえば一概にはいえません。

佐竹 アンティーク的な付加価値を付けて高く売るか、中古品として安く売るかというふたつの異なる方向性があるようですね。設計者が中古建材を使おうといっても、普通に建てるよりも劇的に安くなることはなく、環境のためだけだというのであれば、クライアントがOKするのにハードルがありそうですね。ターゲットである設計者と同時に、一般の人に向けても中古建材の魅力を発信する必要を感じました。設計者はクライアントと対話して設計を行います。設計者の中には環境貢献への意識やアンティーク的な価値観は割と根付いていると思うので、その先にいる一般層へどういうメッセージが発信できるかがポイントになる気がします。
ビジネスにおいて、伝えるということはとても大事なことです。それは広告業界の市場の巨大さに表れています。いいものやいいサービスをつくれば必ず売れるということはなく、まずはそれを知ってもらわなければユーザーの手には届きません。建築は業界全体で一般層へアピールすることがまだ足りていないように思います。そのためアラウンドアーキテクチャーでは、たとえそれが軟派に見えようとも、一般の人に建築の魅力を伝えるイベントを企画したりfig.3、YouTubeでは建築系ラッパー「カタチトナカミ」fig.4として活動しています。文化を引き継ぐにはアカデミックな思考は必須ですが、文化の裾野を広げるにはこうした活動も必要なはずだと思っています。

水越 アラウンドアーキテクチャーの事務所である「佐竹邸」(『新建築住宅特集』2205)にはコーヒースタンドが併設されfig.5、不動産の相談が目当てではない人も訪れていますが、それも建築の魅力を伝える活動のひとつなのでしょうか。

佐竹 そうですね。一般的な不動産屋は壁一面に広告が貼られ、中ではスーツをきた人がキーボードを叩いていて、どことなく入りづらい雰囲気を感じますが、本来不動産や建築は誰にとっても身近な話題のはずです。もっと気軽に相談ができる土壌をつくりたいと思い、コーヒースタンドを設けました。先日は建築家の須藤剛さんをお招きし、「建築家との家づくり勉強会」を開催しました。建築家に設計を頼むことにハードルを感じる人も多いので、そもそも建築家とはどんな仕事か、住宅ローンの組み方や不動産探しのコツなど、「佐竹邸」も見学しながら気軽にさまざまな話ができる場をつくることが出来たのはとてもよかったです。一般の方と話していると、業界としてさまざまなことへの説明が足りていないことに気づきます。ReLinkのサービスも、中古建材を使う意思が固まっている人だけではなく、使いたいと思っても仕組みがよく分かっていないという人にもその魅力を伝えることができればより広がっていくのではないかと思います。

本多 ReLinkでは建築業界の方向けに「モノとどう向きあうかを考えるコミュニティ・マガジン」をコンセプトに記事を発信しています。基本的には、建築業界のプロの方にインタビューをしていますが、そこでお話を聞いていると、一般の人だけでなく、クライアントからの要求を受ける設計者や工務店の方の思いについても同時に考えていかなければリユースの実現は難しいと感じています。こうした業界内の議論とも繋げていける部分を探していきたいです対談を受け、ReLinkではより気軽に考えを伝えていく「メンバーズブログ」と古材やリユースに関する情報を発信する「ドキュメント」を開始した。

水越 僕たちがやっていることを何となくでも知ってもらうことが大事なのだと思いました。こういうことができませんか、とダメ元で聞いてくる人もいて、まだ対応できないことも多いのですが、そうした需要のための受け皿をつくっておくことの重要性を実感します。

業界を横断することで見えてくる違和感

佐竹 ビジネスをやるうえで、何かしらの相談をまず受けることはとても大事なことです。ふとした言葉から、潜在的な課題に気づくことができるからです。私の考えでは、ビジネスモデルはひとつの課題解決だけではドライブしずらく、同時に複数の課題が解決できる手法が見出せると、単純な経済的メリットを超えて飛躍的に成長できるのだと思っています。ReLinkは建築解体の市場化と環境への貢献などさまざまなことを目指していますが、日本で同じような事業に取り組んでいる人はいるのですか。

