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物と身体のふるまいからデザインを考える 第6回:キネティック・デザインの考察 ---時計を例に挙げて

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

彫刻家であり理論家でもあるジョージ・リッキーは「movement itself」という概念を提唱した。動きを表現手段として用いる彫刻作品において、ただの装飾として動きを施すのではなく、形との一貫性を追求することの重要性を説いた。これは動きの観点から新しいデザインを考える際にも有用な考え方だ。

動きをもった日用品の一つとして、時計を例に挙げる。デジタル式の時計は、数字そのものを液晶などに表示して時刻を示すが、一方でアナログ式の時計は文字盤の上を針が回転し、それらの配置によって時刻を表示している。アナログ式の時計のデザインというと、文字盤の模様や針の形状などの装飾を連想しがちだが、「movement itself」の観点に立つと異なる可能性が見えてくる。

たとえば、ハンシ・チェン(Hanhsi Chen)は「Dislocation」において、時計の針の軸を中心から少しずらすことで、特徴的な動きを生み出した。このずれにより、この壁時計の針のなかに、まるで体操選手が鉄棒につかまってさまざまな技を見せるときのような、特殊なバランス感覚が生まれる。

スタジオ・アヤスカン(Studio Ayaskan)は、文字盤に砂を敷き詰め、時間によって変形する針をその上で回すことによって、日本庭園のような砂模様で時刻を表す時計「Trace」をデザインした。

筆者が制作した「波紋時計」では、時計のそのものとしては、アナログ式の時計の典型的な形を流用している。しかし、陶器の皿でつくられた時計盤の上に秒針の高さと同じ嵩の水を張ることで、秒針が水面を揺すり、毎秒新たな波紋が生まれる。過去に生まれた波紋は次第に弱まるが、それでもなお、新たに生まれる波紋と重なり合い、現在の瞬間に見える波紋模様をつくりだす。時事刻々と重なり合う波紋のなかに、過去の出来事が重なり合い現在の世界を形づくる様子を見出すことができる。

上記のような発想は、一つのオブジェクトにまつわる、動きや形、機能、詩的な効果などの複数の要素を一貫性をもって統合することで可能となる。次回は、上記の運動選手の例にあるような、物の動きにひそむ身体的な感覚に着目し、その歴史と現在の展開について見ていく。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com