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物と身体のふるまいからデザインを考える 第4回:デザインメソッドにおける身体性

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

デザインにおける学術研究の萌芽期ともいえる1950年代、研究者の多くはデザインをある種の科学として捉え、客観性を重視したアプローチをとった。しかし、抽象度の高さや実践からの乖離が原因となり、こうした科学的アプローチは勢いを弱めた。代わりにスケッチやプロトタイピング、ワークショップなど、いわゆる科学的な手法ではなく、デザインにおいて自然に行われる実践を通した研究が試みられた。

さまざまなデザイン手法や研究方法論が生まれるなか、身体の役割についてはどのように考えられたのだろうか。そのきっかけの一つが、1990年代に提唱された「ボディストーミング」と呼ばれる手法である。この名称は、最近でこそビジネス分野でも広く知られるようになった「ブレインストーミング」にちなんでいる。ブレインストーミングが会議室のような環境で活動が終始するのに対し、ボディストーミングでは、デザインの対象となる現場での観察と、可能であればアイディア創出まで行う。対象となる環境に自分の身体を置くことで、問題に対する偏見や考えすぎの状態を避けられる効果がある。ただしプライバシーなどの理由から、実施できる環境が限られるなど制約もある。

近年はインタラクション・デザインという、主に人とデジタル機器の相互作用を扱う分野で身体を重視したアプローチも生まれており、その代表的な例として、スウェーデン王立工科大学のクリスティナ・フック(Kristina Höök)らによる研究が挙げられる。具体的には、デザイナー自身に「フェルデンクライス(Feldenkrais)」と呼ばれる非常にゆっくりとした動きのエクササイズを体験させ、その中で生まれる新たな身体感覚をたよりに人と機械のインタラクションについてデザインを行う。しかし、フック自身の専門性を反映してか、デザインに関する発想が技術者的な視点に制限されている点が見受けられる。

Designing with the Body – Somaesthetic Interaction Design, Kristina Höök – School of Electrical Engineering and Computer Science, KTH:KTH Media Productionより転載

本連載のテーマである「物と人間のふるまい」についてさらに考えるにあたり、最近のコンピュータ・サイエンス的実践よりはむしろ、キネティック・アートの歴史の中で培われた知見をとりあげたい。次週は、やや埃をかぶった文献から、キネティック・アートの実践者や理論家たちが提供する動きの美学について、厳しくも示唆に富んだ知見をいくつか紹介する。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com