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物と身体のふるまいからデザインを考える 第9回:運動感覚要素の発見 ─動きの感覚の15のフラグメント

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

運動共感(人や物の動きを見たときに、観察者が、観察対象の動きを擬似的に感じてしまう現象)を経験する過程において、観察者が感じた身体感覚の言語化は難しく、その具体的な特徴を採取することが最初の課題となる。筆者は試行錯誤の末、前回紹介した、経験した運動共感を自身の身体感覚のメタファーを用いて表現する手法に至った。

こうしたスケッチとアノテーションによる分析を通じて、物の動きに対する運動共感の姿が次第に明らかになる。このように50種を超える物の動きに対して感じられた運動共感を調べるなかで、共通項を特定し「運動感覚要素」(kinaesthetic elements)と名付けた。そして、解剖学や知覚心理学を参照することで15種の運動感覚要素を特定した。これらの要素は一度にすべて特定されるのではなく、一つの要素の特定が、研究者自身(つまり筆者)に新たな視点をもたらし、更なる要素の発見につながるという、有機的で省察的なプロセスを辿る。

上図は、特定した15の運動感覚要素を表している。左側には物体運動、右側には対応する運動共感が生じるような身体運動の一例を図で示したものである。たとえば、左上の「BALANCE」(傾き)の要素を見てみよう。何か物が傾いて倒れそうになっている様子(BALANCEのスケッチの長方形の動き)を観察した時、その動きに対する運動共感はどのようなものなのかというと、傾きが大きくなったり小さくなったりする時の感覚、すなわち身体が倒れそうになったり、バランスを取り戻したりするときのような感覚(BALANCEのスケッチの人型の動き)が一例として挙げられる。

運動感覚要素は、デザイナーに対し動きの新たな観察眼と感性を与える。その新たな感性はいかなるデザインを生み出すのか。次回は、RCAでデザインを専攻する学生および筆者が、この知識を実践へと応用した事例を紹介する。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com