水越 類似の事業は内装系に多く、ウェブで民家の解体を受け付け、建材を得て設計に再利用する企業もあります。内装に用いられる非構造材はリユースのハードルが低いのですが、ReLinkの最終的な目標は中古建材を建築の構造にまで用いることです。将来的には、設計者が解体現場から古材を直接取得できるようなスキームが整えられたらと思っています。
 
佐竹 解体業者を巻き込んだ新しいビジネスモデルとなれば発展しそうですね。そのためには、そこでかかる手間以上のメリットを、解体業者に提示する必要があります。既存の業界の課題を解決するというのはビジネスのアプローチとして鉄則です。古い慣習が根強い業界に新しい制度やDXが導入されると、急激に変わることがありますよね。フラットな視点で見れば、既存のビジネスモデルにおいておかしいな、と感じるところはたくさんあるはずです。

──そういう気づきは現場での経験を積むことで見えてくるものでしょうか?

佐竹 業界を横断することでその違和感に気づくことは多いです。不動産の査定項目に空間の価値が入らないことをおかしいと思ったのも、私が建築業界の常識をもって不動産業界に足を踏み入れたからこそです。外に出て話を聞けば、業界内だけでは見えない違和感が見えてきますし、そこにこそビジネスのチャンスが潜んでいると思います。

水越 大学の教育ではいかにいい空間を設計するかということが重視されていますが、実際にビジネスに取り組むと、どこに何を建て、どう運営するかという不動産的な知識の必要性も感じます。

本多 学部生の頃は設計課題での提案が社会にどういう効果をもたらすのかが実感として得られず、その価値が説明できないことにフラストレーションを感じていました。そこで、ボランティアを海外でやったり、学部生で集まって実際に設計・施工に参加したりしました。その経験を通して、日頃使う建築の言語が施主に伝わらない、現場で材料が当たり前のように捨てられているなど、日常では感じることのない違和感が多くありました。僕たちの役目は、ReLinkを通して設計者の目線では見えないことにアプローチすることなのだと思いました。

佐竹 クライアントワークは価値提供をする相手が基本的には見えている状態ですが、広くビジネスを捉えて新しいことに挑戦しようとすると、まだ見ぬ市場を想像しながら事業モデルを構築しなくてはいけません。需要が保証されていないところにアプローチするのにはリスクが伴いますが、それを恐れていてはチャンスは掴めないと思っています。成長している企業はそういうことに日々取り組んでいるんだと感じますし、見えないことに先行投資するという価値観がもっと広まらないと、建築業界も変わっていくことはできないのではないでしょうか。他の業界と比べ、建築分野では学生のうちに起業する事例が少ないので、ReLinkの取り組みには今回刺激を受けました。

水越 今はReLinkのバージョン2.0へのアップデートに向けて準備しています。本格的な事業化を目指して情報収集を続けつつ、建材のリユースが実現していくためにウェブサイトの発信だけでなく、実践的なプロジェクトにもチャレンジしていきたいと思います。
fig.6

(2023年5月2日、AROUND ARCHITECTURE COFFEEにて。文責:新建築.ONLINE編集部)

佐竹雄太

1985年神奈川県生まれ/2008年東京理科大学理工学部建築学科卒業/2010年同大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了/2010年 平田晃久建築設計事務所/2011年~2016年中央住宅/2017年~2021年創造系不動産/2021年グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修士課程修了/2021年アラウンドアーキテクチャー設立/2023年東京理科大学創域理工学部建築学科非常勤講師

本多栄亮

1997年神奈川県生まれ/2021年明治大学建築学科卒業/2023年明治大学建築・都市学専攻修了/現在明治大学博士後期課程1年、構法計画研究室所属/2023年ReLink創設、代表

水越永貴

2000年山梨県生まれ/2022年明治大学建築学科卒業/現在明治大学博士前期課程2年、構法計画研究室所属/2023年ReLink創設

佐竹雄太
本多栄亮
水越永貴
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「ARROUND ARCHITECTURE COFEE」での対談風景。左から佐竹雄太氏、水越永貴氏、本多栄亮氏。

fig. 6

fig. 1 (拡大)

fig. 2