新規登録

この記事は下書きです。アクセスするログインしてください。

2022.09.08
Essay

葡萄が実る緑陰遊歩道──吐魯番/新彊ウイグル自治区・中国

旅のチカラ003

中山繁信(T.E.S.S. 計画研究所)

*本記事は『新建築住宅特集』2005年7月号に掲載されたものです。

私が担当する3回の連載の最後に、何を取り上げようかと正直迷った。これまで幾度か中国を旅して感じることは、この国には古いものから学ぶべきことは無数にあるのだが、新しいものからは学ぶべきものが、私には見当たらないのだ。どこの国でも近代化は避けられないことは重々承知だが、この国はそれを急ぎすぎ、目指す方向が違っているように思えて仕方ない。いったい彼らは文化や伝統、そして環境というものをどのように考えているのだろうか。
そうした中、シルクロードの一端を歩いてみて、この吐魯番トルファンの葡萄棚の遊歩道は私が中国で見た近代化の開発の中で、もっとも共感し得る計画のひとつであった。
吐魯番はあの名高い桜蘭の遺跡からもっとも近い都である。この中心街に約1kmにわたって、葡萄棚のアーケードがつくられている。中央に人間優先のメインの道路、その両脇に自転車などが走れる側道があり、総じて約30m幅の生活遊歩道であるfig.2fig.3。葡萄は吐魯番の主要な産物。その葡萄によってつくられる空間は、砂漠の中では何よりも心地よく環境に優しい。運動をしながら歩く老人たち、ベンチで本を読む子供たち、人びとのさまざまな使い方を見ると、この国に本当に必要なのは、こうした環境に優しいインフラであるように思えるのだfig.4。また、 この葡萄棚は吐魯番の住民たちが、かつてそうであったように、異国の人たちをやさしく迎え入れる新しいオアシス都市の象徴として、欠かせない存在になるだろう。


■旅のデータ
国・省 中草人民共和国・新蘊ウイグル族自治区
人口 1,747万人
面積 160万km2
省庁 ウルムチ(烏魯木斉)
交通手段 東京から空路(3時間30分)北京へ。北京から空路(3時間40分)ウルムチヘ。ウルムチから列車(2時問15分)で吐魯番駅着。駅から吐魯番市内へは車で約1時間。

(初出:『新建築住宅特集』0507)

中山繁信

1942年栃木県生まれ/1969年法政大学大学院建築学科修士課程修了/1966~67年宮脇檀建築研究室/1969~73年工学院大学伊藤ていじ研究室助手/1974年中山繁信設計室開設/1993年T.E.S.S. 計画研究所に改称/現在、工学院大学建築学科教授、日本大学生産工学部建築学科非常勤講師/主な著書に『すまいの火と水』(共著、彰国社、1984年)、『KATHMANDU』(共著、建築知識、1999年)、『現代に生きる「境内空間」の再発見』(彰国社、2000年)、『実測術』(共著、学芸出版社、2001年)など

    中山繁信
    新建築住宅特集
    旅のチカラ

    RELATED MAGAZINE

    新建築住宅特集 2005年7月号
    続きを読む

    遊歩道の断面図とさまざまな運動をしながら歩く人々の姿。/提供:中山繁信

    葡萄が実るメイン道路。朝方この緑陰はひときわ気持ちがよく、人びとの姿が絶えない。/提供:中山繁信

    遊歩道に入るゲート。中央がメイン道路、両側が自動車のための側道。/提供:中山繁信

    学校へ行く前に、側道のベンチで教科書を広げ、勉強をする子供たち。/提供:中山繁信

    fig. 4

    fig. 1 (拡大)

    fig. 2