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物と身体のふるまいからデザインを考える 第10回: 人形劇師とのコラボレーションで動きの機微を探索する

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)

人や物の動きを見たときに、観察者が、観察対象の動きを擬似的に感じてしまう現象は「運動共感」と呼ばれる。運動共感というレンズを通して見ると、物の動きのデザインに関して、新たな視点が生まれる。

前回紹介した「運動感覚要素」(kinaesthetic elements)は、新しい動きを備えた人工物をデザインする際に有用な手がかりとなる。デザインへの応用性を検討するプロジェクトとして、筆者はロイヤルカレッジオブアート(RCA)でデザインを専攻する学生と、運動感覚要素を参考に新たなプロダクトなどの身の回りの人工物に関してコンセプトデザインを行った。

動きを伴う人工物を試作する際、モーターやバッテリーを組み合わせることで、自律的に動作するプロトタイプがつくられることが多い。しかし、思い描いた動きを機械模型によって再現することは容易ではない。特に動きの微妙なニュアンスを高い精度で再現することは非常に難しく、またコストもかかってしまう。更にリスクとなるのは、デザイナーの発想が、機械でできることに制限されてしまい、当初のアイディアが徐々に妥協されていってしまうことである。機械には機械のリズムや得意な動きがあり、それは必ずしもデザイナーがつくりたい動きと結びつくわけではない。

このリスクを回避し、より柔軟で探索的なアプローチを可能にするため、筆者は人形劇師とのコラボレーションを行い、日常的なオブジェクトの代替的な動きを模索した。次の映像はRCAの3人のデザイナーおよび筆者が、ロンドンを拠点に活動する人形劇師レイチェル・ウォー(Rachel Warr)とのコラボレーションによって制作したものである。プロダクトデザインにおいて人形劇の手法を応用する例は多くないが、計七つの日用品などのコンセプトデザインを行い、人形劇の手法によってそれらの想像段階の動きを可視化した。

Kinaesthetic Design Project. Kensho Miyoshi.

次回は、デザイン教育の歴史における身体性の役割を参考に、上記のような運動共感を使った新たなデザイン手法の教育的展開について考える。

三好賢聖/日本学術振興会特別研究員PD(慶應義塾大学訪問研究員)
兵庫県生まれ。デザイナー、研究者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程を修了後、2015年に渡英。2019年英国ロイヤルカレッジオブアート(RCA)にてPhDを修了。建築・デザイン系出版社Birkhäuser(スイス)より、博士論文を基とした単著学術書『Designing Objects in Motion: Exploring Kinaesthetic Empathy』を出版予定(2020年12月)。「詩的好奇心」をテーマとする実験的デザインユニットStudio POETIC CURIOSITYを共同主宰。
筆者ウェブサイト:miyoshikensho.com