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物と身体のふるまいからデザインを考える 第2回:物の動きに共感する身体

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

秒針のチクタク、ファンの回転、自動ドアの開閉など、身の回りの人工物の動きの多くは、何らかの機能を達成するために施されている。一方で、その動きが硬さや柔らかさ、重さや軽さといったさまざまな美的・身体的感覚を見る者にもたらすのも事実である。こうした動きの質感に着目することで、われわれの身体に呼応するような、新しい動きのデザインの可能性が広がる。

人や物の運動を見たときに、観察者自身が体を動かしていないにもかかわらず、見た動きを擬似的に感じる現象は、運動共感(kinaesthetic empathy)と呼ばれている。他者の身体運動に対する運動共感の調査は多いものの、物の動きに対するそれについては研究例が少ない。しかし、動きのデザインを考えるうえで知りたいのは、まさにこの領域だ。物の動きに対して運動共感はどうはたらくのか。

ヒントの少ないこの問いを考えるのに役立つのは、「キネティック・スカルプチャー」と呼ばれる、1世紀ほど昔から始まったジャンルの動きをともなう彫刻作品だ。たとえば、アレクサンダー・カルダー(Alexander Calder)やレン・ライ(Len Lye)の彫刻の動きを見ると、その節々に、見覚えならぬ「感じ覚え」のあるふるまいが見えてくるだろう。

Alexander Calder at Tate Modern on The Art Channel:The Art Channelより転載

Len Lye Centre Concept 2012:Govett-Brewster Art Galleryより転載

下の映像は、筆者とアーティストの小松宏誠が2014年より共同で制作を続けている、気泡の浮力によって動く彫刻作品「PUWANTS」である。「プワン」という泡の出る様子と、植物(Plants=プランツ)を組み合わせて名付けた。大阪の万博記念公園内にあるミュージアム「ニフレル」とのコラボレーションをきっかけに、魚たちの多様な泳ぎ方に応える、いろいろな形とふるまいのPUWANTSを制作した。このPET素材でできた作品は人間の体とまったく異なる構造をもつにもかかわらず、浮き上がったり沈んだり、伸びたり倒れたりする様子に対して、どこかで感じたことのある身体感覚を投影してしまう。

Puwants × Nifrel:筆者YouTubeチャンネルより転載

物の動きに対する運動共感は、このように美術表現としても可能性のある現象だが、これがいかにデザインに役立つかたちへと昇華するのか。次週は、デザイン・リサーチの知恵を借りて、創造的な実践を通した研究のあり方について考える。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com