島の交通事情や飲食店営業の許可基準、限られた予算での自主施工、敷地制約、迫る会期など、いろいろな検討(詳しくは第4回「フードトラックとしての営業形態の模索」参照)の結果、軽トラックを購入することとなった。軽トラックの荷台にキッチンユニットを積載物として載せ、飲食スペースと展示スペースを兼ねたアウトドアダイニングをトラックの荷台に擬態させて(「Trackingの展示」と「キッチンを積んだTruck」のダブルミーニング)設置するという計画だfig.1。
軽トラックの荷台は幅1.4m、長さ1.9mで、高さは地上から2.5m以下、積載荷重350kg以下という積載サイズの上限があり、その範囲内にキッチンとして必要な設備を入れなければならないfig.2。給水タンクは80L、同容量の排水タンクも必要だ。シンク(キッチンカーでは大きさは指定されていない)はひとつでよいが、水栓金物は通常の飲食店営業と同様、汚れた手で触った蛇口を手を洗った後に再度触って再汚染しない構造が求められる。一般的には少し長めのレバーハンドルで許可が出るが、オペレーションを考えてフットペダルを採用した。冷蔵設備としては、自動車営業ではクーラーボックスでも可とする自治体が多いが、小型冷蔵庫を台下に搭載。ドリンクや移動時のためにクーラーボックスも2台用意した。熱源はプロパンガスとすることも検討したが、置き場所や交換の手間と汎用性を考慮してIHコンロとした。そもそも小さなキッチンで火器はかなり暑いので安全性の観点からも避けたが、カセットコンロなども併用可能だ。それらとトレードオフになる電気容量は、発電機の出力容量の基準が1600Wのため、1回路(1500W)で収まるようにした。IHコンロと冷蔵庫、照明、電子決済用の端末(実は島では現金主流とのことで、最終的に導入を断念した)などギリギリ賄える範囲だ。太陽光パネルユニットや蓄電池なども検討したが、容量的にすべて賄えるわけではないため今回は見送った。換気は左右後方の3方を跳ね上げ戸で開けられるようにし(虫などの混入を防ぐ措置が求められるので網戸をつけている)、換気扇などは設置していないfig.3。
セルフビルドを前提としていたため、材料は現地のホームセンターで買って自分達で加工できるSPF材を構造に、構造用合板と中空ポリカーボネートのみで作成している。また、積載荷重350kg以下というのもあり、頑丈につくりながらも上部構造をいかに軽量化するかは試行錯誤した。実際に組んだユニットを軽トラック荷台に載せる時も、5〜6人で持ち上げればそれほど苦労することなく(やってくれた学生は大変だったかもしれないが)設置することができた。一方で、軽くて走行時に飛んでいってしまっても困るので、ユニット下部に重心が置かれるようにカウンターより下のみ構造用合板で全体を固めている。
できるだけ簡易でシンプルな形態を目指していた中で、ここだけはとこだわったのが、左右後方の3方向にオープンできるようにすることと、左右対称性だった。通常は、日本では車両は左側通行のため、車体の左側面を正面とし、右側面は従業員用のドアなどを設置し完全に裏となる。後方に開くタイプのものもなくはないが、車体構造の制限から日本ではあまり見られない。しかし、いろいろなキッチンカーの現場を観察すると、その制約が窮屈さを生んでいると以前より思っていた。どうしても車が同じ方向を向いて並ぶことになるし、表と裏が出てしまう。例えば今回の小豆島のような環境では、細い路地が多いため車両の転回も容易ではなく、左右どちらからでもサーブできると場所を選ばず便利だし、後方も開放可能なので、左右どちらかで注文を受けて、後方のアウトドアダイニング内でピックアップするということも可能だ。場所によっては後方からのみサーブしてもよいし、さまざまな環境に適合しやすいかたちを目指したfig.4。
アウトドアダイニングは、木で組んだシンプルな構造体に魚を干す時に使われる干網を吊るしている。トラックの荷台に見せかけるために、車体がすっぽり中に入るようにサイズを決め、それをどうつくれば構造的に安定し、取り外しが用意で、柔軟性を持つ架構が可能かをモックアップでスタディを重ねた。干網のサイズ(250〜450mmまで複数のサイズがある)や取り付け方は、つくってみないと判断できないことも多く、試作品をいくつかつくったfig.5。実は、フレームは折り畳みできるようにデザインされており(そもそものサイズが大きいので実際は折り畳みする場面は限られる)、それに追従するように網を接合する案や、トラックの荷台から取り付ける案などを試したが、最終的には吊るすのがいちばん簡単かつ綺麗に取り外しできることが分かり、16個の干網ユニットと2×2材のセットをつくって構造材から吊るす「飛脚スタイル」とした。それらを6組の自立する構造体fig.6に取り付け、アウトドアダイニングとなる。
そんなこんなでできる限り検討・準備して挑んだはずの現地での制作だったが、制作期間中にさまざまな問題が発生し、現場で変更し続けることになる。それがセルフビルドの難しいところでもあり、面白いところでもあるのだが。