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都市とテクノロジー 第7回:建築・都市計画・まちづくりとビッグデータが学べる大学について

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

筆者は自身のブログやTwitterを通してスペインの大学や就職の現状についてことあるごとに書いてきた。*それらを要約すると、スペインの大学には日本やアメリカのようなピラミッド構造が存在せず、大学は偏差値で選ぶのではなく、家からの距離で選ぶ。つまり近いかどうかが決定的な要因だ。家族や友人と離れてまで大学に通う意味が本当にあるのかと問うのが、スペイン人の価値観だからだ。

とくに人間味溢れるバルセロナで建築・都市計画を学ぼうと思ったらカタルーニャ工科大学(Universitat Politècnica de Catalunya)の建築学部ETSAB(Escola Tecnica Superior d’Arquitectura de Barcelona)が王道だろう。エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)やイグナシ・デ・ソラ=モラレス(Ignasi de Solà-Morales)をはじめ、世界的に活躍する建築家を多数輩出してきた歴史がある。いっぽうで、人工知能やビッグデータを都市の文脈で扱っているのは新興勢力のカタルーニャ先進建築大学院大学IAAC(Institute for Advanced Architecture of Catalonia)だ。正式な学位こそ与えていないが、Smart Citizen Kitで有名なファブラボ・バルセロナ(Fab Lab Barcelona)などを擁している。

IAAC紹介動画

一方、筆者が一時期を過ごしたアメリカ東海岸に目を向けると、バルセロナ出身の建築家ホセ・ルイ・セルト(Josep Lluís Sert)が学部長を勤めたハーバード大学デザイン大学院(GSD)がある。余談ながら当時の筆者はGSDから徒歩5分のところに住んでおり、GSDでおこなわれるナイト・レクチャーを聴きに行っては、近くのバーで親しい友人たちと建築話に華を咲かせたものだ。東海岸にはほかにも、工学系最高峰と称されるマサチューセッツ工科大学(MIT)があるが、不思議なことにMITの建築スクールの教育について日本では驚くほど知られていない。筆者が知る限り、ここ数年は日本人留学生は1人も来ていないのが実情だ。しかしいま、MITの建築学部で建築・都市計画・まちづくりにサイエンスをもち込もうという壮大な実験が始まろうとしている。

MIT Urban Studies + Planning紹介動画

ケヴィン・リンチ(Kevin Lynch)が教鞭をとったMIT都市計画学部(Urban Studies + Planning)が中心となり、同校のコンピュータ・サイエンス学部(Electrical Engineering & Computer Science)と協働することで、2019年秋学期から学部生向けにUrban Sciencesという学位を与え始めた。その背景には、都市をサイエンスで理解できる人材を育てていこうという目的とともに、スマートシティやAI×都市の領域においては今後も世界一の座を担っていくというMITの気概が感じられる。

このような動きを受け、筆者は東京にAI、ビッグデータ、建築・都市計画・まちづくりを網羅する世界的な研究拠点をつくるために帰国した。来週からは我々がなにをやっているのか、どこへ向かおうとしているのかを具体的なプロジェクトを通して紹介していくこととする。

吉村有司/東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
愛知県生まれ、建築家。2001年より渡西。ポンペウ・ファブラ大学情報通信工学部博士課程修了。バルセロナ都市生態学庁、カタルーニャ先進交通センター、マサチューセッツ工科大学研究員などを経て2019年より現職、ルーヴル美術館アドバイザーを兼任。主なプロジェクトに、バルセロナ市グラシア地区歩行者計画、Bluetoothセンサーを用いたルーヴル美術館来館者調査、機械の眼から見た建築デザインの分類手法の提案など、ビックデータやAIを用いた建築・まちづくりの分野に従事。「地中海ブログ」で、ヨーロッパの社会や文化について発信している。