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物と身体のふるまいからデザインを考える 第11回: デザイン教育方法論への展開 ─歴史的レファレンスと現代の例、そして未来

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

前回までに紹介したような運動共感を使った新たなデザイン手法は、デザイン教育論の歴史のなかにどのように位置付けられるのだろうか。そして、デザイナーが運動共感に関するデザイン手法を会得したいと考える場合、どのような方法論が新たに考えられるだろうか。

モダンデザインおよびその教育のルーツであるバウハウス(1919年に設立)においては、身体感覚を重視した教育が行われた。たとえば、ヨハネス・イッテン(Johannes Itten)は生徒とまず体操を行い、そのなかで生まれる身体運動とその感覚を数々の造形実験に発展させた。また、音楽教師であるゲルトルート・グルノウ(Gertrud Grunow)の授業では、音楽に合わせて踊ることで、音と色彩と形のバランスの身体的な会得を促した。物の動きに特化したデザイン論こそ確立されてはいなかったが、運動共感に通ずるアプローチはこの時からすでに現れていたといえる。

自身の身体を主に用いる体操と異なり、道具や環境を使って身体感覚を育てるものの例としては、ドイツ人の哲学者、アーティスト、そして教育者であるヒューゴ・キューケルハウス(Hugo Kükelhaus)によるインスタレーションが挙げられる。これは、デザイン教育に特化しているというよりは、人間のもつさまざまな感覚を刺激し、育成するための場として(たとえば、渦を体験する装置、音波を見るための装置、振動を感じるための部屋などが)制作された。現在は、ドイツ・ヴィースバーデンにあるシュロス・フロイデンベルグ(Schloß Freudenberg)というさまざまな体験を通じた教育のための施設に、数々の装置が集約されている。

現時点で、運動共感とデザインについて学ぶためのツールは、前々回に紹介した運動感覚要素のようなフレームワークが主であるが、キューケルハウスが制作した身体スケールの感性開拓ツールのように、身体に直接働きかけるようなものを組み合わせることで、更に豊かな探索が実現されるかもしれない。

さて、最終回となる次回は、物と身体のふるまい、デザインに関する研究を通じて、その先にどのような世界が見えるのか、筆者の現在の取組みを交えながら考えたい。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com