私が担当する3回の連載の最後に、何を取り上げようかと正直迷った。これまで幾度か中国を旅して感じることは、この国には古いものから学ぶべきことは無数にあるのだが、新しいものからは学ぶべきものが、私には見当たらないのだ。どこの国でも近代化は避けられないことは重々承知だが、この国はそれを急ぎすぎ、目指す方向が違っているように思えて仕方ない。いったい彼らは文化や伝統、そして環境というものをどのように考えているのだろうか。
そうした中、シルクロードの一端を歩いてみて、この吐魯番の葡萄棚の遊歩道は私が中国で見た近代化の開発の中で、もっとも共感し得る計画のひとつであった。
吐魯番はあの名高い桜蘭の遺跡からもっとも近い都である。この中心街に約1kmにわたって、葡萄棚のアーケードがつくられている。中央に人間優先のメインの道路、その両脇に自転車などが走れる側道があり、総じて約30m幅の生活遊歩道であるfig.2fig.3。葡萄は吐魯番の主要な産物。その葡萄によってつくられる空間は、砂漠の中では何よりも心地よく環境に優しい。運動をしながら歩く老人たち、ベンチで本を読む子供たち、人びとのさまざまな使い方を見ると、この国に本当に必要なのは、こうした環境に優しいインフラであるように思えるのだfig.4。また、 この葡萄棚は吐魯番の住民たちが、かつてそうであったように、異国の人たちをやさしく迎え入れる新しいオアシス都市の象徴として、欠かせない存在になるだろう。
■旅のデータ
国・省 中草人民共和国・新蘊ウイグル族自治区
人口 1,747万人
面積 160万km2
省庁 ウルムチ(烏魯木斉)
交通手段 東京から空路(3時間30分)北京へ。北京から空路(3時間40分)ウルムチヘ。ウルムチから列車(2時問15分)で吐魯番駅着。駅から吐魯番市内へは車で約1時間。
(初出:『新建築住宅特集』0507)